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2024年9月読書記録 ドスト、ピンチョン、安吾など


9月に読んだ本は4冊。青空文庫は、今月で終わりです。まとめ記事をいつか書くかもしれません。

ドストエフスキー『白痴』(亀山郁夫訳・光文社古典新訳文庫)

 再読。小説の主筋である4人の男女の話は、今回もとても興味深く読めました。ナスターシャのように、自分は不幸だ、幸せにはなれないと思い定めた人を救うことはできない。そんなことを考えさせられる話です。気が強く、プライドの塊のようなアグラーヤも、自分が年をとったせいだと思いますが、彼女の若さと、物事を曖昧なままで見過ごすことができない性格に同情してしまいました。彼女もまた、ナスターシャとは別の意味で、幸せよりも、自分の心に忠実であることを選んだのかもしれません。
 心に闇を抱えたナスターシャという女性が周囲を巻き込み、カタストロフを引き起こす。難しい哲学論や宗教の話がない分、ドストエフスキーの長編小説としては、『カラマーゾフの兄弟』よりも読みやすいかと思います。


トマス・ピンチョン『LAヴァイス』(栩木玲子・佐藤良明訳・新潮社)

 一時、広義のミステリー小説ばかり読んでいた時期もあったのですが、数年前にミステリーは卒業だと決めて、以後マイクル・コナリー作品以外は読んでいません。
 ところが、先月永井荷風の『来訪者』を読み、その余韻で犯罪小説的なものを読みたくなりました。その時に、この『LAヴァイス』を思い出しました。犯罪小説でもあり、私立探偵の登場する探偵小説でもあり、パルプ・ノワールようでもあり。ミステリー小説そのものなんですが、作者がピンチョンだし。
 
 学生の頃、ピンチョンの『競売ナンバー49の叫び』を古本で読んで、私には難解すぎる作家だと思っていました。ところが、『LAヴァイス』を映画化したポール・トーマス・アンダーソンが「クスクス笑いながら読んだ」と話していたので、気になって、読んでみたんですね。すると、確かに面白い。今回は再読ですが、楽しく読書できました。1970年前後のロサンゼルスが舞台なので、その時代に興味がない方にはちょっと厳しいかもしれませんが……。


坂口安吾『桜の森の満開の下』

 青空文庫で読みました。坂口安吾といえば、太宰治や織田作之助と並んで無頼派の作家と言われますが、安吾に比べると、太宰や織作は品の良いお坊ちゃんだなと思います。だからこそ、今でも人気が高いのかもしれません。
 安吾は、虚無とかニヒルとか、とにかく暗く寒々としたものを抱え込んだ人だと感じます。
 といって、安吾が冷たい人だというわけではない。日本の近代文学者には、自己愛と性愛以外ないのでは? と感じる人がけっこういます。
 安吾は逆に、熱い感情を持つ人だったような気がします。それなのに、暗い世界に足を踏み入れているようなところもあって。
 グロテスクなのに、繊細で美しい、不思議な小説でした。


カーソン・マッカラーズ『心は孤独な狩人』(村上春樹訳・新潮文庫)

 孤独を美しいものとして書いた小説は多いですが、この作品は、孤独な者の不器用な部分、思い込みが強くて他人を全く理解できていない部分など、暗い部分にも焦点を当てています。
 私自身は、美しく孤独だったことなどいちどもなく、この小説の登場人物たちのように、不器用にのたうち回りながら孤独と格闘していた気がします。
 ただ、登場人物の中でも、社会状況に不満を持ち、現状を受け入れている周りの人にも不満を持つ男性2人ーー彼らは、そうした不満が昂じて、人と打ち解けない暴力的な人間になってしまうのですが、この2人については、「うーん、昔はこんな人もいたのだよなあ」とぼんやり思うことしかできませんでした。学生運動が盛んだった時代を経験している翻訳者の村上春樹さんなら、この2人についても、手に取るように理解できるのだろうと思いますが。
 村上春樹訳の小説では(今本屋で買えるもの限定)、グレイス・ペイリーの短編集と並んで、難度高めです。
 村上さんの翻訳で、一番おすすめなのはカポーティの小説です。これなら、海外文学に馴染みのない方でも問題なく読み進めることができると思います。


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noterさんの小説も2作読みました。

 一つは、早時期仮名子さんの『町中華屋のマイコー』。創作大賞2024の中間選考突破作品です。映画でも小説でも、バディものが大好きなんですね。そこから派生して、ブロマンスやライトなBLも好きです。なので、この作品もとても楽しめました。町中華に行きたくなる、北京ダックも食べたくなる、おまけに大阪名物のあれも食べたくなる連作短編でした。

 もう一つは、かし子さんの『告白』。かし子さんのことは、創作仲間の渡邉さんに教えていただきました。エブリスタのシステムがよくわかっておらず(昔、読み専でアカウントも持っていた筈なのに)、1話ずつ読むつもりが、まとめて読むことになりましたが、好きな時代が舞台ということもあり、とても楽しめました。



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