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#海外文学のススメ

おすすめの作品や作家、注目している国や地域を教えてください!

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♡今日のひと言♡エラ・ウィーラー・ウィルコックス(改訂)

エラ・ ウィーラー・ウィルコックス(1850-1919~アメリカ・作家、詩人) 平明な文章で韻を踏ませた、軽快で楽観的な表現・作風で知られている。代表作は“Poems of Passion”(情熱の詩~19 c 末頃)や“Solitude”(孤独~1883)など。

♡今日のひと言♡ミシェル・ド・モンテーニュ(改訂)

ミシェル・ド・モンテーニュ(1533- 1592~フランス・哲学者) 16世紀ルネサンス期を代表する人文主義者です。 16世紀以降のフランスは、「モラリスト」と称される思想家を輩出しました。 彼らは人間性を鋭く観察し、「人間とは何か」「人はいかに生きるべきか」を短い箴言や散文で表しました。 その一人モンテーニュは「エセー」(1580)の著者として知られています。 「随筆」というジャンルを創始し、シェークスピアや後のパスカルらにも影響を与えたと言われています。  

ハン・ガンの邦訳作品をすべて読む(全8冊それぞれの短いレビュー)

ノーベル文学賞に、韓国の作家ハン・ガンが選ばれた。アジア人女性がノーベル文学賞を受賞するのははじめてのこと。——報せを聞いて、どうしてかわたしは動揺した。部屋に林立する本棚は溢れかえり、つねに混乱をきわめているけれど、ハン・ガンの一連の著作がどこにあるのかおよそ思い出すことができる。調べてみると、邦訳された本はすべてもっていて、そのほとんどを既に読んでおり、一部はくりかえし読んでいた。そうなると、受賞の報に、喜ばしいだけとは少し異なる新たな戸惑いが生じてくる。 そういった動

ざわめきのリズムを感じて -ヘミングウェイ『日はまた昇る』の魅力

    【水曜日は文学の日】     一般的に流布されているイメージと、読んでみた感想が違う文学は結構あったりします。   ヘミングウェイの初期の小説『日はまた昇る』は、マッチョとしばしばいわれるこの作家の作品の中でも、都会と旅の魅力に満ちた、煌めきに溢れる作品のように思えます。その鮮やかな描写は、また、「マッチョ」とは別の魅力に感じるのです。 新聞記者のジェイクは、第一次大戦の戦場で受けた傷で性的不能になり、パリでその日暮らしをしています。   元看護婦のブレットとジェイ

きらめきと抒情の記録 -チェーホフの短編の美しさ

  【水曜日は文学の日】     短編には長篇にはない良さがあります。短いからこそ、人生を圧縮して集中して味わうことができる。   『桜の園』等の戯曲でも名高いロシアの作家、チェーホフの短編は、そんな短編小説の醍醐味を堪能できる逸品ぞろいです。 アントン・パーヴロヴィッチ・チェーホフは、1860年ロシア生まれ。モスクワ大学で医学を学びながら、雑誌に短編を発表して生計を立てます。大学を卒業後、医師として働きつつ、本格的な戯曲も書いて、旺盛な文学活動を広げています。   『決

♡今日のひと言♡バーナード・ショー

バーナード・ショー(1856- 1950~アイルランド・文学者、政治家) ヴィクトリア朝時代から近代にかけて活躍、53本もの戯曲を残し、「他に類を見ない風刺に満ち、理想性と人間性を描いた作品を送り出した」として1925年にノーベル文学賞を受賞した。 代表作「ピグマリオン」(1912)は、オードリー・ヘップバーン主演の映画「マイ・フェア・レディ」の原作として知られている。

♡今日のひと言♡ブレーズ・パスカル(改訂)

パスカルは数学者、自然科学者として早くから「パスカルの三角形」「パスカルの原理」「パスカルの定理」などの発見で功績を残しました。 その一方で彼は、ルネサンスを経た「科学・理性の時代」にあって「キリスト教を信仰すべき」と人々に説得することを使命としたのでした。 それを著書にまとめる前に、パスカルは39才の若さで病死してしまいます。 「パンセ」(1670)は、その準備段階として思いついた事を書き留めた数多くの断片的な記述を、遺族らが編纂し刊行したものです。 第一部では、人

