知らずしらずのうちに 僕達のまわりにある幸福 僕達には完全な絶望はあり得ないということ この世に完全な無があり得ないように 雨あがりの渓谷では 頂からの清らかな流れ…
行き先は風が教えてくれた 暑い季節の冒険家たちは 不確かな道を爽やかに駆けて行った 一度でいいから海が見たかった 帰り道は星空の下だった ヒグラシの声はいつかやんで…
なぜこの世の中は こんなにも不幸に満ちていて にもかかわらず人々は 幸福を目指して歩いてゆけるのだろうか きらきらと華やぐ朝に 冷たい風がそよいで 君に新しい勇気を…
お前は激情に耐えかねて またあてもなく歩き出すのか この冷たい雨の中を 仮面のような表情で 運河の黒い水さえ 時がくれば ひたむきに海へと帰っていく お前はその様に一…
雨の音 それは生命の音 降りしきる無数の雫は 大地に、その青草に そっと優しく囁きかける 「お前たちは そこで何をしているんだい?」 実際、雨は見てきたのだ 遥か大…
夕焼け 夕焼けが悲しいのは 昼間の輝きを知っているから 死が悲しいのは 命の輝きを知っているから 夕焼けが美しいのは 昼間が輝いていたから 夕焼け ぼ…
心地よい風が水面をすべり ちらほら浮かぶ舟は細かな反射と戯れています この湖畔をゆったりと散策する人は ふと歩みを止めては素朴な歌に耳を傾けます ひたひたと寄せて…
一歩 また一歩と 私は高い処へ登る 吸い込まれるような音の深みのその奥に 広大な宇宙が秘められている 私の小さな肉体が 貴い力学的関係の中に放り出されることがある …
荒野をわたる一陣の風 その風の音と わずかに残された寂寥に たまらなく人間らしい切実さを感じるとき ただ一人佇んで おおらかな宿命に身を委ねたくなる 殺伐たる虚空 森…
長い時を生きた樹は 優しい風を舞わせていた 豊かな陽の恵みを受けて その光の色さえ和やかだった この樹とは確かに 嘗て何処かで出逢っていた 学校帰りの子供達が 降り積…
静かに眠る古里の街に 星の雫の滴る夜は もう帰らない君の声が 歌うように聞こえてくる 君の流した苦い涙も 果たせなかった志も 今となっては何もかもが 美しい命の証とな…
美しい言葉を抱いたまま 海の底深く沈んでゆけるのなら ほかには何も望むものはない なぜならどれほどの言葉を尽くしても 人がつねに自ら携えることができるのは ほんの僅…
嘘の嘘を見抜こうとして 私達の神経はじわじわと傷んでいる 受け容れるのは馬鹿げていて 拒絶するのが賢いのだと 自分に暗示をかけている 雑音を忘れたくて 別の雑音に身…
残さずにきれいに食べたね 母は嬉しそうな眼で言った 残さずに食べるのがきれいなの 子は母に聞いた 母がきれいに食べたと褒めるのと 秋桜の花がきれいだというのは 一体ど…
散り残る 梅の香に 胸いたむ 浅い春 行く雲を 追うごとく 定めなき 我が心 あの日の私の苦しみは まだ軽すぎたのだろうか あの日の私の呻きは まだ短すぎたの…
この世の底を見た人は 生まれながらの罪人の如く 誰も通らない道を選ぶ 同じ足取りで露を踏みつつ 思いを捨て切れない人は 開き直った迷子の如く 自分の宿命を一途に愛す …
はんた
2022年7月10日 00:56
知らずしらずのうちに僕達のまわりにある幸福僕達には完全な絶望はあり得ないということこの世に完全な無があり得ないように雨あがりの渓谷では頂からの清らかな流れと泥を含んだ濁った流れがひとつの奔流となって一途に下ってゆくもう一歩も歩けないほどの疲れも消えてなくなりたいほどの孤独も僕達は必ず克服できる何てことなかったと振り返る日が来る僕達の諍いが永遠に続くとしても人々が決し
