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書評(国内ミステリ)

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【書評】汝、破ることなかれ『十戒』(夕木春央)

【書評】汝、破ることなかれ『十戒』(夕木春央)

ひゃー、すごいもの読んじゃったよー。
というのが、読了してからいちばんの感想だった。
『方舟』という衝撃作を世に送り出した著者の次の一手は?
どんな切り口で読者を驚かせてくれるのだろう?
期待を込めて読んだ今作「十戒」はとんでもない怪作だった。

舞台は孤島。
その孤島を管理していた叔父が亡くなり、姪である里英(主人公)と、叔父の兄弟である父親と、その孤島をリゾート開発しようする関係者たちと、叔父

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【書評】毒のない透明な世界『世界でいちばん透きとおった物語』(杉井光)

【書評】毒のない透明な世界『世界でいちばん透きとおった物語』(杉井光)

発売日に買ったのに、今まで読めなかったこちら。
私はひねくれ者なので、あまりにも世の中で激推しされると読めなくなってしまう。
「そんなに人気なの?ふーん」と冷めた態度で積ん読行き。
しかも「電子書籍化不可能」。その文言でさらにこじらす私。
というわけで、発売してから約4か月経ってようやく読んだ次第なのである。

大御所作家の愛人の息子で、会ったこともないその父親が癌で亡くなった。
主人公はその大御

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[書評]あなたの正体にガッツポーズ『青銅の魔人 私立探偵明智小五郎』(江戸川乱歩)

[書評]あなたの正体にガッツポーズ『青銅の魔人 私立探偵明智小五郎』(江戸川乱歩)

ときどき無性に江戸川乱歩が読みたくなる。
その陰鬱な文体、美しい犯罪、正体不明の怪盗、時代を感じさせる文体、私立探偵……。
古典ミステリが好きな人間には、江戸川乱歩はすべてそろっている完璧なミステリ作家だと思うのだ。

さて今回、私立探偵明智小五郎が挑むのは「青銅魔人」というロボットと言っていいのか、描写の感じは完全に「オズの魔法使い」のブリキのロボットを彷彿とさせる青き銅の泥棒。
そう、泥棒なん

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[書評]物理トリックに愛を込めて『月灯館殺人事件』(北山猛邦)

[書評]物理トリックに愛を込めて『月灯館殺人事件』(北山猛邦)

本格ミステリであり、本格ミステリ作家たちが殺人事件に巻き込まれる物語。
テイストとしては、「そして誰もいなくなった」(アガサ・クリスティー)×「十角館の殺人」(綾辻行人)×「硝子の塔の殺人」(知念実希人)という感じだ。

そして、北山猛邦が物理トリックの申し子なので、凄まじい物理トリックの嵐が吹き荒れる!
私は本格ミステリを読むときにロジックを重視しがちなのでだけど、本書を読むと「物理トリックをも

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見える見えない見える「恐怖」【蛇棺葬】(三津田信三)

あなたは蛇にどんな印象を持っているだろうか?
まあ、苦手な人も多いでしょう。
私は爬虫類が好きな部類の人間なので、蛇を見ることも触ることも厭いません。
なんなら、ツバメの子供を食べそうになっていた蛇のしっぽを掴んでぶん投げた経験もあるぐらいに蛇は平気な生き物なのです。

本書は直接「蛇」という生き物が関わっているのにも関わらず、なんとなく自分が思っている蛇のイメージを覆されるかもしれません。
……

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【書評】世にも奇妙な落語ミステリに寄っといで『落語魅捨理 坊主の愉しみ』(山口雅也)

【書評】世にも奇妙な落語ミステリに寄っといで『落語魅捨理 坊主の愉しみ』(山口雅也)

7つの、見事な落語のようなオチがついたミステリ。

坊主の風上にも置けない無門道絡(むもんどううらく)というある種の生臭坊主が全編を探偵として事件を解決へと導きます(と、言っても1つ目の「坊主の愉しみ」は自身にとんでもないことが起きるのですが)。

ミステリと言えば探偵が活躍することを期待する人も多いと思うが、道絡が完璧な探偵役を勤めてくれるかと言えばそうでもないのがミソ。
なぜなら舞台は江戸時代

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[書評]戦争が変えた本格ミステリ『霊魂の足 加賀美捜査一課長全短篇』(角田喜久雄)

