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『星に願いを』第一話 ──七つ村に関する二つの手記と一つの付記と極秘文書三一九号──
あらすじ
「手記一」司書見習いカナエ
七つ村は世界に散らばった書物を集め文字の文化を守る村。村の守り神七つ様の指示で村中の蔵書の手入れをすることに。司書見習いカナエは早朝から作業をしていたが、ある朝探索者イサキによって村の外へ連れ出される。山上からカナエが見たものは。
「手記二」探索者イサキ
書物探索から戻ったばかりのイサキは村に迫る危険を予知した七の神に呼ばれ、カナエを連れ五の村へ向かうよう指示を受ける。その危険とは。
「附記」北面方面所属カザミ
10年後。カナエとイサキ、七つ村のその後の記述。
「極秘文書三一九」イサキの手記の抜粋部分
この世界の本当の姿についての記述。
※ [全十一話完結(30,260字)。毎週火曜日二話ずつ更新予定。]
※ [創作大賞2024「ファンタジー小説部門」応募作品]
一枚の写真がある。
男性と女性と一人の子供。女性の腕の中には小さな赤子が抱かれている。女性も男性も微笑んでいる。
子供は色とりどりの刺繍が入った美しい赤い服を着て少し緊張した表情をしている。
きれいだなあ。
うん。きれいだね。
お父さんと、お母さんと赤ちゃんと。
それから小さな女の子?
家族かな?
家族だな。
いいなあ。
手記 一
『七つ村 司書見習いカナエによる記述』
この数日間に起こったことを文字にして残すようにとイサキさまに言われました。
「私が書いてもいいのでしょうか?」
と尋ねると
「いや他に誰がいるのだ?」
とイサキさまがお笑いになり、私は少し考えてから答えました。
「そうですね。いませんね。でも上手に書ける自信がありません。何から始めたら良いでしょうか。」
「何から? そうだね。どうしようか。私も書くことは得意ではないし。」
と言ってイサキさまも少し考えてから、ふと思いつかれた様子でおっしゃいました。
「こういう時。君の指導教官なら何という?」
「そうですね。ハルヤ様ならきっと。始まりから始めて終わりまできたら終わりにするのだ、とおっしゃるでしょう。難しいことはない。ただ丁寧に書きなさい、と。」
「ではそうすればいいだろう。」
「でもはじまりって? そもそものことの始まりはなんだったのでしょうか?」
そう私が尋ねると、イサキさまは黙ってしまいました。
「始まり・・・。そう。始まりは。」
夜の帳が下り、美しい星空が広がっていました。イサキ様はそれらを見上げて仰りました。
「いや。それは私にもわからないな。」
それから私たちは黙ったまま、この数日間のことに思いを馳せ、少しの間胸を痛めました。
「あ、ななつさまならお分かりになるでしょうか?」
と、私が尋ねると、
「七つ様?」
とイサキ様は繰り返し、星々の遠い遠い煌めきを見つめたまま、ぽつりと呟かれました。
「いや。どうだろうね。」と。
「ではどうしましょう?」
私の声には不安が滲んでいたのでしょう。
イサキさまは振り返り、短く息を吐き、筆を持つ私の右手にそっと触れてくださいました。
「ではこうしようか。お前の指導教官には悪いが、あの朝から始めよう。」
「あの朝から?」
「そう。あの日の朝。我々が出会った朝から。どのみち我々が事態に気付いたのもあの朝なのだし。」
そう言ってイサキさまは苦笑しました。
「多少話が前後しても構わないよ。とにかく記録しておけばいい。とりあえず忘れないうちになるべく多くのことを記録して。そうしておけば、向こうで落ち着いてからでもゆっくり直すこともできるだろうし。だからとりあえず、あの日の朝から。」
イサキさまのおっしゃる通りかもしれません。私にもそうすることが一番良いように思えてきました。ここに至っても私には、まだこの状況がよく飲み込めない。ですから覚えている限りなるべくたくさんのことを書き記し、五の村に、いつつさまにお伝えしなければ。
「そうですね、ではあの朝から。」
それから私はハルヤさまのお言葉を思い出しました。
丁寧に。できる限り丁寧に。
そうですね。丁寧に。
始めましょうあの日の朝から。 (1,288文字)
[第二話] 司書見習いカナエの手記② (2,870字)
[第三話] 司書見習いカナエの手記③ (2,783字)
[第四話] 司書見習いカナエの手記④ (3,383字)
[第五話] 司書見習いカナエの手記⑤ (2,391字)
[第六話] 司書見習いカナエの手記⑥ (3,742字)
[第七話] 探索者イサキの手記① (2,673字)
[第八話] 探索者イサキの手記② (3,799字)
[第九話] 附記(F・カザミによる) (1,628字)
[第十話] 極秘文書319 ① (3,314字)
[第十一話(最終話)] 極秘文書319 ② (2,873字)
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