KadoyaJPN

人生の半分を海外で暮らしてしまっています。そして何の因果か、気がつけば16年も日本語を…

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人生の半分を海外で暮らしてしまっています。そして何の因果か、気がつけば16年も日本語を教えています。毎日、それなりに頭を使って楽しんでますが、やりたいことが多すぎる困ったジジイです。

マガジン

  • パラレル多言語ワールド

    ベルギー生活の中で感じた言語にまつわる思いつきを独白してみます。

  • ふりむけば日本語

    ひょんなことから日本語を教えるようになって、はや15年が経ちました。素人日本語教師が「日本語を教える」ことに社会的な意義を見出すまでになった記録です。

  • ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語〜

    かつてノルウェーを旅した時の経験を基に書き上げた創作小説です。読んでいただければ嬉しいです。

記事一覧

文法学習は悪玉なのか?

半年以上を経過しましたが Duolingoを始めて220日を越えました。これまでにも人生でいろいろな言語をかじってみてきており、ざっと思い起こせるだけで英語・…

KadoyaJPN
5か月前
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日本語教師と外国語学習の関係について考えてみる

日本語学習って、外国人にとってハードルの高さってどのぐらいのもんなんだろう? 日々、そんなことを考えています。自分もいろいろな外国語を学びましたが、ほぼ西欧言語…

KadoyaJPN
11か月前
6

3.母語発見の日々

ぶっつけ本番 何度も書くが、自分は日本語講師としては全くの素人だ。専門教育を受け、特別な資格を持っていたわけではなく、ただベルギーで教員になるための要件を備えて…

KadoyaJPN
1年前
1

Duolingoという教材 -ノルウェー語とフランス語と・・・ちょこっとギリシャ語-

最近、Duolingoを使い始めました。かれこれ一ヶ月近くになるでしょうか。日本語学習者に限らず、「Duolingoで勉強し始めました!」というのをよく耳にするので、どんなもの…

KadoyaJPN
1年前
6

2.素人日本語教師がやってきた

海外で仕事を得るということ 現在、日本語教員養成のための講座が各種あり、その能力を証明する試験なりもあるそうだ。同時に、海外で日本語を教えることを夢見ている若い…

KadoyaJPN
1年前
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ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語14〜

十四 沈黙にかかる橋を包み込むように、持ち主不明の光源が無数浮遊していた。一瞬の風が幾度となく、両耳をかすめては消えていった。微かに起こる抑揚のある小さなノイズ…

KadoyaJPN
1年前

文学とは何か

いずれ自分の論文の要約ぐらいは日本語で書かねばならない外国人に作文を指導している以上、自分自身、日本語で文章を綴ることの意味・本質について考えることは重要だと考…

KadoyaJPN
1年前
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ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語13〜

十三 啓介は一人リソイ橋の上から夕日に染まり始めたハウゲスンの街を見渡していた。ノルウェー滞在は後二日を残すだけとなり、オスロ空港での搭乗時間を考えれば、明日に…

KadoyaJPN
1年前
3

ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語12〜

十二 車は澄み渡った朝の日差しの中を南へと走る。目指すはサンドヴェという村にあるビーチだ。 ウィークデーということで人出は多くはないはずだが、夏休み中の観光客が…

KadoyaJPN
1年前
1

ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語11〜

十一 啓介は午後いっぱいを、モルテンがショッピング・ストリートと呼んだハラルツガータの散策に費やした。旅行に出てもほとんど写真を撮ることはない。そもそもカメラさ…

KadoyaJPN
1年前
6

ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語10〜

十 一人ぼんやりとフロントガラスの先にある形にならないものを眺めていた。カーラジオからは時折理解できる言葉が混じるフレーズが流れてきたが、全体としてそれらは全て…

KadoyaJPN
1年前
1

北欧三言語の見分け方、『土佐日記』で分析してみたw

ノルウェーを舞台にした創作小説を書いているんですが、ちょっと実験的に、心象風景を読者の皆様と共有するために画像を貼ったり、BGMとしてノルウェー語の音楽動画を貼り…

KadoyaJPN
1年前
1

数学好きのためのギリシャ語講座・・・みたいなものw

文系なんですが・・・、日本語を教えながら日々の糧を得ているだけの泡沫ジジイなんですが・・・、高校時代はどちらかといえば、数学で落ちこぼれていたように思うんですが…

KadoyaJPN
1年前
3

ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語9〜

九 夜の病棟は凍りついたように静かに、そしてぼんやり異端者を見下ろしていた。自然のものではないそれは夏を背に、どこか魂が抜け落ちたような顔をしていた。内部に足を…

KadoyaJPN
1年前
1

ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語8〜

八 夜が全ての音と光を飲み込んだようにあたりを闇に染めていた。その上にうっすらと覆いかぶさる霧は白でも黒でもない曖昧な静寂を描き出していた。星の輝きも山肌も自ら…

KadoyaJPN
1年前
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ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語7〜

七 道路脇の木々との距離が次第に近くなってくる。アクセルの踏み込みも強くなってきていた。いよいよ本格的な山登りになるのだろう。二人を乗せた赤い車は車内に立ち込め…

KadoyaJPN
1年前
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文法学習は悪玉なのか?

