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ビリーさん集め。

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2022年12月の記事一覧

連載小説「超獣ギガ(仮)」#2

連載小説「超獣ギガ(仮)」#2

第二話「番犬」

 昭和九十九年(西暦二〇二四年)。
 十二月二十五日。雪の降る午前四時。
 東京。晴海埠頭。

 いまや、雨音は終わりつつある。続く雪には音らしい音がない。永遠かのように錯覚する静謐。そして、その時間帯らしく人の話す声は聞こえてこなかった。そもそも、人が集まる場所でもなく、真冬の、深夜から早朝へ移るころ。そして、雨。そして雪。昨夜からのそれは止むことも激しくなることもなく、一定感

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連載小説「超獣ギガ」(仮)#1

連載小説「超獣ギガ」(仮)#1

第一話「超獣」

 昭和九十九年(西暦二〇二四年)。
 十二月二十五日。
 午前四時。東京。晴海埠頭。

 点滅するパトライトが暁の近づく港湾地帯の一画を浮かび上がらせていた。
 雨。濡れたアスファルトに浮かび上がる光線。点滅する光。点滅している、やがて消えてしまう希望の光。揺れていた。おそらく今日の来光は望めないだろう、天と地を分断する厚い雨雲は流れずに停滞していた。予報では早朝から雪になるはず

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小説「超獣ギガ(仮)」あらすじと設定、登場人物。

小説「超獣ギガ(仮)」あらすじと設定、登場人物。

 昭和九十九年、東京。
 その出現は予め予期されながら、正体不明の巨大モンスターが襲来する時代。地球の正統進化外生物。その外見はツノの生えた、一つ目の大猿。
 モンスターは「超獣ギガ」と呼ばれていた。
 ギガの現れたクリスマスの晴海埠頭。
 警視庁から特殊急襲部隊、自衛隊も出動するが、その圧倒的な力になす術なく敗北してしまう。
 同時刻。首相官邸を来訪する、ひとりの女性。
 手にしているのは、内閣

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コメディ小説「ゾンビ少年高橋くん。」#4

コメディ小説「ゾンビ少年高橋くん。」#4

 冗談だろうと思いながら巡査は消臭剤と防腐剤を手渡した。物置の隅にいつから放置されていたのかさえ分からない、自分が着任する前に、この交番にいた誰かのものなのだろう。その前の誰かかもしれない。ラベルは色褪せ、キャップには埃が白く積もっていた。あまり見覚えのないメーカーである。日本語で記載されているので、国産なのだろうとは思う。
「体に悪いと思うよ」
 ムダだと思っていながら、一応、注意だけはしておく

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【備忘録】日日是好日なれと、今日も手を合わせるだけさ。

【備忘録】日日是好日なれと、今日も手を合わせるだけさ。

#振り返りnote

 noteさんから届いたのは、2022年度を振り返る特集。自分のnoteのなかで、どのエントリーが最も読んでもらえたのか。
 僕の投稿のなかでは、予想通り、「ほろ酔い文学」のテーマに合わせて投稿した、「おとなりさん」の第一夜。
 公式さん(かな? 忘れてしまったけど、たぶん)にもおすすめをいただいて、ずいぶんたくさんの方に拝読していただいたようで、僕もとても嬉しいです。

 

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短編小説「国境線上の蟻」#8

短編小説「国境線上の蟻」#8

「……リャンミン」
 誰かが君を呼んでいる。君はまだそのことに気づいていない。俯いている。目深にかぶったハンチングで目元は影になっていた。片手をコートのポケットに入れ、壁に背を預けて所在なさげに立っている。
 君はいつもそんなふうに立ってきた。

