見出し画像

[書評]自分の髪の毛で目を縫われた姉は、『影踏亭の怪談』(大島清昭)


第17回ミステリーズ!新人賞を受賞した「影踏亭の怪談」のほか全4作を収録した連作短編集です。
著者は幽霊や妖怪を研究している方なので、怪談をミステリの落とし込みつつも、理屈では解決できないものの恐怖をミステリと同時に味わうことができます。

受賞作「影踏亭の怪談」は、怪談作家をしている姉が自室で椅子にガムテープで固定され、両目を自らの髪の毛で縫われるという異様な状態を弟が発見することから物語は始まります。
そんな状態で姉は発見されるのですが、亡くなってはいません。
そこから弟は姉の足取りを追ったがために、殺人事件の巻き込まれてしまいます。
「影踏亭」というのは姉が怪談の取材のために訪れた旅館の名前です。
その「影踏亭」では離れと中庭に化け物(子供?)が出るというのですが、その化け物と殺人事件が上手く合わさっています。

全4作がすべて怪談とミステリが合わさり、殺人事件が起こると同時にそこに土着の怪談が関わってきます。
その土着の怪談自体もきちんと参考文献が示されており、言葉はおかしいですが「根拠のある怪談」となっています(しかし、怖いものは怖いです)。

1つ1つの物語は独立しているのですが、怪談が怪談を呼ぶようにすべての物語を読んだときにこの本自体が大きな「怪異」となって読者の襲い掛かります。

ラストの幕切れはまるで狂人のようで、真の恐怖を味わうことができるでしょう。

ミステリとしてのトリックの派手さはありませんが、「怪談」と「人間が起こした事件」をきちんとすみ分けることで「ミステリ」をきちんと確立しています。

はるう

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?