青春の熱気を叫ぶ -シュルレアリスム文学の面白さ

  【水曜日は文学の日】   イメージというのは、それが何に基づいているかが重要に思えます。   20世紀初頭の、いわゆるシュルレアリスム運動によって生まれた文学や絵画は、強烈なイメージを持ちつつ、その来歴を考えさせてくれる作品群です。 シュルレアリスムの運動自体は、同時多発的に色々と起きているのですが、きっかけは第一次大戦であり、そのメインストリームは、大戦中に始まったダダの活動から始まっていると考えていいでしょう。   特に重要なのは「チューリヒ・ダダ」。スイスのチュ

世界の熱に触れる旅 -小説『蒸気で動く家』の面白さ

    【水曜日は文学の日】     ある作品が、その作り手の中で例外的な存在でありながら、それ故に美しく感じられることがあります。   『八十日間世界一周』や『海底二万哩』といった空想科学小説で知られるジュール・ヴェルヌが1880年に発表した冒険小説『蒸気で動く家』は、彼の特徴が出ながらも、彼の作品群からやや逸脱した面白さのある作品です。   インスクリプトから「ジュール・ヴェルヌ 驚異の旅 コレクション」の一冊として翻訳出版されており、原作の優れた挿絵を全てつけて、冒険に

見えないものを語るために -名作短編『ねじの回転』の面白さ

    【水曜日は文学の日】     古今東西、物語にはジャンルという名の、ある種の「型」があります。 イギリスの小説家、ヘンリー・ジェイムズが1898年に発表した短編『ねじの回転』は、作者の技量と、そんな物語の型がうまくはまって深みを増した名作短編です。 クリスマスイブの夜、古い屋敷に集まった人々で怪談話をするところから始まります。ダグラスという初老の男性が、自分より10歳上の女家庭教師の書いた文章があるという。それを朗読したダグラスの原稿を作者が貰ったという設定で、女

輝く季節を旅する -フォークナーの小説『八月の光』の美しさ

    【水曜日は文学の日】     光あるところに影があるように、物事には、二つの対照的な側面があります。   しかし、例えば一つの小説の中で全く対照的な物語を進めることは、案外困難で、少ないように感じます。 アメリカの小説家ウィリアム・フォークナーの1932年の長篇『八月の光』は、二つの異なった物語を合わせた傑作であり、しかも、驚くべき後味のよさを持つ作品です。 物語は、リーナ・グローブという少女の話から始まります。身重の身の彼女は、お腹の子供の父親であるルーカス・バ

「闇の奥」" Heart of Darkness "J.コンラッド(改訂)~映画「地獄の黙示録」

今回は「モダニズム文学」の簡単な説明と、その先駆の一例として、コンラッド作「闇の奥」を取り上げます。 また、同小説から翻案された映画「地獄の黙示録 "Apocalypse Now"」にも、最後に少し触れておきます。 Apocalypse Now「地獄の黙示録」 監督・脚本 F.F.コッポラ(1979アメリカ) 「読みづらさ」で名を残す奇書「闇の奥」は、ポーランド出身のイギリス作家ジョセフ・コンラッドによる中編小説です。 この作品は、今日でも、「英語で書かれた名作ランキ

♡今日のひと言♡フョードル・ドストエフスキー(改訂)

お時間ございましたら、ぜひ、こちら(ドストエフスキー早わかり)をご一読下さい ⇓⇓⇓ フョードル・ドストエフスキー(1821-1881~ロシア・小説家、思想家) 19世紀後半のロシアを代表する文豪の一人。代表作に『罪と罰』『白痴』『カラマーゾフの兄弟』など。キリスト教の立場から、人間存在の根本問題を追究した重厚な名作群を残した。

ハックルベリーが会いに来る(小説をめぐる冒険)

小学6年のとき、朝の読書の時間が終わって『トム・ソーヤーの冒険』を片づけていると、女子に話しかけられた。 「子供っぽいやつ読んどるんじゃね」 おせっかい焼きの島田さんだった。「それ終わったら、これも読んでみんさい」と本を渡された。 「ハックルベリー・フィンの冒険……?」 私がたどたどしく書名を読みあげると、「『トム・ソーヤー』の続編なんよ」と島田さん。「こっちは大人向けじゃけえ」 5年生のとき、島田さんと同じ図書係で『星の王子さま』をすすめられたことがあった。私が小

