見出し画像

「最終街区」


遠く目を細めれば、かすか光が射している、
片袖の、千切れ落ちたる化繊の痩せたシャツを着る、
寒さに捩る身、毛布を被れば旅をしていた砂漠の民にも似ていたる、

月は鋭く、湾曲したる刃のよう、
或いは水上揺らぐ小舟が如く、
通りを行かば有り触れたる夜景が続く、
火を放たれたガス燈に、残り僅かな夏の羽虫が寄り集っていた、
黄昏れ次いで夜が始まり恋人たちに別離の刻が知らしめる、

彼ら彼女ら真夜中徹することは叶わぬ、小銃構えた憲兵たちの靴音響く荒れた市街、
境界線を越えようとした、褐色親子は背中を槍で突かれて絶えた、
仰向くふたりの残骸を、用なし羽虫が通り過ぎる、
その羽根を飲み込んだ、鴉は欠伸混じりに越境果たす、
自由を持つ鳥の姿を仰ぎ見る、

呼吸続ける、肘で這うも明日を見る、
地の果てでさえ望みの在り処を唄う楽隊、
見上げる満天、枯れ木に星が灯れば花よ、

遠く誰かの叫ぶ声、苛烈な赤の未来呼ぶ声、
その夜もやはり、越境挑む群れ群れが、
手を引き真夜中ひた走る、背を追いかけて行く銃声、

僕は彼女と真夜中に、かすか光を探してた、
星空仰いであまりの孤独に立ち尽くす、
独りと独りだ、いくら手を繋いでも、
境界線は此処にまで在る、向かう先に立ち塞がるだけじゃない、
闇を転がる僕らふたり二人のすぐ横を、細く曲がる針の風が刺してゆく、
満天の星空さえぽつりぽつりと寄り添うことなく孤独に光る、
それから僕らは自由に見えた、白い鳥の二羽が飛翔し壁を越える姿を想う、

photograph and words by billy.

サポートしてみようかな、なんて、思ってくださった方は是非。 これからも面白いものを作りますっ!