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小説

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自作の小説です。 最近はほぼ毎日、500〜2000字くらいの掌編を書いています。
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2023年8月の記事一覧

フェミニズムとの離別

フェミニズムとの離別

 女らしくと強いられたくない
 女子力高いと褒められたくない
 歩く女性器と思われたくない
 女だからと低く見るな
 違う生き物として見るな

 隠されていた枕詞は
 「僕だって男なのに」

 胸の中に嫉妬の巣を見つけてしまった僕は
 「女を馬鹿にするな」ともう叫べない
 僕はその主体ではない
 女の怒りは女の手に

 僕は僕だけの孤独な怒りで
 向こう岸を眺め遣る

 男と女の間の断絶
 その谷

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遠くへの手紙

遠くへの手紙

 結局のところ俺はただ狂いたかったのだ。

 狂気とは現実との解離であるから、正気を手放せばあの頃に戻れると。

 夢を俺だけの現実にできると。

 彼女がもういないという事実を拒絶し否定して幸福の繭にこもり、腐り果てるまで闇の中にありもしない光を見続けていられると。

 信じることで人の形を保っていた。

 水の入ったポリ袋みたいなぐにゃぐにゃの塊になった俺には、地球の重力から解き放たれるか、針

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不安

不安

 嫌だ要らない手放したいって君は言うけど、本音では僕が必要なんでしょ?

 僕が君を離さないのは、君が僕を呼んでいるから。

 不安でいないのが不安だから。

 僕は君を守っているよ。

 傷付く言葉、冷たい視線、体調不良、事故に災害。目隠しで見る未来の闇。

 いつも最悪を予測して、備えろと君を急き立てる。

 僕の予言が外れても、君は良かったと喜ぶだろう。

 僕の予言が当たっても、君は充分な

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自己麻酔

自己麻酔

※残酷描写が含まれます

 旦那様は幼い奉公人に対する情けが深いと評判で、私も同い年の喜助もご多分に漏れず可愛がってもらっていた。

 私の悩みは旦那様の情愛を素直に喜べないことだった。何故かはわからなかったが、人肌に熱した水飴のような旦那様の視線に捕まると身体が強張って、早くこの時が過ぎ去ってくれるようにと祈らずにはいられないのだった。

 井戸へ水汲みに行った時、洗濯をしていた喜助にそれとなく

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灰かぶりの宝石

灰かぶりの宝石

 「ほこりちゃん」と私は呼ばれていた。いつも埃まみれになって掃除をしているからほこりちゃん。良い意味ではないのはわかっていたけれど、何となく響きが可愛くて私は気に入っていた。

 あだ名を付けたのは下の姉様。2人の姉はいたずら好きで、わざとスープを床にこぼして私に拭かせたりしていた。お母様はいつも見て見ぬ振りをしていた。

 いつだったか、姉様が上質の絹のスカートにトマトソースをこぼしてしまった時

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角と北極星

角と北極星

「どうしてわたしにだけ角が生えてるの?」

 幼い妹の舌足らずな問いかけに射抜かれ、両親は石像のように固まった。

 なぜという疑問が求めているのは、遺伝子のどこにどういう欠損が起きて額に骨の隆起ができたのだとか、そういう冷淡な因果関係の説明ではない。起こったことの意味だ。それを起こした大いなる何者かの意図だ。

 そのことを無意識に知っていたのか、父は答えた。

 「お前が前世で悪いことをしたか

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産みたくない僕の話を聞いて

産みたくない僕の話を聞いて

「子供、欲しいの?」

 グレーのスウェット姿の彼はベッドに寝転んだまま「いてもいいかなと思って」と答える。視線はスマホの液晶の上を細かく上下し続けている。

「どうしてそう思うの?」

「んー、なんとなく?」

 彼は寝返りを打って、にへらと口元を緩める。

「こちらは産みたくないし、今の状況で育てていくのも無理だと思っています。子供が欲しいなら説得してよ。どうして子供が欲しいの?」

 彼はス

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