日記:11/2(土)☔️ ・11月になっても過去最大レベルの大雨を記録していて複雑な心境🫢 →スペインの洪水や台湾の台風など異常気象が多すぎるような💦 ・睡眠の量を増やせば、食事をするための時間も減るのか? →食べ過ぎ注意⚠️ ・10日の試験本番に向けてあとはひたすら音声学習📼

カート・ヴォネガットに届いた、ある少年からの手紙(頭木弘樹さまの記事を中心に)

『絶望名人カフカの人生論』(新潮文庫)をはじめとする、多くの著書で知られる「文学紹介者」頭木弘樹さんによる記事の紹介です。 ある日、作家カート・ヴォネガットの愛読者である14才の少年から一通の手紙が送られて来ました。そこに書かれていた上掲の言葉に、ヴォネガットは大きな感銘を受けたと言われています。 以下は、このエピソードをはじめとした、頭木さんの「愛」にまつわる記事です。自分は目から鱗が落ちました。 5分で通読できますので、この名文をぜひ。 ―――――――――――――

書いて私を発見する -ジッドの小説『狭き門』の魅力

    【水曜日は文学の日】     なぜ私たちは書くのか。勿論、人によって様々な理由があります。 しかし、書くという行為には、根本的に「信仰告白」のようなところがあって、自分が生きて信じているものを、何かの形にしたいという欲望が込められているのは、間違いありません。   フランスの小説家、アンドレ・ジッドの小説『狭き門』は、そうした信仰告白を、捻れた形で凝縮して小説にした名作であり、書かれている事柄は古くても、今とてもアクチュアルに読める作品に思えます。 語り手のジェロ

波の中の失われた愛 -デュラス『アガタ』の魅惑

    映像と言葉とは、本来別のものです。   私たちは映像に言葉を載せて一致させる、「映画」を何の疑いもなく享受しているけど映像と言葉が切り離されたらそこに何が生まれるのか。   フランスの小説家マルグリット・デュラスが監督した一連の映画は、そうした部分を探究する大変興味深い映画です。   そして、私が好きな1981年の『アガタ』は、原作の戯曲もデュラスが監督した映画も、言葉と映像が、魅惑的な関係を結んでいます。キーワードは「愛が失われること」です。 マルグリット・デュラ

力と欲望を味わう -バルザックの小説の面白さ

      【水曜日は文学の日】     今は2024年、21世紀の前半。ということは、私のように、20世紀生まれの人間がそれなりに生きているということです。   世紀で区切ることはできても、実際のところは、それをまたがって生きる人間がいるわけで、そこですっぱりと時代が変わるわけではない。実のところ、20世紀後半に生まれた人間は、19世紀の影響もまた残っていると思っています。   バルザックは、そんな19世紀のある種の特徴を、広範に捉えることができた小説家です。   そして

希望を探すなら、闇の中に手をのばして◇ヘヴンアイズ

 ほんの少しグロテスクで、圧倒的に美しい物語でした。  デイヴィッド・アーモンド『ヘヴンアイズ』。  孤児院を抜け出した少女と少年の3人組は、自作の筏で川を下り、ブラック・ミドゥンと呼ばれる泥の中で座礁します。そこで助けてくれたのは、手と足に水かきがある少女ヘヴンアイズと、老いた大男。「宝物」や「聖者」を探して泥を掘りつづける大男と、天使のように無邪気なヘヴンアイズと触れ合ううちに、3人はそれぞれの悲しみと向き合い、心を変化させていくのです。  希望の光は、真っ黒い泥の

失った煌めきを求める、物語。

題名も作者名もあらすじさえも知っているのに、読んだことのない小説。 ふだんの読書では、国内の作品を読むことが多いので、海外文学の、いわゆる"古典"と呼ばれる作品の中には、そんな小説がたくさんあります。 フィッツジェラルドの「グレート・ギャッツビー」も、その中のひとつだったのですが、myさんの記事を読んで心を惹かれ、手に取りました。 myさんの記事にコメントを送った後で思い出したのですが、わたしも二十代の頃に読もうとして、一度挫折しているのですよね。 翻訳された作品を読むと