[書評]戦争が変えた本格ミステリ『霊魂の足 加賀美捜査一課長全短篇』(角田喜久雄)

加賀美捜査一課長が戦後の日本で起こる事件の謎を解く。
そこに息づく市井の人々の声と暮らし。
加賀美が解き明かすのは、事件の真相と戦争に翻弄された人々の生活だった……。

加賀美敬介という殺人課の捜査一長が事件を解決していく、というスタンスか全編通して変わらず、そこに戦後間もない日本の風景が溶け込み、事件の背景に戦争が影を落としています。

闇市だったり、空襲で家を焼け出され何度も住所が変わったり、

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[書評]自分の髪の毛で目を縫われた姉は、『影踏亭の怪談』(大島清昭)

[書評]自分の髪の毛で目を縫われた姉は、『影踏亭の怪談』(大島清昭)

第17回ミステリーズ!新人賞を受賞した「影踏亭の怪談」のほか全4作を収録した連作短編集です。
著者は幽霊や妖怪を研究している方なので、怪談をミステリの落とし込みつつも、理屈では解決できないものの恐怖をミステリと同時に味わうことができます。

受賞作「影踏亭の怪談」は、怪談作家をしている姉が自室で椅子にガムテープで固定され、両目を自らの髪の毛で縫われるという異様な状態を弟が発見することから物語は始ま

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[書評]20年の眠りから目覚めた惨劇『新装改訂版 夏と冬の奏鳴曲』(麻耶雄嵩)

[書評]20年の眠りから目覚めた惨劇『新装改訂版 夏と冬の奏鳴曲』(麻耶雄嵩)

真宮和音(まみやかずね)という少女のもと、かつて島で共同生活した4人が、20年の歳月を経て再び「和音島」に集まった。
そこに取材で同行した如月烏有(きさらぎうゆう)と舞奈桐璃(まいなとうり)は、その孤島で殺人事件の巻き込まれて……!?

700ページ超えの大ボリュームの本格ミステリです。
裏表紙にメルカトル鮎の名前が登場したので手に取ったのですが、なんとメルカトル鮎が登場するのはラストの2、3ペー

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[書評]彼の前では犯罪すらひれ伏す『メルカトル悪人狩り』(麻耶雄嵩)

[書評]彼の前では犯罪すらひれ伏す『メルカトル悪人狩り』(麻耶雄嵩)

麻耶雄嵩が描く傲岸不遜な銘探偵の短編集。
事件が彼を招くのか、彼が事件を招くのか?

メルカトル鮎と呼ばれる、シルクハットはタキシードの「銘」探偵です。
本書が久々の登場との。
私はこの短編集から彼の活躍を読み始めたのですが、大丈夫!
彼のキャラクターは初めて読む人にかなり効いてくるので、初めて会った気がしないと思います。

今回彼が挑むの8つの事件。
・愛護精神
・水曜日と金曜日が嫌い
・不要不

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息もつかせない探偵に次ぐ探偵【帝都探偵対戦】(芦辺拓)

探偵はお好きですか?

好きではなくとも「名探偵コナン」は有名だし、世界的に見れば「シャーロック・ホームズ」や「名探偵ポワロ」なんて言う偉大な名探偵たちがフィクションの世界で大活躍している。

現実の世界で「探偵」と呼ばれる存在が殺人事件や誘拐事件などに介入することはないとしても、フィクションの世界では役立たずな警察よりも探偵の方が事件の解決率は良いかもしれない。

本書はそんな名探偵たちが、50

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妹の意見が辛辣すぎて笑えたので、【ネメシス Ⅰ】(今村昌弘)

妹の意見が辛辣すぎて笑えたので、【ネメシス Ⅰ】(今村昌弘)

ドラマ「ネメシス」(主演・広瀬すず、櫻井翔、江口洋介)が始まり、最近、サブスクで韓国ドラマからまったく帰国して来ない妹が珍しくこのドラマを見ると言っていた。

私はドラマをまったく見ない人間なので(アニメしかり、映画しかり)、「まあ、本の方を読むからまた感想を言い合おうよ」と言っていたら、妹の方が先にドラマを見たと言ってきた。

私「どうだった?」

妹「うーん……。あのねぇ……」

と、私に言っ

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