箱男

小説やエッセイ、漫画を描いています。好きな作家は江戸川乱歩、安部公房、楳図かずお、古谷…

箱男

小説やエッセイ、漫画を描いています。好きな作家は江戸川乱歩、安部公房、楳図かずお、古谷実など。

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最近の記事

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もみまんレビュー(八天堂みるくもみじ饅頭/ラムネ餡もみぢ/ピオーネもみじ)

    • 芸術です!(レンタルビデオの思い出)

      未成年というのはとかく邪魔が入るものである。現代人の必需品であるスマホを契約しようとすると、親の同意が必要となる。 自分でスマホ代を稼ごうとバイトしようとしても、親の同意が必要。さりとて中古ショップでゲームや漫画を売ろうとしても、やはり親の同意が必要となる。 アダルトビデオを借りようとしたって、そもそも貸してもらえない。ポルノ雑誌も売ってもらえないが、ヌード写真集なら大手をふって買うことができる。 ヌード写真集はポルノではなく芸術だからだ。 中学生のころ、ある人気女優が

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        もみまんレビュー③(ワンちゃんもみじ焼き/もみぢ饅頭メロン餡/薔薇とピーチもみじ)

        • 最強の敵、最強の味方(筆箱の思い出)

          補助輪を外したばかりの自転車にまたがり、時速360キロで近所を走る。マッハターボに乗っている気分だった。 大きな月極駐車場につくと、車のかげに隠れ、ターボレーザーをかまえた。車から飛び出し、敵にむかって引き金をひくと、ピピピピと音が鳴ってレーザーが発射された。 当時、小学1年生だった私は『高速戦隊ターボレンジャー』になりきり、見えない暴魔百族と戦っていた。 「箱男、お前ひとりでなにやっとん? 刑事ごっこ?」 声をかけられふりむくと、同じクラスの白木くんがサッカーボール

        もみまんレビュー(八天堂みるくもみじ饅頭/ラムネ餡もみぢ/ピオーネもみじ)

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        • 芸術です!(レンタルビデオの思い出)

        • もみまんレビュー③(ワンちゃんもみじ焼き/もみぢ饅頭メロン餡/薔薇とピーチもみじ)

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        • 最強の敵、最強の味方(筆箱の思い出)

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        • エッセイ
          25本
        • 菓子箱
          9本
        • 小説・漫画
          29本

        記事

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          もみまんレビュー②(キットカットもみぢ饅頭味/シャインマスカットもみじ/キャラメルもみじ)

          もみまんレビュー②(キットカットもみぢ饅頭味/シャインマスカットもみじ/キャラメルもみじ)

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          先生(シンガポールへの手紙)

          大学生のころ研究者をめざしていた。私大は学費が高いので、国立の大学院への進学を希望しており、週1で大学院受験の予備校に通っていた。  授業は個室で1対1。宿題でイギリスの大学の社会学の教科書を訳してきて、先生が訳文をチェックしながら内容を解説するというものだった。 先生は大学の非常勤講師を兼任している40代半ばの男性。専攻は国際関係論だが、社会科学一般に造詣が深かった。 私はたびたび訳文の文章をほめられた。小説が好きなことを話すと、先生は翌週には漱石の『こころ』を読んで

          先生(シンガポールへの手紙)

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          もみまんレビュー①(もみじ饅頭スライム/パイナップルもみじ/元祖もみぢ饅頭)

          もみまんレビュー①(もみじ饅頭スライム/パイナップルもみじ/元祖もみぢ饅頭)

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          初孫(酒ぶたの思い出)

          小学3、4年生のころ、学校が終わると、近所の酒問屋にまっすぐ向かっていた。 酒問屋の敷地には酒の空き瓶のケースが山のように積んであり、毎日のように友達とのぼってお宝を探していた。お宝というのは酒瓶のふたのことだ。 空き瓶のなかにはふたが残されたままのものがあり、ふたをもらってコマのようにして遊んでいた。学校で友達とどちらが長くまわしていられるか勝負するのが流行っていた。 酒ぶたの底はぺたんこであり、コマのようにうまくまわるはずはない。 そこで秘密兵器、〝星ピン〟の登場で

          初孫(酒ぶたの思い出)

          「うやまわんわん〜犬将軍を崇める一族〜」第八章 大団円(その6)

          1 どのくらい時間が経っただろう? 夜の海を漂っているように、あたりはひっそりとしていた。 ずっとつま先立ちで足がつりそうだった。僕は失禁しており、ロッカーのなかには臭いが立ちこめていた。 恐れていた2学期の影が実体となって現れた。犬彦くんのように掃除ロッカーに監禁され、首を吊るされていた。 犬彦くんの二の舞はごめんだった。あのころのように狛音は助けにきてくれない。自分ひとりで乗り越えなければならなかった。 僕は強くならなければならない。狛音にヒーローだと言ってもらった

          「うやまわんわん〜犬将軍を崇める一族〜」第八章 大団円(その6)

          「うやまわんわん〜犬将軍を崇める一族〜」第八章 大団円(その5)