 物語は少し時間を遡る。
 君が彼に出会ったときのことだ。
 君はその名を「リャンミン」と名乗った。もちろん、偽名だ。だが本当の名前など既にないのだ。偽

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「野晒しの光」

「野晒しの光」

吐き捨てたる〝どうでもいい〟を、
呟けるのは真冬の口笛、
意味だなんて、自分らしさや、
そんなのそこらの側溝であぶくに浮かぶ、
吸い殻よりも用途がないのに、

吐瀉物みたいに〝どうでもいい〟を、
吐き出す切れて滲む血、くちびるで、
希望だなんて、探したところで視界にはない、
手垢にまみれてあぶくと共に浮いているもの、

野晒しの光を拾い集めた、切り傷だらけの手のひらで、
その隣を苛立ち任せに踏まれ

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【備忘録】積雪の朝。

【備忘録】積雪の朝。


 今朝、目覚めると吹雪いていた。自動車の屋根、ボンネットに積雪。そこには白銀の世界。
 高知にやってきて、二度目の冬になるんですが、昨冬は雪なんて一度も降らなかった。雹らしきがパラパラとしたことはあったけれど、霜さえほとんど降りてこない。真冬でも日差しが強いので、気温よりずっと暖かく感じるし、ダウンやウールを着なかったんです。
 薄手のコートの下はカットソー二枚くらいで冬をしのげてしまうくらい。

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【備忘録】ジャンプできるかな。

【備忘録】ジャンプできるかな。

 お聞きいただけましたでしょうか。
 YOASOBIさんの「ラブレター」です。この曲のなかで、ボーカルのikuraさん(幾田りらさん)が歌う「爆発しちゃいそうな時も」という箇所がいつも、「托鉢しちゃいそうな時も」に聴こえて、幼いころ、恐れながら遠巻きに眺めた、姫路駅前にいた托鉢僧を思い出す僕です。
 托鉢しちゃいそう?
 どんな心理状態なんやろ?
 なんて、僕が、わけのわからない心理状態になって、

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「夜の淵」

「夜の淵」

夜の淵を歩いてゆく、呼吸を控えて体がなるべく揺れないように、
夜の淵を歩いてゆく、

其処は細いロープの上だ、そして夜明け前よりまだ暗い、
音も立てず風が流れて歩むものは揺さぶられる、
私たちは蜘蛛のように慣れてはいない、
静か静かに呼吸さえも忘れたふりして夜の淵を進むのだ、

ときに朝が疎ましくもある、新たな日を生きなくてはならぬから、
午前か午後か判別できない、黒に見紛うほどに濃い、
青の時間

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コメディ小説「ゾンビ少年高橋くん。」#3

コメディ小説「ゾンビ少年高橋くん。」#3

 泥水にまみれ汚れた衣服はほころびも目立つ。見る限り欠損箇所こそないものの、彼自身の肉体も状態がいいわけではないようだった。体液。垢。よだれ。そして血液。少年のはずだが、すでに中高年レベルのドロドロ血液なのだろう、出血箇所から流れたはがりの血すら、すでに鮮血ではなかった。
「君。名前は?」
 そんなのないんだろうな。しゃがみ込み、ゾンビ少年と同じ視点になって、巡査は尋問を開始した。恐る恐るの聴取だ

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「最終街区」

「最終街区」

遠く目を細めれば、かすか光が射している、
片袖の、千切れ落ちたる化繊の痩せたシャツを着る、
寒さに捩る身、毛布を被れば旅をしていた砂漠の民にも似ていたる、

月は鋭く、湾曲したる刃のよう、
或いは水上揺らぐ小舟が如く、
通りを行かば有り触れたる夜景が続く、
火を放たれたガス燈に、残り僅かな夏の羽虫が寄り集っていた、
黄昏れ次いで夜が始まり恋人たちに別離の刻が知らしめる、

彼ら彼女ら真夜中徹するこ

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「不良の森」

「不良の森」

森が燃えてた、森が消えてく、
そこには良いも悪いもない、ひたすら時間を経て消える、
灰になるのを俺は見てる、灰になるから見惚れてる、
嫌いじゃないよ、終わりを見届けられるって、

狂ってないよ、「心身共に健やかに」って、
ヘブライ語で書かれたノートの切れ端を、
毎日、朝夕、眠る前には音読してるよ、
だからさ、お天道様の下、
俺は今日も笑っていようと思うんだ、

雨で散らされたる花を、拾い集めようと

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短編小説「国境線上の蟻」#7

短編小説「国境線上の蟻」#7

 孤独は生きる限り続くものと君は思っていた。掬い上げられる僅かは瞬時に砂として零れ落ちてゆく。それを掬った掌からも瞬く間に零れ落ちてゆく。明滅する光。明滅する希望。それに並走する孤独。離れることのない絶望。
 その繰り返しを生きてきた。眠るときに見る夢は束の間、君を孤独から解放する。だが、目覚めた現実は途方もない闇のなかで、独りで呼吸だけを続けている。孤独を吐き、暗闇を吸う。暗黒を吐き出して、虚無

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