十四

物語を作ることが好きです。 小説と演劇と美術と音楽について 少しずつお話していきたい…

十四

物語を作ることが好きです。 小説と演劇と美術と音楽について 少しずつお話していきたいと思っています🌱

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  • 『星に願いを』二つの手記と一つの付記と極秘文書三一九号

    『星に願いを』全十一話(完結)をまとめました。 創作大賞2024 ファンタジー小説部門に参加中。 ヘッダーはちょびさん(https://note.com/chocobis_24/)に作っていただきました。感謝です。

最近の記事

ジョン・アーヴィング 『ガープの世界』  その1(全六回)    

 その1 『狂気と悲哀。だけでなく』  同じ作品を繰り返し読むことが好きです。  読む度に新しい発見があるような長い長い物語。  素晴らしい作品というものは、何度読んでも新鮮な驚きがあって、再読に値する深みを持つものだと思います。  例えばドストエフスキー。  『罪と罰』と『白痴』と『悪霊』も何回か再読しましたが。  特に好きなのは『カラマーゾフの兄弟』。  気に入った章や好きな場面だけを読む時もあり、それを含めると20回以上は読んでいるかもしれません。  学生の頃は気

    • 『星に願いを』第十一話(最終話)      ──七つ村に関する二つの手記と一つの付記と極秘文書三一九号──

       部屋はいつの間にか元の白さを取り戻していた。  その中心でぼんやりと立ち尽くす私の耳に、慈愛に満ちた柔らかな御声が響いた。 「あなたには申し訳なく思っています。あなたを選んだこと。あなたに託したこと。それはあなたの重荷になるかもしれません。でも今。他に方法がないのです。」 御声はまるで七つ様が私のそばに降り立ち、寄り添ってくださっているように耳に響いた。  私は少しずつ心の落ち着きを取り戻していった。 「地の民の中に現体制に不満を持つ者がいるのだよ。そしていよいよ行動を起

      • 『星に願いを』 第十話          ──七つ村に関する二つの手記と一つの付記と極秘文書三一九号──   

        <極秘文書319号> 持ち出し不可 閲覧不可   手記 二    『七つ村 探索者イサキによる記述』(抜粋部分)  そして御簾は上げられた。  局長が御簾に手を掛けゆっくりと巻き上げると白い光が溢れ出し、控えの間全体が明るくなった。突然の眩さに私は戸惑いしばし動けなくなり、目が慣れるまでしばらく時間がかかった。(それほど眩い光だった。)  ようやく視力が回復すると、向こう側に部屋のような白い奥行きが見えた。  そこに七つ様が御坐すはず。  そう思って目を凝らしたが、私に

        • 『星に願いを』 第九話          ──七つ村に関する二つの第九話手記と一つの付記と極秘文書三一九号──  

           付記    『記述者 北面担当所属 F.カザミ』  手記はここで終わっている。続きはない。  書かなかったのか書けなかったのか。書いたが失われてしまったのか。  多少の説明が必要と判断し、付記をつける。    手記は不完全だ。  これを読んだ者はおそらく途中で違和感を感じただろう。探索者イサキの手による記述の中程が欠落しているためだ。先日南西方面担当の者が偶然この部分を発見したため、これらを一つにまとめ保管することとなった。ただしそれによって全文、極秘扱いとなる。  

        ジョン・アーヴィング 『ガープの世界』  その1(全六回)    

        • 『星に願いを』第十一話(最終話)      ──七つ村に関する二つの手記と一つの付記と極秘文書三一九号──

        • 『星に願いを』 第十話          ──七つ村に関する二つの手記と一つの付記と極秘文書三一九号──   

        • 『星に願いを』 第九話          ──七つ村に関する二つの第九話手記と一つの付記と極秘文書三一九号──  

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        • 『星に願いを』二つの手記と一つの付記と極秘文書三一九号
          11本

        記事

          『星に願いを』 第八話         ──七つ村に関する二つの手記と一つの付記と極秘文書三一九号──    

           発見された書物は森の民が修繕し大切に保管するという決まり事。  だがそれを気に入らない村や部族もあるらしいということ。  探索者としてあちこちを彷徨っていると、そういうことは自然と感じられてしまうものだ。  しかし戦装束とは。  野良の狩り人ならともかく、村同士の協定があるのだし、何よりそれは神々のオトリキメに背くことになる。 「一つ様は? まさかそのような事態を一つ様がオミチビキなさるはずはないでしょう?」 と私。 「いや、一の神のお考えはわからないのだ。」 と村長。

          『星に願いを』 第八話         ──七つ村に関する二つの手記と一つの付記と極秘文書三一九号──    

          『星に願いを』 第七話          ──七つ村に関する二つの手記と一つの付記と極秘文書三一九号──

            手記 二    『七つ村 探索者イサキによる記述』    ここから先は私が書かなければならない。  私は七の村の探索者イサキという者。  村の北東部、七の村と五の村の間、主に山間部を担当し、その方面の埋もれた書物の探索をしている。  いや、していた、と言うべきか。  この数日起こった出来事のおかげで、この先探索者としてどれほど活動できるのか、今の私には見当もつかない。  だが私には別の使命が与えられたのだと思っている。  その使命をこれから果たすつもりだ。  私は書

