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黒川未々
2024年11月7日 06:18
前編はこちら3 卓実の部屋にいる。今日は疲れたから帰って眠りたいと言ったら、俺の家で寝ていいよと返され、押し切られる形でここに来た。たしかに、卓実の家は学校から近い。普段から友人がよく遊びに来ていて、家族も気にしていないようである。でも、いざ、彼の部屋に通されてベッドで横になると、緊張して心が休まらなかった。 卓実の家は三階建てで、一階がガレージになっていた。上がったら、卓実のお母
2024年8月1日 17:33
高校からそう遠くない場所になぜだか一つラブホテルがあった。私が通う頃にはすでに、廃業して久しいようだった。「if…」という名前だ。初見では「tel if…」が名前なのかと思った。ただそれだと微妙に英語がおかしい気がしてよく見ると、塗装の剥げた「Ho」があり、これはホテルの「tel」なんだと気づいた。 どうしてそんなことを思い出したのか。そこで私は彼に初めて話しかけられた。 彼に話
2024年8月3日 08:40
高校二年生の秋から、私は伊勢先生に勉強を見てもらっている。 伊勢先生は社会科の先生だ。でも、授業につまずいたら、とりあえず伊勢先生に聞くようになっていた。 私はどちらかと言えば文系の人間だ。だから元から理数系の科目が苦手だった。スポーツもできない。ともだちも少ない。なぜかクラスメートからは勉強が好きだと思われているふしがあるが、そんなことは全然ない。クラスメートは教室で授業を
2024年8月4日 20:20
登場人物千葉 咲恵 主人公。進学コースの女子生徒。伊勢のことが好き。伊勢 特進コースの社会科教師。咲恵の勉強を見ている。麹谷 卓実 特進コースの男子生徒。咲恵から勉強に誘われる。 巻き戻した時間を、廃ホテル前で卓実に初めて話しかけられたところまで進めよう。 彼には三つのことを話した。だいたい毎週火曜日の放課後、社会科準備室で勉強を見てもらっていること。おかげで成績が向
2024年8月5日 21:13
登場人物千葉 咲恵 主人公。進学コースの女子生徒。伊勢のことが好き。伊勢 特進コースの社会科教師。咲恵の勉強を見ている。麹谷 卓実 特進コースの男子生徒。咲恵から勉強に誘われる。 放課後、社会科準備室に行くと、既に卓実がいて先生の隣に座っていた。その反対側、いつも私が座っている椅子は空けてあった。 塾のように、問題集を出して、わからないところや勉強の方法を聞く。授業で習っ
2024年8月7日 17:55
登場人物千葉 咲恵 主人公。進学コースの女子生徒。伊勢のことが好き。伊勢 特進コースの社会科教師。咲恵と卓実の勉強を見ている。麹谷 卓実 特進コースの男子生徒。 体育のあとの着替えの時間、クラスメートに話しかけられた。「サッキー、もしかして、眉毛整えた?」 思わず、脱ぎかけていたTシャツをまた着ると、「ごめんね、変なタイミングで話しかけて」と彼女は笑った。「うん。整え
2024年8月8日 11:51
登場人物千葉 咲恵 主人公。進学コースの女子生徒。伊勢のことが好き。伊勢 特進コースの社会科教師。咲恵と卓実の勉強を見ている。麹谷 卓実 特進コースの男子生徒。 試験準備期間に入れば、伊勢先生に会うことはできない。だから、卓実と私を結ぶ、唯一の共通点も、この時期だけは消滅する。 だから、クラスメートの歓迎モードも緩やかに通常モードに戻っていくと予想された。 卓実から「試
2024年8月9日 20:47
登場人物千葉 咲恵 主人公。進学コースの女子生徒。伊勢のことが好き。伊勢 特進コースの社会科教師。咲恵と卓実の勉強を見ている。麹谷 卓実 特進コースの男子生徒。 学校祭の準備期間になった。私にとっては、当日よりもこの期間のほうが慌ただしく、悩みのタネだった。放課後は、ほとんどの生徒が作業のために残っている。人目も気になったし、みんなが作業をしているときに、私一人勉強を見
2024年8月10日 21:38
登場人物千葉 咲恵 主人公。進学コースの女子生徒。伊勢のことが好き。伊勢 特進コースの社会科教師。咲恵と卓実の勉強を見ている。麹谷 卓実 特進コースの男子生徒。「伊勢先生」 思わず名前を口にした。本物だ。久しぶりすぎて、現実感がなかった。「ぼくに用があったんじゃないの?」「え?」「社会科準備室の前で見かけたから、どうしたのかなって」「あ、えっと……」 上手く言
2024年8月12日 15:03
登場人物千葉 咲恵 主人公。進学コースの女子生徒。伊勢のことが好き。伊勢 特進コースの社会科教師。咲恵と卓実の勉強を見ている。麹谷 卓実 特進コースの男子生徒。 私の携帯電話に、伊勢先生の連絡先が登録されている。これはあくまで今日、確認を取るための連絡先だ。学校の最寄り駅に到着したとき、母と合流したときの二回の連絡を済ませば、無用の長物になる。 伊勢先生が私の連絡を待
2024年8月13日 13:02
登場人物千葉 咲恵 主人公。進学コースの女子生徒。伊勢のことが好き。伊勢 特進コースの社会科教師。咲恵と卓実の勉強を見ている。麹谷 卓実 特進コースの男子生徒。 私が見聞きしたことしか書けないと言うと、卓実は「どこかに行って取材したら?」と提案した。「当てはあるの? 行きたい店とかさ」 私は少し考えて、「小樽で海が見たいかな」と答えた。「じゃあ、小樽。決まり! 10時
2024年8月14日 08:26
登場人物千葉 咲恵 主人公。進学コースの女子生徒。伊勢のことが好き。伊勢 特進コースの社会科教師。咲恵と卓実の勉強を見ている。麹谷 卓実 特進コースの男子生徒。 私たちはあと少しだけ、小樽で時間を潰さなくてはならなかった。有名なガラスとオルゴールのお店を見て、市場に行った。もう一生、小樽には来ないのでは、というくらい観光した気がする。 運動不足から来る疲労のせいで、私の
2024年8月15日 12:04
登場人物千葉 咲恵 主人公。進学コースの女子生徒。伊勢のことが好き。伊勢 特進コースの社会科教師。咲恵と卓実の勉強を見ている。麹谷 卓実 特進コースの男子生徒。 前夜祭が明日に迫っていた。初日こそ怒られはしたが、大きなトラブルも無く、クラスメートと作業を終えられたことに安心した。私がボーっとしていることが早めにバレたおかげか、同じ係の女子が気にかけてくれた。伊勢先生には
2024年8月16日 09:01
登場人物千葉 咲恵 主人公。進学コースの女子生徒。伊勢のことが好き。伊勢 特進コースの社会科教師。咲恵と卓実の勉強を見ている。麹谷 卓実 特進コースの男子生徒。 後夜祭の前に、卓実からメッセージが来た。 嫌な予感がした。卓実から連絡が来たことにはホッとしている。でも、それよりも、動揺のほうが大きかった。 私のことはどうぞお構いなく。このまま何も言わないでください。私は