          1 鮪吉くんの部屋の本棚には、古い図鑑が20冊以上ならんでいた。 はじめて分犬守の屋敷を訪れた日、狛音がインベーダーゲームで遊んでいるあいだ、僕は本棚から取り出した恐竜の図鑑を読んでいた。 図鑑によると、恐竜は1億5000万年にわたって地上を支配していたそうだ。その時代、哺乳類は恐竜が寝静まった夜に息をひそめるように生活していたという。 6500万年前、恐竜は絶滅した。絶滅した原因として、隕石衝突説などたくさんの仮説が紹介されていたが、僕が気に入ったのは〝哺乳類に卵を食

          「うやまわんわん〜犬将軍を崇める一族〜」第八章 大団円(その5)

          「うやまわんわん〜犬将軍を崇める一族〜」第八章 大団円(その4)

          「長い間、お世話になりました」 「光村くん、本当に車で送っていかなくていいのか?」 病みあがりの久作さんの手は、みくるの肩におかれていた。みくるはギュッとぬいぐるみを抱いている。 犬守家総出で玄関先まで見送りにきてくれた。庭のほうから蝉の声が聞こえてくるが、夕方の風は心なしかやわらかく感じられた。 もうじき夏休みは終わりだった。8月の間をすごした犬守家を、僕はついにあとにするのだ。 「駅まで歩いていきます。お世話になった館林の街をゆっくり見て帰りたいんで」 「パパ、

          「うやまわんわん〜犬将軍を崇める一族〜」第八章 大団円(その4)

          アンドロメダ(腰パンの思い出)

          中学の校門を出ると、私は学ランのズボンをぐいぐいと押しさげた。 当時、〝腰パン〟が流行っていた。ヤンキーたちはパンツが見えるくらいズボンを下げてはいていたが、私には学校で腰パンをする勇気はなかった。 校門を出てから彼らのまねをしてみたが、ズボンを下げると、学ランのすそからダサいガチャベルトが顔を出した。 学校帰りにレンタルビデオ店に立ち寄った。その日は新作の半額デーだった。洋画コーナーの棚を物色していると、 「もしかして、箱男?」 うしろから声をかけられた。ふりむくと

          アンドロメダ(腰パンの思い出)

          「うやまわんわん〜犬将軍を崇める一族〜」第八章 大団円(その3)

          食堂で冷やしうどんを食べていた。半熟卵がのっており、麺はつるつるでおいしかった。どことなく花山うどんに似ていた。 店内に直売コーナーがあったので、「これ、こないだ駅前で食べたうどんと同じやつ?」と狛音に訊こうと思ったが、食堂に彼女のすがたは見当たらなかった。昼に顔を見せないのは2回目だ。 朝食の帰り、狛音と廊下を歩いていると、円香さんに声をかけられた。 「これからお医者さんが来ることになったから」 「パパの具合、まだ悪いんですか?」 「……うん。一晩寝たらよくなると

          「うやまわんわん〜犬将軍を崇める一族〜」第八章 大団円(その3)

          「うやまわんわん〜犬将軍を崇める一族〜」第八章 大団円(その2)

          1 昼前ごろ、机で残暑見舞いを書いていると、狛音がひさしぶりに部屋を訪ねてきた。 みくると仲良くなってから寄りつかなくなっていたが、彼女はノックの返事も待たずにドアをあけると、当たり前のようにベッドのふちに腰をおろした。 「きのうはなかなか寝つけなかったよ」 「……うん」 プードルの公方様は偽物の血筋だと、きのう工房さんから教えられたが、狛音はその話をどう受けとめたのだろう? なんと言っていいかわからなかったので、 「いろいろあったけど、柴犬の公方様の謎は解けたね」

          「うやまわんわん〜犬将軍を崇める一族〜」第八章 大団円(その2)

          「うやまわんわん〜犬将軍を崇める一族〜」第八章 大団円(その1)

          1 久作さんの手紙をたずさえて、狛音と分犬守の屋敷をたずねた。道すがら狛音は口数が少なく、瓦屋根の門の前に立つとため息をついた。 「いらっしゃい」 藤色の着物姿のゆみ子さんが格子戸をあけ、僕らを招き入れた。 ツナキチが玄関まで出迎えにきてくれたが、クンクンと鼻を鳴らすと座敷にもどり、いつものテーブルの下でからだを丸めた。 なにかを嗅ぎとったのだろうか。僕と再会したよろこびのあまり、うれションした前回とは大違いだった。 ゆみ子さんとテーブルをはさんで向かい合った。老眼

          「うやまわんわん〜犬将軍を崇める一族〜」第八章 大団円(その1)

          「うやまわんわん〜犬将軍を崇める一族〜」第七章 犬彦の秘密(その4)

          1 狛音とみくるは本当の姉妹のように仲良くなった。狛音をとられてひとりっ子にもどった僕は、さみしい思いをしていた。 あれから狛音はみくると2人で部屋にこもりがちになったが、久作さんは触らぬ神に祟りなしといった感じだった。 〝大葬の儀礼〟のときも視線を合わせず、父娘のあいだには終始すきま風が吹いていた。黒白幕で覆われた屋敷にさらに暗い影を落とした。 広間いっぱいに並べられた座布団に黒ずくめの男女が座っていた。 お焼香のとき、工房さんの見よう見まねで、座布団の最前列にいる

          「うやまわんわん〜犬将軍を崇める一族〜」第七章 犬彦の秘密(その4)