(新訳版)哀しいカフェのバラード/カーソン・マッカラーズ (著)、村上春樹 (翻訳)、 山本容子 (イラスト) 刊行記念:山本容子銅版画展

カーソン・マッカラーズ (著)、村上春樹 (翻訳)、 山本容子 (イラスト)による単行本の出版記念版画展。 本に収められた挿絵の元となった版画が展示されていた。 会場にはモノトーン(薄い黒乃至赤色)の版画が並び、その下にはフレーズが日本語と英語で書かれている。 展示作品の一覧 丸善丸の内本店  フィクション2位 物語がひらかれる 江國香織  小説が絵と共に存在するとき、文字のみの場合とこんなに空気が変るものかと驚く。こわいほど風通しがよくなって、物語が目の前にひ

自分は何者か…それを選ぶのは自分自身◇夜の庭師

 ジョナサン・オージエ『夜の庭師』は、ディズニーで映画化が決定したというゴーストストーリー。  面白くてどんどん先が知りたくなり、寝不足になりそうになりながら読みました。  アイルランドからイングランドにわたってきたモリーとキップの姉弟は、差別にあいながらも、なんとか使用人として雇ってくれる屋敷を見つけます。でもそこは、巨木に取り込まれたかのような不気味な屋敷で、夜中に謎の男が徘徊し、住人はみな悪夢にうなされるという、なんともあやしい場所だったのです――。  もちろんエ

耽美主義文学の入口「ナイチンゲールとばら」~オスカー・ワイルド(改訂、ネタバレ有)

オスカー・ワイルドは、「耽美派」の筆頭として挙げられる作家です。   耽美(唯美)主義とは、19世紀後半に西洋で発達した芸術思潮の一つで、その時代の主流であった写実主義に反して「美しさ」に最高の価値を置くものです。   それは「美に耽(ふけ)る」の文字通り、常識にとらわれず美しさをとことん追求する姿勢ですので、一線を超えて非道徳的になったり残酷になることが多く、そこが魅力でもあります。 その特徴が顕著な「サロメ」などで知られるワイルドですが、「幸福な王子」(1888)をはじ

甘いノスタルジア -小説『お菓子とビール』の魅力

    【水曜日は文学の日】     文字は書かれた瞬間に過去になるのですから、全ての小説は、回想だとも言える。   私が好きな回想は、プルーストの『失われた時を求めて』のように、一人の語り手が、ゆったりとした語り口で過去を紐解くように語る小説です。   もっとも、プルーストの小説は、単なる回想とは言い難い、「語り手の知りえないこと」を含む、かなり複雑で曖昧な語り口です。 それが魅力的でもあるのですが、時折その長さと相まって、読むのに疲れてしまうこともあります。   その点

中世フランス、冬の終わりの恋物語「オーカッサンとニコレット」~作者不詳(改訂)

恋の歌人たち、宮廷詩人「トルバドゥール」 1000年に及ぶ「暗黒時代」とも呼ばれた中世ヨーロッパですが、その終盤には徐々にルネサンスの曙光がさしてきます。   12世紀ごろになると、南フランスで「宮廷文学」が流行しました。 それは、宮廷に雇用された騎士の中で、才能のある者が詩をつくり、王侯貴族の前で披露したものでした。 彼らは「トルバドゥール」(宮廷詩人)と呼ばれていました。 騎士道精神にのっとり、女性を高貴な存在として崇め、その人にとこしえの愛を捧げる・・・彼らはそのよ

♡今日のひと言♡マルセル・プルースト

マルセル・プルースト(1871- 1922~フランス・小説家) 19世紀末から第一次世界大戦勃発までの頃の、パリが繁栄した華やかな時代をパノラマ的に描いた大作「失われた時を求めて」(1913~1927)で有名。「意識の流れ」の手法により、同作品は当時の「前衛」である「モダニズム文学」の代表作として、後世の文学に大きな影響を与えた。

♡今日のひと言♡ヘルマン・ヘッセ

ヘルマン・ヘッセ(1877- 1962 ドイツ・小説家、詩人) 様々な職に就きながら著述活動を行い、穏やかな人間の生き方を描いた作品を数多く残した。代表作は他に「車輪の下」(1906)「デミアン」(1919) 「シッダールタ」(1922)「荒野のおおかみ」(1927)など。1946年にノーベル文学賞を受賞。