2022年7月3日 00:42
行き先は風が教えてくれた暑い季節の冒険家たちは不確かな道を爽やかに駆けて行った一度でいいから海が見たかった帰り道は星空の下だったヒグラシの声はいつかやんで知らぬ間に闇の匂いに包まれていた蛍の群れがますます歩みを遅くした背中合わせの笑いと涙が消えゆく面影を際立たせていたあの日初めて渡った橋は張りつめた追憶に満たされていたもう二度とは出逢えない夏小さな喪失は遠ざかる世界
2022年6月26日 01:35
なぜこの世の中はこんなにも不幸に満ちていてにもかかわらず人々は幸福を目指して歩いてゆけるのだろうかきらきらと華やぐ朝に冷たい風がそよいで君に新しい勇気をくれる今の高さを超えられるようにもう帰れない日々はほろ苦く胸に沈めていつまでも若いままでいよう決して思い出を捨てずにいよう少年たちは肩を組み少女たちは手をつなぐ花を慈しむ子供たちは美しいものを信じて笑う聖と俗
2022年6月19日 01:44
お前は激情に耐えかねてまたあてもなく歩き出すのかこの冷たい雨の中を仮面のような表情で運河の黒い水さえ時がくればひたむきに海へと帰っていくお前はその様に一瞥もくれずに橋の上を過ぎてしまった「俺が求めるのはただひとつ この魂を焦がすほどの狂気だ 夢の安売りはやめてくれ もう俺に救いはないのだから」冷酷な虚構を見すえるにはお前の神経は鋭すぎるのかその深さを測ろうとして
2022年6月12日 01:38
雨の音それは生命の音降りしきる無数の雫は大地に、その青草にそっと優しく囁きかける「お前たちは そこで何をしているんだい?」実際、雨は見てきたのだ遥か大気の高みからまっすぐに落ちてくる間じゅう風を見てきたのだ山を見てきたのだそして蒼々と茂る草木のしっとりと濡れてゆくのを見てきたのだ「私たちも同じなのだよ ただ落ちるよりほかのない ただ沁みるよりほかのない そういう
2022年6月5日 01:41
夕焼け夕焼けが悲しいのは昼間の輝きを知っているから死が悲しいのは命の輝きを知っているから夕焼けが美しいのは昼間が輝いていたから 夕焼けぼくらが夕焼けに心打たれるのはおそらくぼくらの人生が夕焼けに似ているからだろう光と闇の狭間でゆらゆらと揺れ哀愁を漂わせしかも空を焦がすほどに激しく燃えているその姿がぼくらの命に似ているからだろう
2022年5月29日 01:32
心地よい風が水面をすべりちらほら浮かぶ舟は細かな反射と戯れていますこの湖畔をゆったりと散策する人はふと歩みを止めては素朴な歌に耳を傾けますひたひたと寄せては返すさざ波に疲れた心もわずかずつ洗われているようです旅の途中は焦ることも多かったけれどひと時水のほとりに佇むと和らいでゆくのでしょう昨日と変わらない明るい午後に夏の雲はひと際白く厳かな力を漲らせます山麓の町には虚飾は何一
2022年5月15日 01:56
一歩また一歩と私は高い処へ登る吸い込まれるような音の深みのその奥に広大な宇宙が秘められている私の小さな肉体が貴い力学的関係の中に放り出されることがある前途にこんなにも涼しい風が吹いているとは思ってもみないことだったどこにいても道しるべを見つけることができた星々の繰りひろげる感謝の祭典は充実した緊張へと私を導く目指す頂がどんなに遠くても歩いてゆけるこの世の中は余り
2022年5月8日 02:25
