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『星に願いを』 第九話 ──七つ村に関する二つの第九話手記と一つの付記と極秘文書三一九号──
付記
『記述者 北面担当所属 F.カザミ』
手記はここで終わっている。続きはない。
書かなかったのか書けなかったのか。書いたが失われてしまったのか。
多少の説明が必要と判断し、付記をつける。
手記は不完全だ。
これを読んだ者はおそらく途中で違和感を感じただろう。探索者イサキの手による記述の中程が欠落しているためだ。先日南西方面担当の者が偶然この部分を発見したため、これらを一つにまとめ保管することとなった。ただしそれによって全文、極秘扱いとなる。
手記の欠落部分はおそらく誰かが故意に抜き取ったと思われる。
あるいはイサキ本人が、事の重大さを考慮し、自ら抜き取り、別に保管していたのかもしれない。私は後者であると考える。無理やり切り取ったような跡や破損はなく汚れも少ない。本人が大切に保管していたのではないだろうか。
おそらくこの手記を書き終えたイサキは一部を抜き取り、それを自ら保管し、残りを見習い生カナエに持たせたのだろう。そして二つの手記と抜粋部分が私の手元にあるということは。
現在イサキとカナエの生存は不明。
しかし断定は避けたい。
あの日、地の民が起こした混乱は、森の民の日常を破壊し、その東部や北部にあった水辺の民、林の民も巻き込んだ。現在、いずれの村も実質上存在しない。
森の村に関して言えば、ほぼ全てが破壊され失われた。あれから十年以上が経過したというのに、あの地は焼け野原のままだ。それはあの村を、数々の書庫を焼き払った炎の威力を、今も物語っている。
世界は変貌し、今も混沌としている。
二つの手記(と抜粋部分)。
これらが私の手元に送られてきたのは、おそらく私があの村の、書物を守る森の民の出身であるところが大きい。
私はカナエを知っている。彼は幼い頃から優秀で、司書として将来を期待されていた存在だった。彼は誰よりも本を読むことが好きだった。その小さな手で大きな本を広げて熱心に読書をする姿が微笑ましかった。私は彼の先輩として、ルームメイトとして、また幼い頃からの友人として、付き合えることが嬉しかった。
イサキのことを私は知らないが、探索者の、書物に対する貢献に敬意を表したい。
私のことも一応記述しておこう。
あの日のことは鮮明に覚えている。
あの日、筆頭司書補に導かれ、辛くも村を出たまだ若い、幼い見習い生たちの中に私はいた。子供たち、司書見習いだけでもなんとか逃そうと、局の上層部が計らってくれたのだ。おかげで私はなんとか生き延びることができた。背後に燃え盛る炎が恐ろしかったのを今も覚えている。
しかし追手の足は早く逃避行は長く続かなかった。気がついた時には同じ見習生のユズルと二人きり。互いに必死になって、何としても離れまいと、手を繋ぎ走った結果だった。
彷徨い疲れはて、半ば行き倒れていたところを後に連合する五つ村の捜索隊に保護される。五の神が七の神からの御声を受け、人手を差し向けていたのだ。その後、ユズルとともに連合の北面部に置かれることとなる。
来月ユズルに二人目が生まれる予定だ。彼女とその傍で眠る幼な子の安らかな寝顔を見ているとたびたびあの写真を思い出す。
カナエが大切にしていたあの写真。
あの家族の写真。
いい写真だなあ。
いつかこんな写真を撮りたいな。俺たち兄弟みたいだから、一緒でもいいんじゃないか?
一緒に?
俺とじいちゃんと、お前と。それからそのうち俺らも結婚とかしてさ。
ユズルさんと?
からかうなよ。だけどさ。そうなったらいいと思うだろ? みんなで。どうかな?
その時小さく恥じらうように、コクリとカナエが頷いた。
何も知らずに無邪気に交わした遠い日のあの約束。あの時はその後のことなど予想できるわけもなく。
かろうじて写真技術を持っていたはずの八つ村はすでに失われた。でもいつかきっと。
まだ世界は混沌として争いは絶えず、穏やかな世界とは程遠いのだが。
それでも。いつかきっと。 (1,628字)
前話 第八話 イサキの手記 ② (3,744字)
次話 第十話 極秘文書319 ① (3,314字)
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