祝!ノーベル文学賞受賞!韓国文学の最前線ハン・ガンさんの作品紹介エピソードたち

2024年10月10日、韓国の作家ハン・ガンさんが53歳という若さでノーベル文学賞を受賞しました。アジア人女性としては初、また韓国では初のノーベル文学賞受賞者となりました。日本の文学界隈、特に海外文学界隈では祝福の嵐でした。 文学ラジオ空飛び猫たちのダイチもミエも、ハン・ガンさんは大好きで推しの作家です。文学ラジオの第1回の配信では『ギリシャ語の時間』を紹介し、以降もハン・ガンさんの作品を紹介してきて、現在まで『菜食主義者』以外の邦訳単著はラジオで紹介しています。 この記

【おすすめ本】正反対の似た者どうし(J・オースティン/高慢と偏見)

今週もこんにちは。日本は涼しくなってきたと聞いています。秋でしょうか🌰 今週の一冊はジェーン・オースティン(1775-1817)の「高慢と偏見」。人間心理を深く洞察し、様々な登場人物を描き分けたイギリス文学の名作。原題はPride and Prejudiceで「自負と偏見」、「誇りと偏見」と訳されることも。 ▼▼今回の本▼▼ 舞台は東イングランドのハートフォードシャー。ベネット家の5人姉妹の家族模様とラブロマンスが描かれます。軸になるのは、皮肉屋で負けん気の強い次女エリ

映画化されたら素敵◇『肩胛骨は翼のなごり』

 美しい物語を読みました。  デイヴィッド・アーモンド『肩胛骨は翼のなごり』  主人公の少年の目をとおして、命と世界の不思議さを一緒に感じていけるよう。とてもきれいな世界観です。  映画化されたら素敵だなと思いました。  同じ作者の短編集『星を数えて』も好き。  作家自身の子どものころの思い出にまつわる短編を集めたものです。物語というよりエッセイみたいな感じもして、どの作品も澄んだ余韻が残ります。せつなかったり、愛おしかったり。一編ずつ、読み終えたあとの余韻を静かに味

小説にあって物語にはないもの(文字について・03)

 小説にあって物語にはないものがあります。今回は、誰が見ても明らかなもの、誰の目にでも付くものを挙げてみます。  空白と黒いページです。  読んでいて不意に現れる白い部分、真っ黒なページですから、目に付くはずです。  こうしたものは、物語にはありませんでした。あり得なかったというべきでしょう。  ここで言う物語とは、もとが口頭で語られ、長い間口頭で伝えられていたものです。口承文学とも呼ばれています。それが写本や版画の類いを経て、現在は印刷物として文字(活字)になった形

いま借りている本。デイヴィッド・アーモンド『ヘヴンアイズ』『秘密の心臓』、ギャレット・フレイマン=ウェア『涙のタトゥー』、ジョナサン・オージエ『夜の庭師』、ジェラルディン・マコックラン『世界のはての少年』、F.H.バーネット『秘密の花園』、キース・グレイ『家出の日』。どれも楽しみ

思考を届けるために -J・S・ミルの自伝の面白さ

    【水曜日は文学の日】     自伝というのは、面白いジャンルだと思います。   当然ながら自分の全生涯の全行動を書くわけにはいかない。あらゆる伝記と同様、取捨選択が必要になる。   その選択をする人間が自分自身の場合、他人が書く伝記とはまた違った選択があり、興味深い記述になる場合があります。私の好きな哲学者の一人、J・S・ミルの自伝は、そんなサンプルの一つです。 ジョン・スチュアート・ミルは、1806年、ロンドン生まれ。父親ジェイムズは、『英領インド史』等を書いた著

今借りている本。デイヴィッド・アーモンド『ヘヴンアイズ』、F.H.バーネット『秘密の花園』、ジュラルディン・マコックラン『世界のはての少年』、ジョナサン・オージエ『夜の庭師』、キース・グレイ『家出の日』、ギャレット・フレイマン=ウェア『マイ・ハートビート』。海外児童文学LOVE♡

『ライ麦畑でつかまえて』(The Catcher in the Rye)J.D.サリンジャー ~ここは、「勝ち負け」を決めるための場所なんかじゃない!                                      

今回は、昨今では村上春樹氏の翻訳でも知られる、「ライ麦畑でつかまえて(キャッチャー・イン・ザ・ライ)」(1951)を取り上げます。 すでに多くの評論や解釈が行なわれてきた作品なので、ここでは特に個人的に印象に残った人物や場面などを挙げ、感想は末尾で少し述べるにとどめておきます。 尚、記事内の日本語訳の一部は、野崎孝氏版(白水Uブックス)をベースに少し調整を加えさせていただいております。 クリスマス前夜、ある少年の孤独な三日間 まず、作品の概要をまとめておきます。 主