          『星に願いを』 第七話          ──七つ村に関する二つの手記と一つの付記と極秘文書三一九号──

          『星に願いを』 第六話          ──七つ村に関する二つの手記と一つの付記と極秘文書三一九号──

          「よく頑張ったね。少し休憩しよう。」  だいたい一時間ほどは歩いたでしょうか。  気がつくとそこは少し広がりがある高台でした。冬の寒さにすっかり葉の落ちた木々の隙間から、先ほどまで私たちがいた村が見下ろせました。私たちはかなり高いところまで登ってきたのです。 「外を歩くのは初めてだろう。大丈夫かい?」  私は生まれて初めて村を見下ろしました。そしてとても驚きました。遠くから見る村はとても小さくて、森の周りには何もないのことがわかりました。そこには荒れた土地が広がるばかりなの

          『星に願いを』 第六話          ──七つ村に関する二つの手記と一つの付記と極秘文書三一九号──

          『星に願いを』 第五話          ──七つ村に関する二つの手記と一つの付記と極秘文書三一九号──

           あの日。  あの朝に戻りましょう。  肌寒い早朝。  ハルヤさまは小書庫にお見えになりませんでした。  時間に正確な方でしたから、きっと何か事情があると思い、元々は一人でやるはずでしたし気にせずに作業を進めていたのですが、やはり雑多な、分類の分かりにくいものが多くて。  判断できず、ハルヤさまを呼ぶべきかどうか私は悩んでいました。  いずれにしても朝食の時間が迫っていました。遅刻してはまた叱られてしまいます。  少し早めに切り上げた方が良いだろうと思い、片付け始めると、

          『星に願いを』 第五話          ──七つ村に関する二つの手記と一つの付記と極秘文書三一九号──

          『星に願いを』 第四話          ──七つ村に関する二つの手記と一つの付記と極秘文書三一九号──   

           さてあの日の朝ですね。  あ。でももう一つだけお話ししなければ。  あの日、あの場所で。朝早くから小書庫で私が作業をすることになったのは何故なのか、それをお話ししなければなりません。  とは言っても、実は私にもよくわからないのです。ただおそらくそれは、ひとえに、ななつさまのオサキミのおかげだったのでしょう。  ななつさま、七の神様は、私たち森の民の守り神様です。いつも私たちを見守りお導きくださるありがたい神様です。  ななつさまは例年、ひと月ほど、隠の月としてお隠れにな

          『星に願いを』 第四話          ──七つ村に関する二つの手記と一つの付記と極秘文書三一九号──   

          『星に願いを』 第三話          ──七つ村に関する二つの手記と一つの付記と極秘文書三一九号──   

           あの日の朝。  私は別館の小書庫で作業をしていました。  ああ、でも小書庫の説明もいたしましょう。  遠い祖先が大地に降り立った時、大きな衝撃が大切な書物をばらばらにしてしまいました。  世界中に散らばった、文字で書かれたあらゆるものを探し収集し修繕し、次の世代へと受け継ぐようにするのが森の民の、この村の役目です。それはそれはたくさんの書物が、文字で書かれたあらゆるものがこの村に集められてきました。  村には本書庫館といくつもの分館、別館、離れの小書庫群があります。私が

          『星に願いを』 第三話          ──七つ村に関する二つの手記と一つの付記と極秘文書三一九号──   

          『星に願いを』第二話          ──七つ村に関する二つの手記と一つの付記と極秘文書三一九号──     

           あの日の朝。  私は朝早くから一人、別館の小書庫の中で書物の整理をしていました。  そんな時間から作業を始めていたのはひとえに私の指導係であるハルヤ様の提案でした。 「丁寧に。できる限り丁寧に。それは私たち司書の大切な心がけなのだがね。」 それはハルヤさまが私の指導係となって、確か数日が経っていたと思います。 「カナエ。あなたの仕事は大変丁寧で良い。それは素晴らしいことだ。しかし時間がかかりすぎる。それは問題だ。だから明日からは、朝食をとる前にここに来て作業を始めるように

          『星に願いを』第二話          ──七つ村に関する二つの手記と一つの付記と極秘文書三一九号──     

          『星に願いを』第一話          ──七つ村に関する二つの手記と一つの付記と極秘文書三一九号──  

          ※  [全十一話完結(30,260字)。毎週火曜日二話ずつ更新予定。] ※ [創作大賞2024「ファンタジー小説部門」応募作品]       一枚の写真がある。  男性と女性と一人の子供。女性の腕の中には小さな赤子が抱かれている。女性も男性も微笑んでいる。  子供は色とりどりの刺繍が入った美しい赤い服を着て少し緊張した表情をしている。  きれいだなあ。  うん。きれいだね。  お父さんと、お母さんと赤ちゃんと。  それから小さな女の子?  家族かな?  家族だな。

          『星に願いを』第一話          ──七つ村に関する二つの手記と一つの付記と極秘文書三一九号──