荒野をわたる一陣の風その風の音とわずかに残された寂寥にたまらなく人間らしい切実さを感じるときただ一人佇んでおおらかな宿命に身を委ねたくなる殺伐たる虚空森閑たる大地だが遥かに深い奥底のどこかで力まかせの怒濤の如く漆黒を切り裂く稲妻の如く透徹した感情が湧き出るようなのでずっと忘れていたのが久しぶりにゆくりなく我に返る夢か幻か別の世界の裏側なのか一抹の疑いは晴れないと
2022年4月24日 02:10
長い時を生きた樹は優しい風を舞わせていた豊かな陽の恵みを受けてその光の色さえ和やかだったこの樹とは確かに嘗て何処かで出逢っていた学校帰りの子供達が降り積もった落ち葉を踏みしめほんとうに楽しそうに自然と言葉を交わしている季節が正しく巡るたびに樹は幾度でも繰り返した無数の葉を茂らせては散らし逞しい根と幹がそれを支えた何も語らず何も怖れず力はいつもみなぎっていた老夫
2022年4月2日 23:41
静かに眠る古里の街に星の雫の滴る夜はもう帰らない君の声が歌うように聞こえてくる君の流した苦い涙も果たせなかった志も今となっては何もかもが美しい命の証となる取り返しのつかない喪失が刺すような悲しみを与えても真っすぐに生きた君の勇気はかけがえのない僕の誇りだいつまでもやむことなく花の雨の降る夜はこの道を駆け抜けた君の後ろ姿に声が届かない
2022年3月26日 15:45
美しい言葉を抱いたまま海の底深く沈んでゆけるのならほかには何も望むものはないなぜならどれほどの言葉を尽くしても人がつねに自ら携えることができるのはほんの僅かな断片にすぎないのだからしかも言葉はひどいはにかみ屋なのでどんどん逃げていってしまう真実を語ろうとしていつの間にか空想、仮説、婉曲、追従、饒舌、皮肉、などの嘘に姿を変えてしまう泡沫のはかなさを嘆くよりも深呼吸をして
2022年3月19日 16:00
嘘の嘘を見抜こうとして私達の神経はじわじわと傷んでいる受け容れるのは馬鹿げていて拒絶するのが賢いのだと自分に暗示をかけている雑音を忘れたくて別の雑音に身を委ねる人々絆を信じられなくてより細い絆に群がる人々私達は何かに追われるように自分より幾らか不幸な人を見つけては指先ほどの慰めを得ている優しくなったつもりでいて真の不幸からは目をそらしているいつもすたすたと先回りを
2022年3月12日 17:35
残さずにきれいに食べたね母は嬉しそうな眼で言った残さずに食べるのがきれいなの子は母に聞いた母がきれいに食べたと褒めるのと秋桜の花がきれいだというのは一体どういうことだろうと母の嬉しそうな眼を見ながらそう考えた *彼は暗殺されることに憧れていた命を狙われる程の人間になりたいとだが結局は自分の命を他人に委ねることだと気付きますます苦しむしかなかった人生とは正義と独
2022年3月5日 17:53
散り残る 梅の香に 胸いたむ 浅い春 行く雲を 追うごとく 定めなき 我が心あの日の私の苦しみはまだ軽すぎたのだろうかあの日の私の呻きはまだ短すぎたのだろうか今となっては答えてくれるものは無い私達は互いに命を支え合い束の間の青春を過ごしていた夜空を仰いでは同じ星の下の故郷を思い曠野に身を休めては海の深さについて考えていた頑なな心を潤すには幾星霜を重ねれば足り
2022年2月26日 19:00
この世の底を見た人は生まれながらの罪人の如く誰も通らない道を選ぶ同じ足取りで露を踏みつつ思いを捨て切れない人は開き直った迷子の如く自分の宿命を一途に愛すそ知らぬ顔で独りごちつつ銀色の光の流れる幽谷は粛々として蒼ざめて禅寺の修行僧は凍れる闇に湯気のあがる木像と化す天を仰げば冴えわたる夜地には伝説を受け継ぐ門囚われの人は隘路を歩む高鳴る胸に恋を刻みつつ