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たいせつ

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大切にしたい文章などを集めています
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#エッセイ

人を殺そうと思ったことがある

人を殺そうと思ったことがある

人を殺そうと思ったことがある。

たった一度だけ。心の底から「殺してやる」と思っていた。それは突然芽生えた感情だった。

相手は兄だった。小さい頃は仲良く遊んでいた。

一緒にゲームをしたり、一緒に近所の大学生の家に遊びに行ったり、一緒におじいちゃんに連れられて散歩をしたりもしていた。あまり覚えていないが、その頃はきっと兄のことが好きだったんだろう。

でもいつからか、兄のことが嫌いになっ

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徒然草を読んでいるはなし

徒然草を読んでいるはなし

エッセイが書けないので、ふと思い立って吉田兼好の徒然草を読んでいる。正直、エッセイと随筆のちがいすらあまりよくわかっていないのだが、とりあえず「日本3大随筆を読めばなんか分かるんじゃね?」と思い、今日その足で駅前のブックオフに出かけることにした。
日本の古典文学を買って読む機会など滅多にない。せいぜい読んでも『あさきゆめみし』くらい。もはや古典文学そのものですらないけど。

訪れたブックオフで、ま

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ラマルクの進化論

ラマルクの進化論

「なあ真司ラマルクの進化論って知ってるか?」
神谷はいつも唐突に話の先が予測できない単語を放つ。

「なにそれ、ダーウィンの進化論なら知ってる」

「首の長いキリンは高い木の草を食べることができるけど、首の短いキリンは高い木の草を食べることができない。首の長いキリンは遺伝子が受け継がれていくけど、首の短いキリンは短い木の草しか食べることができないから淘汰されていく。それでキリンの首は長くなった。こ

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今はまだ、四分割のチーズトースト【KUKUMU】

今はまだ、四分割のチーズトースト【KUKUMU】

わが家は実質、一日四食なのかもしれない。

お腹いっぱいに食べた夕飯が消化され、胃にちょっとした隙間ができる23時頃、誰が号令をかけるわけでもないのに、父、母、弟、私、そして猫がリビングに集う。家族全員で、夜食を食べるのだ。

食卓に上がるのはケーキだったり、特大のペヤングだったり、ハンバーガーだったり、焼肉だったり。日によってさまざまだが、軽食のラインを超えることもしばしば。自分のお皿を肉球でタ

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つっぱれない方がいいかもしれない

つっぱれない方がいいかもしれない

去年の夏から暮らしている今の家は大きな窓があるのになぜかカーテンレールがない。なのでつっぱり棒を使いカーテンを付けている。けれど私の力が弱いのとカーテンが重いのと両方でカーテンを何度か開け閉めしているうちに「ガシャン」と落ちてくる。

大体、落ちてくる時は急いでいる時か眠たい夜。
もう1回つっぱればいいだけだからいいのだけど。
ストレスだ。
自分でできるけど誰かやってくれないかなと思う時がある。

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「結婚」はしないと思ってた。

「結婚」はしないと思ってた。

「結婚」なんてしないだろうと思っていた。

だから、まだ付き合ってもいない彼から唐突に
「なんか……結婚したいですね」
と言われたときは、なんて気の合わない人なんだろうかと首を傾げたものだった。

「結婚は……、どうでしょう」
わたしは答える。

もちろん、そういう幸せのかたちがあることは知っているし、大切な誰かが誰かと結婚するとき、わたしは心の底から「おめでとう」と言うことができた。
けれど自分

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