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創作

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1人でも多く読んで貰いたいので頑張ります。 1年で短編50本チャレンジ中
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2020年5月の記事一覧

ホンジツハ、セイテンナリ!

ホンジツハ、セイテンナリ!

「ホンジツハ、セイテンナリ!」

全身から流れる汗と共に飛び起きた。

自分の寝言に驚いて起きたことに気が付くと、
「夢か…」と独り言を呟いた。

それくらい現実味を帯びた夢だった。

しかし夢とは不思議なものである。

これだけ心臓を揺らがせておきながら、
歯を磨く頃には内容をすっかり忘れていた。

覚えているのは、
川本大輔という小学校時代の同級生が
突然出てきたことくらいだった。

透自身、

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珈琲屋は夢を作る

珈琲屋は夢を作る

前回のストーリー
https://note.com/konomihiyoko/n/n1d04038cb7b6

階段を降りるにつれて、
香ばしい珈琲の香りがだんだんと強まってきた。

扉などの仕切りはなく、
そのまま店になっている為
既に客が居ないことまで
把握出来てしまった。

このままでは、
あの男と1対1になってしまう。

時間帯と建物の雰囲気から
おじいちゃんが新聞を読んでいたり、
マダ

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失くし物の見つけ方

失くし物の見つけ方

見つからない。

滑り台の下も、土管の中までも見た。

だけど見つからなかった。

昨日確かに私の指輪は

丸を描いて
自宅の目の前にある公園へ飛んで行ったのだ。

昨日の夜。

私は康介に別れを告げられた。

突然のことで、私はただ
「え、なんで?」

とただ真っ直ぐに
見つめることしか出来なかった。

康介はそっと机の上に合鍵を置いた。

「お互い気付いてただろ。
ただ失うのが怖くて口にしなか

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それから。。

それから。。

前より少し広くなったベランダで、
タバコを蒸した。

まだ陽が落ち切っていない街を
ぼんやりと見ながら
夏が近づいていることに気が付いた。

街はまだ俺を余所者だと思っている。

目の前のマンションも
斜め向かいの古いビルも
余所余所しくこちらを向いていた。

俺はスマホを取り出して、
上倉隆一の『独りよがり』を小さく流した。

この時間が、1番好きだ。

2ヶ月前、東京の本社から
田舎の支社へ転

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シベリアンハスキーは沈黙を貫く

シベリアンハスキーは沈黙を貫く

「悪く思うなよ」

ペンキで塗装したばかりの
シンナーの匂いがする。

無機質で何もない倉庫の中、
暴れている俺を
大きな男が2人掛かりで
制しているところだった。

1人はそこまで気が強そうな男では無かったが、
俺を縄で縛るには充分な力強さがあった。

ジャージでだらしない格好のまま、
口を塞がれた俺は

縄を持った男を「坊主」
ガムテープで口を封じた男を「グラサン」
と名付けた。

坊主は俺を

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最期の寝顔は希望に満ちる

最期の寝顔は希望に満ちる

バタバタとしていた部屋も静かになった。

医者は寝ている彼女の横で立ち尽くしていたが、
しばらくして小さなチェアーを
側に置き直し座った。

こんな小さな村では、
これ以上この女性を
楽にしてあげる方法も無かった。

「せめて娘さんが間に合えば良いんだが…」

医者は腕時計と女性を交互に見た。

止めどなく雪が降り続いている。

夜になってしまってからは
白い地面に真っ暗な夜空が相まって
その中を

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古着屋はいつも夢を食べる

古着屋はいつも夢を食べる

前回のストーリー
https://note.com/konomihiyoko/n/n50c3b96d547d

今日は晴れていた。
それから会社も休みで
自転車の空気も入れ直した。

あの日思い付いた
沢山の言い訳を全部消してしまうまで
1ヶ月も掛かってしまった。

私は今、
件の古着屋の前に居た。

古着屋は、縦長のビルに並んでいて
建物の1階にあった。

1階は店になっていて、
それから上は

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君のポケットの中のキャンディ

君のポケットの中のキャンディ

生まれて初めて一目惚れしたのは、
大学近くの古びた本屋だった。

そこには皆参考書や
授業に必要な教科書を買いに行くのだが、
一人暮らしを初めて間も無い俺は
暇を持て余して文庫本コーナーへ寄った。

実家の近くにあった本屋は
一目で出版社や著者名が分かるように、
まるで運動会の行進のように
ピッシリと整列していた。

この店は、文庫本コーナーに
需要が無いことが分かっているようだ。

とり

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ジョーカーは微笑んでいる

ジョーカーは微笑んでいる

ジョーカーが手元に回ってきた。

このときの心情を例えるなら、
どうだろう。

兄ちゃんが使ってるライターを手に取り
誰にも見られないように火を付けた
あの時の感情に似てないかい?

ただ、今の俺にはそれが比にならない程
大きく鼓動が打ち続けていた。

観客は5人。

皆ニヤニヤしながらこちらを見つめている。

「はぁーい、河野と夢ちゃんの一騎討ち!」

この鼓動は、
ジョーカ

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古びた自転車は夢を壊す

古びた自転車は夢を壊す

ずっと不思議に思っていた。

私の身体より細い二輪の自転車が
何故私を支え、前に進むことが出来るのか。

こんな筈じゃ無かった。

18000円の自転車を買って、
雨の日も電車代をケチって
カッパを着ながら出勤して。

こんな筈じゃ無かった。

私はスーツなんて、
一生着ないと思っていたのに。

朝。

どんよりとした曇り空。

私はほんの小さな段差で躓いて

自転車ごと転けた。

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裏か表か、大人かネコか

裏か表か、大人かネコか

みなさんは、
神隠しにあったことはありますか?

私は今、小学5年生にして
初めてその事象に直面してしまったわけです。

事の発端は、学校の帰り道。
周平くんと2人でお話ししながら
帰路に着いていたときでした。

彼は同じマンションに住む為、
よく帰路を共にしました。

母はどうやら
周平くんのことを
あまり良く思っていないようでしたが、

「まあ、周平くんに罪はないしね」
と、咳払い

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タイムカプセルは絶対に掘り返せない

タイムカプセルは絶対に掘り返せない

彼女から貰った最後のプレゼントはアイスクリームだった。

別れの朝、大きくて透明なタッパーに詰めたアイスを机にドンと置いて、彼女は何も言わずに去った。

まだ少し肌寒い季節ではあったが、彼女がアイスクリームを差し出すことは、何ら不思議では無かった。

俺は彼女に背を向けたまま、ぼんやりとアイスを見つめることしか出来なかった。

アイスクリームが溶け始めた時、ようやく我に返って玄関へ振り返っ

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