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短編小説

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#ショートショート

短編小説/Sweet Quiet Forest

短編小説/Sweet Quiet Forest

心臓をテーマにした短編集です。

①【プレゼント】

「パパ、届いたわよ。私の欲しかったもの」
 
 大きな箱を抱えたアネットは早速リボンをほどいた。

「ほう。例のあれかい?」

「そうよ。ネットにあった『黒いサンタクロース』にお願いしたの。
 ふーん。悪いことする奴でも形はみんな同じなのね。ほら見てパパ。
 去年学校の帰りに車に私を押し込めて服を脱がそうとした男の心臓よ」

 赤い塊を持ち上げ

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夏なので短編怪談/あけない

夏なので短編怪談/あけない

 日曜日の夜だから早く寝るつもりだったのに、また一時を過ぎてしまった。明日から一週間が始まる。仕事もあるし、早く床に就こうと思っていたはずが、スマホを手にすると、面白そうな記事や動画につい目が止まってしまい、気が付けば深夜を回っていた。
 とうとうスマホの充電も残り3%と表示された。さっきから電池マークが赤くなってるのに気付いてたけれど、寝る前に充電するしとギリギリまでいじっていたが、もう終わりに

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短編小説/河童の子

短編小説/河童の子

「やれやれ。コーチに頼んでなんとか練習抜けてきたよ。大事な話ってなんだい。母さんまで揃ってさ。明日から遠征だから手短に頼むよ」
 周平は三ヶ月ぶりに実家に戻ってきた。父親からどうしても話したいことがあると呼び出されたのだ。温和な父親は寡黙な人で、滅多に連絡など寄越してこない。その父親から『なるべく早く帰ってきてほしい』と繰り返しメールが届けば、何事かと思う。
 
 しかし中々戻れなかった。なぜなら

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短編小説/王冠

短編小説/王冠

ここは風見鶏王国。王様の風見鶏は今日も国民を集めて演説していました。
みな眩しそうに王様を見上げています。
王様はおしゃべりが大好き。聞き惚れてる群衆を前に舌が回ります。
この国が他と比べてどんなにいい国なのかとさんざん言い聞かせたあとは
王様が作ったお話もしてくれます。
いつも拍手喝采。みんなも王様も満足して集会が終わりました。
すると「やあ王様」と一羽のカモメが屋根に止まりました。
黄色い嘴に

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短編小説/昆虫学級

短編小説/昆虫学級

 さわやかな朝。6年4組の教室は今日も賑やか。生徒の昆虫たちはお喋りに夢中です。
 羽をぱたぱた動かしたり、お尻をぷいぷい振ったり、触覚をくるくる巻いたりしながら、楽しそうにお友達と遊んでいます。
 
クワガタの男の子たちは自慢のクワを使ってプロレスごっこ。体の小さいクワ町君が、大将のクワ山君に「どりゃー」と持ち上げられて投げられています。周りはみんな大盛り上がり。クワ町君は仰向けに倒れて足をバタ

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短編小説/現代っ子

短編小説/現代っ子

 ある夜のこと。
 歯磨きを終えたケンタ君が自分の部屋に戻り
 ベッドに座った時、どこからか優しい声がしました。
「ケンタ君、ケンちゃん」
 聞き覚えのある声。ケンタ君は辺りを見回しました。
「誰?もしかして…ママ?」
 すると、ベッドの横に白い影がボヤーンと浮かび、みるみる輪郭をなして
 人の形がはっきりと現れたのです。
 それはケンタ君のママでした。にっこりと微笑んでいました。
「やっぱりママ

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