マガジンのカバー画像

心象空間 エッセイ・小説

19
エッセイは日常の出来事に触れ感じたことを心のままに、書き連ねています。 小説は頭の中のモヤモヤを言葉にする作業です。
運営しているクリエイター

#ショートショート

ショートショート「水の国Ⅱ」

ショートショート「水の国Ⅱ」

ショートショート「水の国」
初めの物語はこちら⇩

美しい泉、湧水で遊ぶ子どもたち。水生昆虫があちらこちらに。子どもたちは夢中で虫を捕まえては、抱えていた携帯水槽に入れ、笑った。

水面はキラキラと輝き、親たちは木陰でくつろぐ。ああ、この国はなんと美しく、素晴らしいのだろう。

「大臣」
「ああ、すまぬ、うとうとしていた」
「ガリー会社から、第四工場の申請がきております」
「第四工場か……」

もっとみる
ショートショート「沈む石」

ショートショート「沈む石」

今日もツイテナイ。

その女は、足元にあった小さな石を蹴った。もちろん周囲にはだれも人がいないことを確認しての行為だったが、その行為が女にとって、ちょっとしたストレス解消になる。だがまたすぐ、イライラした。

イライラの原因は、別にこれといって特定するものもないのだが、つかみどころのない自身の感情が、女のイライラをさらに加速させるのだった。

「なにかいいことないかなぁ」

何の気なしにつぶやいて

もっとみる
ショートショート「勇気ある決断」

ショートショート「勇気ある決断」

浅瀬に近い海のなかで、2匹の魚が会話をしていた。魚……といっても、むなびれやおびれの骨格はしっかりとしたつくりで、岸にかなり近い浅瀬まで泳ぐことができる。そこからは陸上の、緑の植物をぼんやりと見ることができた。

1匹の魚が言った。
「おい、きみは本当に挑戦するつもりかい?」

もう1匹の魚が陸を見ながら言った。
「ああ。おれは行く。陸に進出するのだ」

「だがあの世界にはまだわからないことが多い

もっとみる
ショートショート「超・回復傷薬」

ショートショート「超・回復傷薬」

またやってしまった___。アキは流血した指先を見つめ思った。ほつれたスカートのはしを安全ピンで止めようとして、あやまってピンを自分の指に刺したのだ。血がどんどんにじんでくる。

アキは急いで絆創膏を探し、指に巻いた。こういうことは日常茶飯事だ。子どものころからそうだった。27歳になった今でも、怪我が絶えない。

せっかちな性格も多少の影響はあるのかもしれないが、ほぼ毎日のように怪我をしているとなる

もっとみる
ショートショート「水の国」

ショートショート「水の国」

マロン小国は透明な湧き水あふれる美しい国である。
国民は蛇口をひねればすぐに美味しい水が飲めた。緑豊かで、多くの渡り鳥が羽休めにマロン小国に飛んでくる。

日光は木々の間から優しく照り注ぎ、光のマントが国王の住む宮殿に広がる。宮殿の窓辺に立っていたマロン小国の大臣が言った。
「このように素晴らしい自然環境は、他の国には無いに違いない。清らかな水がそこかしこにあふれ、飲み水に困ることはまったくない。

もっとみる
ショートショート 「こどもバッジ」

ショートショート 「こどもバッジ」

その母親は、役所の子ども育児支援課までエレベーターを上がっていた。子ども育児支援課は5階にある。5階に着くと、母親らしき女性たちが列をなしていた。

「政府のこんどの育児支援はそうとうなものね」

「びっくりよね」

そう話す女性たちの列に、その母親は加わる。申請書類は必要ない。個人カード1枚あれば事足りるのだ。

申請が済み、母親は無事にその証となるバッジを受けとった。

<こどもバッジ>

もっとみる
ショートショート「完璧な恋愛」

ショートショート「完璧な恋愛」

その青年は、パソコンのまえに姿勢正しくすわり、モニター画面を見つめていた。画面には色白で髪の長い女性が映し出されている。

女性はほほえむと自己紹介をはじめ、青年の返答を待つ。青年はしどろもどろながらなんとか自己紹介を終えた。それから、青年と女性は互いに質問を繰り返した。

会話の途中、モニター全体がとつぜん灰色になった。
青年が一般的ではない質問をし、女性の表情がくもったからだ。青年はあわてて質

もっとみる
ショートショート「ある芸術家の苦悩」

ショートショート「ある芸術家の苦悩」

その芸術家は悩んでいた。
思ったような作品が作れなくて1年がたとうとしている。

芸術家の作品は絵画だった。
繊細な色彩を放つ独特の世界観で、ファンも多い。展覧会を開こうものならファンが長蛇の列をなし、握手とサインを求めたのだった。

作品が売れていたころは、心に浮かんだものを感じるままに具現化することができた。自分が感じたものをキャンバスにそのまま投影し、人々を魅了することができた。

しかし今

もっとみる