いま借りている本。ギャレット・フレイマン=ウェア『マイ・ハートビート』、テレサ・トムリンソン『水のねこ』、アーモンド『星を数えて』『肩甲骨は翼のなごり』、オッペル『エアボーン』、ウェストール『ゴーストアビー』、メリック『だれかがドアをノックする』、ハーン『時間だよ、アンドルー』

言葉の大洋でたゆたう -名作小説『白鯨』の魅力

    【※いつもの水曜日の文学に関する投稿の、振替です】     名作小説と言われて読んではみたものの、何が面白いのか分からずに、途中でやめてしまった、もしくは我慢して最後まで読んだけど、やっぱり退屈でわからなかった、という経験は多くの人があると思います(私も結構あります)。   アメリカのハーマン・メルヴィルの小説『白鯨(モービィ・ディック)』は、おそらく、プルーストの『失われた時を求めて』と並ぶそんな「挫折する小説」の一つでしょう。   私はこの作品を偏愛していますが、

今日の英単語(10/1) | ゴーゴリ「鼻」より。

as it happens  たまたま、偶然だが、折よく、あいにく shrug one's shoulders  肩をすくめる in a smug voice  いやに気取った声で pastry [ペイストリィ] 練り粉、生地 station oneself  配置につく be all smiles  上機嫌である tears streamed from one's eyes 涙が~の目から流れた chamois [シャミ、シャムワー] シャモア(欧州・カフカ

【読書感想文】 百年の孤独 〜全部言うおじさんのマジカル大河ドラマ〜

ご機嫌麗しゅう。火中の栗と申します。 ようやく読みましたよ、『百年の孤独』。 だって今年、時を超えて文庫化されてから今や空前の大ブーム。 地元の小さな本屋でもコーナーを作っているし、少し大きな本屋になれば4ヶ所くらいで平置きしていらっしゃる。 大学で英米文学を専攻していたので概要くらいは知ってるけどいつか読みたいなーくらいには思っていたので、この機会に読んでみたのだ。 結果、めちゃくちゃ面白かったので読書感想文にしたいと思います。 『百年の孤独』って何?『百年の孤独』はコ

胸を打つクリスマス休戦と、戦争のむごさ◇『銃声のやんだ朝に』

 1914年のクリスマス。  第一次世界大戦のさなかにあって、前線で対峙していたイギリス軍とドイツ軍の兵士たちは、いっとき休戦し、ともにクリスマスを祝った。互いの塹壕に挟まれていた戦場は、つかの間、サッカー場に――。  実際にあったというクリスマス休戦を題材に、17歳のサッカー選手を主人公にして描かれた物語がこちらです。 ジェイムズ・リオーダン『銃声のやんだ朝に』 (残念なことに、版元絶版になっているみたい。古書なら手に入るかもしれません。私は図書館から借りて読みました

『カラマーゾフの兄弟』再読感想文 その8 脇役の魅力④ 「人間はだれだって必要なのよ。」 (全12回)

※これから読む方々のためになるべく物語の結末部分に触れないようにしたいと思っていますが、説明上どうしても物語の流れや途中のポイントなどネタバレしてしまうと思います。少しでもダメな人はご遠慮ください。 その8   脇役の魅力④「人間はだれだって必要なのよ。」    カラマーゾフ再読感想文。再開です。  さて今回も。  私の好きな脇役をご紹介します。  それは  マクシーモフ。  でもマクシーモフってだれ? となるかもしれませんね。  彼自身が何か事件を起こすわけで

「モリー先生との火曜日」(2007年読書記録)と2024年の感想文

1冊目(「2007年読書記録」について)の紹介はこちら。 2007年の記録 当時の(自分の)容赦ない評に苦笑して😅、どんな本だったのか読み返してみた。 2024年の感想文読み直してみて「含蓄のある本」。 著者ミッチが、ALSで余命短いモリー先生から生き方の教えを学ぶ。 その教えの数々が、心に響く言葉。 「2007年の感想は間違いだったの?」と、思いながら読み進むとKindle進捗80%のところに、その件(くだり)が出てきたので引用する。

