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[書評]あなたの正体にガッツポーズ『青銅の魔人 私立探偵明智小五郎』(江戸川乱歩)

月夜の晩、銀座の街に現れたのは、青銅の仮面をかぶり歯車の音をさせた不気味な男。貴重な時計を次々盗み出す彼が次に目を付けたのは、手塚邸の「皇帝の夜光の時計」だった。手塚氏は名探偵・明智小五郎に助けを求めるが、神出鬼没の怪盗は宝物を鮮やかに奪い去る。助手の小林少年は、浮浪少年を集めてチンピラ別働隊を組織、怪盗を追い詰めるも、逆に囚われて絶体絶命の危機に――。

Amazonより

ときどき無性に江戸川乱歩が読みたくなる。
その陰鬱な文体、美しい犯罪、正体不明の怪盗、時代を感じさせる文体、私立探偵……。
古典ミステリが好きな人間には、江戸川乱歩はすべてそろっている完璧なミステリ作家だと思うのだ。

さて今回、私立探偵明智小五郎が挑むのは「青銅魔人」というロボットと言っていいのか、描写の感じは完全に「オズの魔法使い」のブリキのロボットを彷彿とさせる青き銅の泥棒。
そう、泥棒なんですよ、この魔人。
魔人と言っているけど、高価な時計ばかりを盗む泥棒なんです、こやつは。

その魔人がある邸宅の、蔵の、鉄の金庫の中からかなり高価な時計を盗むという予告状を出したのだ。
その前から伏線のように魔人は時計店から時計を盗み、線路の上を時計をじゃらつかせながら歩き回る。
存在を知らしめるためにの効果は抜群だ。

しかし、ちょっと考えればこの魔人の正体は想像がつく。
江戸川乱歩が書いていて、明智小五郎が登場し、正体不明の怪物が登場するということは正体はあの宿敵なのである。

だろうな、だろうな、と思いつつ読み進め、正体が宿敵だと分かった瞬間に私はガッツポーズをしてしまった。
「やった!やっと出て来たー!」という具合に。
名探偵コナンに怪盗キッドが登場するのと同じ気持ちだ。
名探偵には名宿敵が必要だということを、私は江戸川乱歩で学んだような気がする。

しかも今回は、正規の少年探偵団ではなく戦争孤児たちが大活躍するのだ!
シャーロック・ホームズに登場する「ベイカーストリートイレギュラーズ」を思わせるこの子たちの活躍には胸が躍った(なんと、彼らは事件解決後に明智小五郎に手配してもらってきちんと学校に通わせてもらったり、職を得たりするのだ!明智小五郎、なんていい人なんだ……)。

それにしても乱歩作品の明智小五郎が登場するものは、明智小五郎に有利に働くように多少のご都合主義が働いている気がする。
宿敵は逮捕できずとも、正体を見破るまでの明智小五郎の行動は完璧すぎるのだ。
しかし、それを抜いても乱歩作品には私を惹きつけて止まない「陰鬱さ」や「美学」なるものが存在している。
本書にもそういった部分が随所に散りばめらており、わずか160ページ弱の物語を読み終えるとその乱歩らしさにため息が出てしまうのだ。

文体は多少古臭さを感じるかもしれないけれど、やっぱり江戸川乱歩は定期的に摂取したい作家№1だ。

はるう




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