文法学習は悪玉なのか?


半年以上を経過しましたが

Duolingoを始めて220日を越えました。これまでにも人生でいろいろな言語をかじってみてきており、ざっと思い起こせるだけで英語・ドイツ語・オランダ語・フランス語・イタリア語・スペイン語・ルクセンブルク語・ノルウェー語・中国語・韓国語、それに加えてDuolingoでギリシャ語・ウクライナ語を入れてみました。ちょっと触れてみただけの言語はフィ

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日本語教師と外国語学習の関係について考えてみる

日本語教師と外国語学習の関係について考えてみる

日本語学習って、外国人にとってハードルの高さってどのぐらいのもんなんだろう?

日々、そんなことを考えています。自分もいろいろな外国語を学びましたが、ほぼ西欧言語が中心で、文字も新たに覚え直す必要がないものばかりでした。中国語と韓国語も齧りましたが、前者は文字は漢字で文法もシンプルだし、後者も文法はほぼ日本語と同じで、文字さえ覚えて元々の漢字語を想像できるようにすれば語彙を増やすこともそんなに難し

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3.母語発見の日々

3.母語発見の日々

ぶっつけ本番

何度も書くが、自分は日本語講師としては全くの素人だ。専門教育を受け、特別な資格を持っていたわけではなく、ただベルギーで教員になるための要件を備えていたことによって、ポストの方から勝手に転がり込んできただけである。まあ、現在のような制度ができる前であったのもあるが、しかしだからと言って、ネイティブ・スピーカーがなんの基礎知識もなく母語が教えられるなどといったような幻想を抱くほど馬鹿で

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Duolingoという教材 -ノルウェー語とフランス語と・・・ちょこっとギリシャ語-

Duolingoという教材 -ノルウェー語とフランス語と・・・ちょこっとギリシャ語-

最近、Duolingoを使い始めました。かれこれ一ヶ月近くになるでしょうか。日本語学習者に限らず、「Duolingoで勉強し始めました!」というのをよく耳にするので、どんなものか知りたかったというのが理由です。そしてそれ以上に、そもそもヨーロッパ言語話者にとっての日本語など、全く系統の異なる言語をこのようなお気楽無料アプリで習得できるのかを知りたかったというのもあります。
最初はノルウェー語でスタ

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2.素人日本語教師がやってきた

2.素人日本語教師がやってきた

海外で仕事を得るということ

現在、日本語教員養成のための講座が各種あり、その能力を証明する試験なりもあるそうだ。同時に、海外で日本語を教えることを夢見ている若い方をネット上でもちらほらお見かけする。若いうちからそうしたトレーニングに身を置き、切磋琢磨している方を前にすると、自分のような者が15年もの長きにわたってその「憧れ」のポジションにいることを心苦しく思ってしまう。同時に、自分がここにいるの

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ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語14〜

ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語14〜

十四

沈黙にかかる橋を包み込むように、持ち主不明の光源が無数浮遊していた。一瞬の風が幾度となく、両耳をかすめては消えていった。微かに起こる抑揚のある小さなノイズがリズムとなって優しい音楽を奏でる。その風に歌声をあずけるように歌う女性のシルエットが思い浮かんだ。一生をかけてペールを待ち続けたソールヴェイだと啓介は確信した。その寂し気な声音が今、風に乗り周囲に確かな意志を響かせている。

ニーナがこ

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文学とは何か

文学とは何か

いずれ自分の論文の要約ぐらいは日本語で書かねばならない外国人に作文を指導している以上、自分自身、日本語で文章を綴ることの意味・本質について考えることは重要だと考えています。
そんなこともあって、かなり手垢のついたこの命題の答えを求めて創作小説などにも手を染めています。
以下は「学問としての文学」ではない、書き手から見た文学論、まあ素人の戯言ですw。

文学とは

まずは手っ取り早く、Wikiped

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ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語13〜

ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語13〜

十三

啓介は一人リソイ橋の上から夕日に染まり始めたハウゲスンの街を見渡していた。ノルウェー滞在は後二日を残すだけとなり、オスロ空港での搭乗時間を考えれば、明日にはハウゲスンを発ち、オスロに一泊する必要がある。今日のこの街の夕暮れは啓介にとって今年最後のノルウェーでの夏景色になるに違いない。

