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5/11 「僕らは不完全だから、許し合わないとね」

土台、無理な話だ。

僕の人間関係が苦手な理由は、人を許せないことにある。

もう、全てこの一言に尽きる。


嫌いなことが多すぎる。

そして何より、許せないことが多すぎる。


彼女はちょっと甘やかすとすぐ調子に乗って、態度が雑になる。

友達は僕の話を聴いてくれない。

見知らぬ人などもっと無理だ。
狭い道ですれ違う時、道を譲らない無神経なやつの頭に膝をくらわせたくなる。


極めつけは家族だ。
一番許せない人間は家族の中にいる。

僕は母親を許すことが出来ない。




今まで母を憎んでいたこと、中学のときに何も言わず失踪して半年たって帰ってきた時、僕が母に対して演技していたこと。
去年の1月に、今まで鬱屈としていた思いを初めて本人にぶちまけた。

「なんでこんな苦しいことを俺からいつも言わなきゃいけないんだ」
僕はそう言った。

ばあちゃんの痴呆が進んだ時に、手遅れになる前に最初で最後の家族写真を撮ろうと言って東京から集合をかけたのも俺だ。

兄と姉は父に怒鳴られ叩かれ、歯向かったことがない。家族のグループラインを作って初めて親へ直接小さい頃の恨みを言う機会を持ったのも俺だ。

話し合いの場を持とうと発案したのも、対話がないからこの家族は全員おかしくなったんだと説いたのも全部俺だ。

俺は何も精神的な土台がぐちゃぐちゃのまま15歳で親元を離れここまで一人で生きてきて、全部自分で決めてきて、僕は心底疲れた。

だから、自分から傾聴しに行く姿勢を見せろよ。
お前から進んで子供の話を聞けよ。
「どうしたの。何があったの」とお前から聞けよ。
いい加減能動的に子供と関われよ。


30も前にして甘えたことを言っている自覚はある。
でも、これが中学生の時に言えなかったわがままな感情なんだ。

こんな大人になって、情けないと思いながらも勇気を振り絞って母に伝えた。


それがもう1年以上前になる。

母は謝るばかりで、何も動かなかった。




ショックを受けた。
言いたいことも全部言った。
出来る手は全部打った。
これ以上、母と距離が近づくことはない。

これだけ対話の場を設けて駄目なら、もう駄目だろ。
母は、僕に何もしてくれない。
頼りにならない人を、頼ってはいけない。

僕は、親を諦めた。




せめて、僕の恨みだけ届いて欲しい。


お前がもう今後僕に影響を与えることは一切ないのだと。
母が死んでも、何も感じぬように。
涙一つ流さぬように。

今後母が僕の人生に必要のない存在であることを証明する為に

あいつを心の中で殺さなければいけない。
殺すなら早い方が良い。
僕の人生の為に。

母は交通事故で死ぬ。

それでいい。
あいつはいないほうがいい。
あいつは僕を助けてはくれないのだから。

元からあいつを殺していれば、あいつが死んでも何も影響は受けない。

関わるのはもうよそう。
ミラーニューロンで、繋がるのはもうやめよう。

実際、十分に起こりえることだ。
それを想定した世界の方が僕は生きやすくなる。
あいつが残した呪縛から、俺は逃げ切ってやる。
葬式には行かない。
より家族から離れる為に。

僕が一番しんどい思いをしている時に僕を見捨てたことを僕は心の底から恨んでいるし

いつまでたっても口先だけで僕と向き合うことが出来ない臆病なところに心の底からウンザリしている。


今後母が僕の人生に必要のない存在であることを証明する為に、僕は僕の世界を作らなきゃいけない。

僕の好きな人と、僕のことが好きな人で溢れた世界を。
その世界に母をいれさせはしない。
あいつのいない世界で、僕は幸せにならなくちゃならない。





確かに少年期までは、母は僕に沢山の温もりをくれた。
ずっと僕に触ってくれていた。

あの温もりが突然なくなったから、僕は人肌を求めて彷徨うのだ。
寂しくて、オキシトシンを感じたくて。
性欲じゃない。
本来、性欲なんかじゃないんだ。

いやそれは言い過ぎた。




母が死ぬ。


もうあの声で僕の名前を呼ぶことはない。

愛する子供を呼ぶ声。

僕のことを、想う声。


あの声はもう、二度と聞けなくなる。



もう二度と。

あの声で。



ぼくのなまえを。





母は僕を愛してくれていた。

それは確かに、僕の中に残っていた。




もう僕の名前を


呼んでくれないのか



それはちょっと

悲しいかもな




そう僕が零すと、

「みんな、不完全だからね。」


僕が東京の母と呼んでいるその人が上を向きながら、なぜか僕よりも泣きながらそう言った。


2人の子供をバカみたいに健康に育て上げた鉄人は、母の思いを汲み取ったのだろう。


「親はね、子供に嫌われるとどうしていいかわからなくなるの。何が正解か、何が不正解かが分からなくて不安で、受け身になっちゃうの。」


子供から引くほど好かれている彼女には説得力があるのかないのか分からないが、たしかにうちの親はそんな感じだ。




母は僕に対して無関心になった訳でも、理解を諦めた訳でも無い。
ただ、僕の地雷を踏むのが怖くて怯えているだけだ。

俺は、「来い」と言ったのに。


それでもあちらからなんのアクションもないことにひどく失望した。

もう両親は還暦過ぎている。

そんな歳の人間が今更変わることはない。
だから、僕は親を諦めた。



そう思っている。





そう思っていないと、いつまでも囚われてしまう。


愛されていたことを思い出してしまっては、あいつらにとって容量オーバーのことを、僕は要求してしまう。

結局その望みが叶うことはなく、苦しくなるのは結局僕だ。
だから、僕は母を殺さなければならない。

母のいない世界を生きるしかない。
そう思わないと、苦しくて仕方がない。




母のことを不完全だと許すことは、母が僕を愛していた事実がなければ無理なのだろう。

そうでなくても、僕は人を許すことが何よりも苦手なのだ。

それでも、僕だって許されてきたからここまで生きている。
僕は自分が誰よりも不完全なことを知っているから、
「俺程度の人間が出来ることくらい、テメェらちゃんとやれよ」と他人に厳しくなってしまう。

僕を愛してくれている人でさえも。
一番身近な人間はおろか、自分のことすら許すことが出来ない。

不完全が許せないから、完璧主義になって、人間として完全になろうとする。

僕がもっと出来た人間であれば、母は僕を見捨てなかったし
父は僕を怒らなかった。

どこまで行ったって、完璧になることなんて有り得ないのに。



悪いものなんてない
悪いものなんてない
この世にあるのは
いいものばかりにきまってる

玉置浩二の歌のように、僕らは都合の良い世界を望む。


僕らは不完全だよな。
不完全なら、

許し合うしか、ないんだよな。

それ以外ないんだよな。



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