少年の心を忘れずにいたい大人たちへ◇『ロス、きみを送る旅』

 性別にかかわらず、未成年だったころの感覚をずっと大切にしたいと思っている、という意味でいえば、わたし自身が「少年の心を忘れずにいたい大人」といえます。  そんなわたしと似た思いを抱いている人たちへ、ご紹介したい本に出合いました。  キース・グレイ『ロス、きみを送る旅』  親友のロスが事故で死に、自殺の疑いもかかるなか、やり場のない気持ちを抱えたブレイクとケニーとシムは遺灰を持ち出して旅に出ます。ロスが生前、行きたいと話していた「ロス」という名の町を訪ねて。イングランドの

2024年9月読書記録 ドスト、ピンチョン、安吾など

9月に読んだ本は4冊。青空文庫は、今月で終わりです。まとめ記事をいつか書くかもしれません。 ドストエフスキー『白痴』(亀山郁夫訳・光文社古典新訳文庫)  再読。小説の主筋である4人の男女の話は、今回もとても興味深く読めました。ナスターシャのように、自分は不幸だ、幸せにはなれないと思い定めた人を救うことはできない。そんなことを考えさせられる話です。気が強く、プライドの塊のようなアグラーヤも、自分が年をとったせいだと思いますが、彼女の若さと、物事を曖昧なままで見過ごすことがで

ベロニカは死ぬことにした【死が差し迫る時アナタなら…】

"死ぬことにした" ってなかなか強烈なタイトルですよね。 普通に生活していると、"死"を意識することはほとんどないと思います。 "死ぬ気で頑張る" "死に物狂いで努力する" という言葉もありますが、これらで使われる"死"という単語は、もはやただの形容詞のようなものです。 最近では、ビジネス書や自己啓発本で、 ・自分がいつか必ず死ぬことを意識して今を精一杯生きよう ・明日死んだとしても後悔しないような生き方をしよう というメッセージを謳う本もあります。 それはきっと正しい

ソクラテス~プラトンの入口『ソクラテスの弁明』他(改訂)

①「西洋哲学の祖」ソクラテス 時は紀元前400年頃の古代ギリシャに遡ります。 この時代の哲学は、プロタゴラスに代表される「相対主義」が主流でした。 「世の中に絶対的なことなどないのだ」「価値観は人それぞれであり、状況次第で変わるものなのだ」という考え方です。 それはある面において柔軟な考え方であると言えます。 しかし一方で、何でも「時と場合による」で済ませてしまっては「高い理想(イデア→後述)や真理を求める」という姿勢が欠落してしまうという一面があります。 民主主義

『百年の孤独』初読感想文 前編 〜「象徴」と「止まらない流れ」と「おとぎ話」〜

※これから読む方々のためになるべく物語の結末部分に触れないようにしたいと思っていますが、説明上どうしても物語の流れや途中のポイントなどネタバレしてしまうかもしれません。少しでもダメな人はご遠慮ください。 ※ 同時に公開中の後編はネタバレ全開です。ネタバレ大丈夫な方はそちらも読んでいただけると嬉しいです。 はじめに  まずは文庫化!   嬉しいです。  次は『薔薇の名前』の文庫化を希望します!  ジョン・アーヴィングの『また会う日まで』の後の、文庫化していないもの全てと、す

海外文学 古典コテン(一)

全く手入れをしない自分の本棚を人様にさらすなどはみっともないことと重々承知はしているのたが、常々疑問だったことを書いてみようと思い立った。常々疑問つったって自分の本棚に疑問などあるはずもなかろうと、それもまたご尤もであるが疑問なのだから仕方がない。 タイトル画像は私の本棚にある有名な海外古典作品なんであるが、さっぱり記憶にないんである。内容を覚えていないということはままあることではあるんだが、内容どころか読んだ記憶さえない。いやいや、それどころか買った記憶も、ない。買った記

美しく危うい青春の恋、そして…◇『禁じられた約束』

 子どものころに「こんな大人がいてほしい」と願ったような大人に、いまの自分は、なることができているだろうか。いろんな言い訳をして、自分のことは棚に上げ、子どもや年下に「こんな人でいてほしい」を押しつけてはいないだろうか?  ストーリーとは直接関係ないけれど、ロバート・ウェストール『禁じられた約束』を読んで、そんな問いが残りました。  ロバート・ウェストール『禁じられた約束』  第二次世界大戦が始まる直前のイギリス。14歳のボブは、同級生の病弱な少女ヴァレリーと、ひょんなこ