昨日、つまりサンドヴェのビーチへ行った翌日はニーナと二人してスタヴァンゲルまで足を伸ばした。そこは北海油

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ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語12〜

ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語12〜

十二

車は澄み渡った朝の日差しの中を南へと走る。目指すはサンドヴェという村にあるビーチだ。

ウィークデーということで人出は多くはないはずだが、夏休み中の観光客がその分多くなると考えて、朝の早いうちに出発することにした。病院にいる母親アナにはビーチに行く旨を伝えてきた。どんな反応を示すのか啓介は大いに不安であったが、一瞬戸惑いを見せたものの、安堵したような笑みで二人を送り出してくれたのが印象的で

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ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語11〜

ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語11〜

十一

啓介は午後いっぱいを、モルテンがショッピング・ストリートと呼んだハラルツガータの散策に費やした。旅行に出てもほとんど写真を撮ることはない。そもそもカメラさえ持っていない。しかし今回、これまでの行程を何ら記録に残してこなかったことに若干の後悔を感じていた。

昨日から続く時間が違った光沢を見せていた。それ以前の硬く濁り固まった記憶の上に、それらは優しく降り積り、接触し、ゆっくりとした化学変化

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ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語10〜

ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語10〜



一人ぼんやりとフロントガラスの先にある形にならないものを眺めていた。カーラジオからは時折理解できる言葉が混じるフレーズが流れてきたが、全体としてそれらは全て見知らぬものたちだった。確かでない世界にしばらく身を沈めるうち、意識は次第に記憶の隙間に落ちていった。理性の網にかかる過去の絵はいずれも灰色にぼやけているものばかりだった。

「・・・お母さん、もう離婚しようと思ってるの。・・・」

霞ん

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北欧三言語の見分け方、『土佐日記』で分析してみたw

北欧三言語の見分け方、『土佐日記』で分析してみたw

ノルウェーを舞台にした創作小説を書いているんですが、ちょっと実験的に、心象風景を読者の皆様と共有するために画像を貼ったり、BGMとしてノルウェー語の音楽動画を貼り付けたりしています。

音楽を探すとき、曲名を見て毎度頭を擡げる疑問が「この曲名、ノルウェー語?スウェーデン語?デンマーク語?」というものです。歌そのものを聞いても違いがわからないのでw。

ということで、ここで一旦、テキストからノルウェ

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数学好きのためのギリシャ語講座・・・みたいなものw

数学好きのためのギリシャ語講座・・・みたいなものw

文系なんですが・・・、日本語を教えながら日々の糧を得ているだけの泡沫ジジイなんですが・・・、高校時代はどちらかといえば、数学で落ちこぼれていたように思うんですが・・・、ちょっと大風呂敷にタイトルをぶち上げてみましたw。

2022年夏の旅行はギリシャ

我が家は妻の趣味ということもあって、毎年、夏には必ずどこかに旅行に出かけます。安ければ冬休みやイースター休みにも小旅行が入ります。

そんな我が家

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ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語9〜

ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語9〜



夜の病棟は凍りついたように静かに、そしてぼんやり異端者を見下ろしていた。自然のものではないそれは夏を背に、どこか魂が抜け落ちたような顔をしていた。内部に足を踏み入れると、病院特有の刺激臭が眠気を威嚇してくる。スニーカーが絞り出す靴音が所在無げに薄暗い廊下に吸い込まれる。

しばらく無機質なリズムに感情が掻きむしられた後、やがてニーナは一つの病室の前でそっと立ち止まった。一つ小さな深呼吸をした

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ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語8〜

ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語8〜



夜が全ての音と光を飲み込んだようにあたりを闇に染めていた。その上にうっすらと覆いかぶさる霧は白でも黒でもない曖昧な静寂を描き出していた。星の輝きも山肌も自らの存在を控え、凍りそうな空気に混じる夏の草木の匂いだけが現実を語りかけていた。

ボルボ440は山道の脇に設けられた駐車スペースで休止中だ。

啓介は長時間曲げっぱなしになっていた関節を解きほぐそうと体を動かす。あちこちからぽきぽきという

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ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語7〜

ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語7〜



道路脇の木々との距離が次第に近くなってくる。アクセルの踏み込みも強くなってきていた。いよいよ本格的な山登りになるのだろう。二人を乗せた赤い車は車内に立ち込めた重い空気に邪魔をされるように、喘ぎながらゆっくりと高度を重ねて行った。

啓介とニーナはしばらく言葉を交わさないまま、お互いが口にしたことを反芻していた。二人を取り囲む陽光の黄色が幾重にも重なり、濃さが増してきていた。夜はまだまだ遠くに

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