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[書評]戦争が変えた本格ミステリ『霊魂の足 加賀美捜査一課長全短篇』(角田喜久雄)

加賀美捜査一課長が戦後の日本で起こる事件の謎を解く。
そこに息づく市井の人々の声と暮らし。
加賀美が解き明かすのは、事件の真相と戦争に翻弄された人々の生活だった……。

加賀美敬介という殺人課の捜査一長が事件を解決していく、というスタンスか全編通して変わらず、そこに戦後間もない日本の風景が溶け込み、事件の背景に戦争が影を落としています。

闇市だったり、空襲で家を焼け出され何度も住所が変わったり、生活困窮者が当たり前のようにたくさん登場します。
本格ミステリなのでトリックも凝っていますし、犯人の意外性なども備えているのは当然なのですが、私が何より驚いたのは「戦争」というものの影があまりにも色濃く本格ミステリに反映され、特に「五人の子供」という事件では「戦争弱者」という立場の人間の生活の有様がまざまざと書かれています。

本格ミステリという点では、表題作「霊魂の足」が特に秀逸です。
トリックの凝り方、そして解き明かされ方、加えてここでも影をやっぱり影を落とす「戦争」。

戦争というものはミステリというジャンルにも様々な影響を与えていることがこの一冊でよく分かると思います。
小説というのはその時代を色濃く反映するものだと言われますが、私はこれほどまで「戦争」がミステリに落とし込まれたものを読んだことがありませんでした。

この一冊を通して戦後間もない本格ミステリを学べると同時に、いかに日本が戦争から復興していったか、というものを読み取ることもできます。
にぎやかな酒場、隆盛を極める闇市、しかし振り返ればそこに広がるのは焼け野原……。

戦争が変えてしまった人々暮らしが、事件を起こさせたのだな、と、戦争を現代の流行り病に置き換えて読むこともできると思います。

はるう

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