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古着屋はいつも夢を食べる


前回のストーリー
https://note.com/konomihiyoko/n/n50c3b96d547d



今日は晴れていた。
それから会社も休みで
自転車の空気も入れ直した。

あの日思い付いた
沢山の言い訳を全部消してしまうまで
1ヶ月も掛かってしまった。


私は今、
件の古着屋の前に居た。


古着屋は、縦長のビルに並んでいて
建物の1階にあった。


1階は店になっていて、
それから上はアパートになっているようだった。

アパートの階段は、
店のすぐ隣にあった。


上り下りすれば音ですぐ分かるような、
古めかしい階段だった。


店員にバレる前に中を覗きたい。


店の前にはビルを小さくしたような
縦長の大きな看板で
太いペンキが塗られていた。


『古着と珈琲の店』


名前は付いていなかった。


チラッと店内を覗くと
カラフルな服が沢山並んでいた。

少しアジアンちっくなワンピースもあれば
シンプルなブラウスも見える。

特にこだわったコンセプトは無さそうだった。

外から覗くだけでは
何もヒントが得られない。

窓には店員さんオススメの
独特なセーターが飾られているし

天井にも幾多の服が飾られていた。

古着屋はまだ良いとして、
珈琲屋に関しては『コ』の字も見えない。


体感にして実に30分ほどウロウロとしていると、
袋を持った若い女性が1人、
店から出てくるのを見た。

私と似たような
シンプルで無難な服を着ていた。


ホッとした私は
意を決して、足を踏み入れた。

おばあちゃん家のタンスを
開いたときと同じ匂いがした。


入り口すぐ左には
シルバーを基調とした小物が
古い金色の皿に乗って置かれている。

メンズの服もチラホラ飾られていたので、
広さの割には
男女共に需要を計った店のようだ。

ハンガーラックに掛かった服を
何気なく見てみた。

あまり興味を示すと店員さんに
声を掛けられても厄介なので、
流し見程度で店内の様子を伺うつもりだった。


左端に、ドレスのコーナーがあった。


結婚式に列席できるような
フォーマルなものから、

胸元や足元に切れ目が入った
衣装と呼ばれるものまで。


自分の鼓動を意識したのは久々だった。


派手な黄緑のショート丈ドレス。


胸元はざっくりと空いてるわけではないが
ゆるやかに、少し広めになっている。

ボディファンデーションをインナーに着て
それから白のピンヒールを履いて
つま先まで高く足を上げる

ピンヒールは勿論動きづらいが
床につく瞬間の音が可愛くて堪らないのだ。


こうやって、
昔の夢をぼんやりと
思い出す時間は、
最高にときめく。



「あんたそれ買うの?」

黄緑のワンピースを見つめていた私に
気付いた店員さんが、声をかけた。

店員さんは、思っていたよりも
年を召していた。

紫がかった髪の毛には
ふわふわのパーマを掛けていて
タバコがよく似合いそうな
女性だった。

赤いシャツには
大きな紫のボタンが付いている。


少し羨ましいと思った。


「いえ、私は…」

珈琲を飲みに来たんです。

そう言いながら値札をチラッと見ると

『¥3,000』と殴り書きがしてあった。

「やすっ!」

思わず声に出してしまい
慌てて振り返ると
紫髪のおばさんはまだ私を見ていた。


愛想が悪いが、
親しみやすい雰囲気を持っている。



「あんた、珈琲を飲みに来たんだろ。
じゃ、こっちが先だ。」


よもや親指で指示されると思わず
固まってしまった私だったが、
指している方向を見つめ返すと
半分地下になっている部屋があった。


私は小さく会釈をして、
いよいよ目当ての店へ足を踏み入れるべく
階段を降りた。


途中で振り返ってみたが、
古着屋はちゃんとあった。

化かされてはいないようである。


今度は振り返らずに、
静かに階段を降りた。


鼓動はまだ、
激しく鳴り続けていた。




挿し絵提供:みゃーむょん
https://instagram.com/wimwim_1616?igshid=1udpwncms5qrc

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