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[書評]20年の眠りから目覚めた惨劇『新装改訂版 夏と冬の奏鳴曲』(麻耶雄嵩)

真宮和音(まみやかずね)という少女のもと、かつて島で共同生活した4人が、20年の歳月を経て再び「和音島」に集まった。
そこに取材で同行した如月烏有(きさらぎうゆう)と舞奈桐璃(まいなとうり)は、その孤島で殺人事件の巻き込まれて……!?

700ページ超えの大ボリュームの本格ミステリです。
裏表紙にメルカトル鮎の名前が登場したので手に取ったのですが、なんとメルカトル鮎が登場するのはラストの2、3ページ!
「10万人の読者が唖然」と帯に書いてあるのですが、まず私はメルカトル鮎がほぼ登場しなかったことに唖然です。
加えて事件が起こるのはなんと240ページを超えてから!
「あれ?私ちょっとした短編を読んだのかな?」と、そんな気分になりました。

舞台は「和音島」と呼ばれる孤島で、1作しか映画に登場しなかった「真宮和音」という少女を崇める5人がそこで共同生活をしていました。
和音の死でその共同生活は終焉を告げるのですが、1人だけ島に残り生活を続けます。
20年の月日が経ったのち、和音の命日に合わせて再び4人が島を訪れ、和音の主演映画を上映して供養するということになるのですが、そこに雑誌記者の如月烏有とカメラアシスタントの舞奈桐璃が同行します。
奇妙の共同生活の実態や、謎めいた「和音」という少女の正体など、謎は余すことなく振りまかれています。

本格ミステリなのですが、「この人が犯人で」や「こういうトリックだ」というような正統派な本格ミステリとはちょっとちがうかと思います。
確かに殺人事件は起きますし、犯人も存在します。
しかし、謎の解かれ方は探偵が「あなたが犯人ですね?」というようなものでもありません。
全体的に「真相は藪の中」をベースに、一応の解決は示してくれますが、読者に答えを委ねる部分が多くあります。
なので、考察のしがいのあるミステリではないでしょうか。

同時に、視点である如月烏有という記者がなんというか、世捨て人のような人物で(まだ21歳だというに)、暗い過去を背負っているせいで事件に深く関われば関わるほど己の過去の泥沼にハマっていく様子が痛々しいと同時に、この物語の大切なギミックとなっていきます。
一緒に島にやってきた舞奈桐璃という女子高生も大切な役割を持っているのですが、この少女、侮れません……。

殺人事件自体の解決は割とあっさりしていますし、トリックもそこまで派手ではないです。

しかし、この物語全体に仕掛けられた大きなトリックを考えれば、殺人なんて些末なことかもしれません。

はるう


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