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ほっこりエッセイ読本

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エッセイって何なんでしょう?最近エッセイにほっこりさせられることが増えてきました。 たくさんのエッセイストの方々のエッセイの中から心に止まったことを、徒然に綴っていきます。
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#書評

時間とは? 〜ミヒャエル・エンデ「モモ」より

時間とは? 〜ミヒャエル・エンデ「モモ」より

 秋の連続ドラマ「35歳の少女」というドラマは、小学生の時交通事故にあった少女がずっと昏睡状態となり、35歳になった時に目覚めるというお話で、心は小学生のまま、身体だけが35歳の状態の主人公が色々な人々との交流を通して、精神的に大人になっていくと同時に、主人公の周囲の人間も忘れていた純粋さなどを取り戻していくというストーリーです。

 さて、今回はこのドラマの中で、主人公が事故に遭う前に借りていた

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書道ガール 〜赤染晶子

書道ガール 〜赤染晶子

人は皆、書く文字にそれぞれ癖があります。右上がりだったり、細長い字だったり、ハネが極端だったり。私は、文字にはそれを書いた人の性格が現れると思っています。雑誌の占いや性格診断で、文字についてのそれがあると必ずやってみますが、だいたい合っている気がします。

 さて、赤染晶子さんの「書道ガール」というエッセイは、書道をしているお母様について書いたものです。
 お母様の書道の先生がある時、雅号を付けて

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馬が教えること 〜松井今朝子

馬が教えること 〜松井今朝子

この前、京王線新宿駅構内で馬を見かけてびっくりしました。JRAの啓発イベントの一つで、いたのは競馬馬だと思います。少し足踏みをしていましたが、あんな人の多い場所でも大人しくしている馬に敬意すら覚えました。

 さて、今回は松井今朝子さんの「馬が教えること」というエッセイを取り上げたいと思います。
 松井さんは数年前から乗馬を始められたそう。乗馬愛好者は確実に増えていると言います。確かに私の同僚にも

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揚げ饅頭 〜「ひとくちの甘能」酒井順子

揚げ饅頭 〜「ひとくちの甘能」酒井順子

揚げ饅頭と言えば、私は浅草の浅草寺の仲店の揚げ饅頭屋さんを思い浮かべます。目の前の屋台で揚げ立てのお饅頭を、紙袋に油の沁みが広がってくるのを焦りつつ、ふうふう言いながら食べる幸せは、確かに堪えられないものがあります。

どうして揚げ饅頭はこんなに美味しいのか。酒井順子さんは「ひとくちの甘能」の中でその理由について、こう考察しています。

糖分と脂肪分が渾然一体となった時に初めて生まれる、美味しさ。

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鯛焼き 〜「ひとくちの甘能」酒井順子

鯛焼き 〜「ひとくちの甘能」酒井順子

皆さんの鯛焼きについてのこだわりポイントは、一体どんなところでしょうか。人それぞれ違うとは思いますが、酒井順子さんが「ひとくちの甘能」の中で述べているのは、「鯛焼きの尻尾の先まであんこがきっちり入っているかどうか」ということだそうです。中央部分にしかあんこが入っておらず、頭の部分と尻尾の部分はスカスカ。そんな鯛焼きが結構多いので、あんこがみっちり入っているとそれだけで僥倖なのだそうな。

さて、鯛

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エクレア 〜「ひとくちの甘能」酒井順子

エクレア 〜「ひとくちの甘能」酒井順子

皆さんは、シュークリーム派ですか?それともエクレア派ですか?

そんなこと聞かれても、「はて?」という感じでしょうが、酒井順子さんは「ひとくちの甘能」の中で、シュークリームとエクレアを比較してなかなか面白いことを書いています。

簡単に言うと、シュークリームはクリームを味わうための素直でプレーンなお菓子であるのに対して、エクレアはクリームだけではなく、苦さも欲しいと思う人の欲求を満たすひねくれたお

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チーズケーキ 〜「ひとくちの甘能」酒井順子

チーズケーキ 〜「ひとくちの甘能」酒井順子

一般的に定番と言われるメニューの品というのは、店が違ってもある程度の範囲内の同じ味にまとまっていると思っている方は多いと思います。

しかし、それは実は誤解であり、店によって、定番メニューも全く味が違うということを酒井順子さんはチーズケーキを例に書いています。

酒井さんは、チーズケーキが大好きなのだそうで、だから微妙な違いにも色々とコメントをしたくなる様子。ですが、私は反対にチーズが嫌いなので、

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ひとくちの甘能 〜酒井順子

ひとくちの甘能 〜酒井順子

年末年始の休暇に突入した方も多いのではないでしょうか。私もその一人です。

絶対に仕事始めまでは、仕事のことは考えない、好きなことだけすると誓った私が、この休暇中に読むために選んだエッセイ本は、酒井順子さんの「ひとくちの甘能」(角川書店)です。この本から、数編を取り上げていきたいと思います。

私はスイーツ、いわゆる甘いものが大好きです。でも、なぜ甘いものが好きなのか、深く考えたことはありませんで

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非生産的逃避 〜角田光代

非生産的逃避 〜角田光代

新しい年を迎えるに当たって、大掃除をする人も多いと思います。
でも大掃除って、「さあ、やりますか」と自分に掛け声を掛けても、なかなか腰が上がらないもの。普段の掃除は掃除機をチャチャっとかけて終えるのですが、大掃除ともなれば、普段は時間がなくて出来なかったあそこやら、ここやらに手を入れないと意味がない気がして、非常にそれが面倒なのもわかっているので、気が進まないのです。

そんなスタート時点のハード

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心の遠近も 微妙な差 〜穂村弘

心の遠近も 微妙な差 〜穂村弘

穂村弘さんは歌人ですが、書かれるエッセイもとても面白く、お気に入りのエッセイストの一人です。面白い理由は、歌人に必要な鋭い観察眼や言葉の選択の感覚を、長い文章を書く際にも存分に発揮されているからだと思います。
特に、穂村さんは私は極端に内向的な感覚をお持ちだなあ、それがもはや変人のレベルだなあと思うことがあります。しかしその内向的な感覚から指摘される事柄は、皆がどこかで気にしている事柄でもあるので

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若者たちへ 〜塩野七生

若者たちへ 〜塩野七生

今回ご紹介するのは、塩野七生さんの「若者たちへ」というエッセイです。

「自分の人生は、どうせこの程度だから」なんてシラけつつも、心の中では「こんな人生で終わるはずじゃないのに」とモラトリアムな時間をどうにか貰ってもがく。それはある意味いつの時代の若者も同じではないでしょうか。

塩野さんは、サッカーワールドカップで日本チームが予選突破した際の若者たちの熱狂に、シラケ世代がシラケの下に隠す本音を見

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喋るばかりが能じゃない 〜立川談四楼

喋るばかりが能じゃない 〜立川談四楼

エッセイは、日常生活の中での体験話をベースにした軽く読める文章で、読んだ後に「そうだよなあ」と読者が作者の考えに共感できるようなものだと思います。

ただ、こういう文章をサラリと書くのもなかなか簡単ではありません。どうしたら書けるのか、まずは日常生活を送る上でアンテナを高く持つこと。あともう一つ大事なのは、自分らしさ、自分のカラー、考え方をどんな些細な出来事に対しても持ち続けるということかもしれま

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