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詩「早春」

 散り残る 梅の香に
 胸いたむ 浅い春
 行く雲を 追うごとく
 定めなき 我が心

あの日の私の苦しみは
まだ軽すぎたのだろうか
あの日の私の呻きは
まだ短すぎたのだろうか
今となっては答えてくれるものは無い

私達は互いに命を支え合い
束の間の青春を過ごしていた
夜空を仰いでは
同じ星の下の故郷を思い
曠野に身を休めては
海の深さについて考えていた

頑なな心を潤すには
幾星霜を重ねれば足りるのだろうか
やがて尽きるこの旅の中で
友の潔い人生に
どう問いかければよいのだろうか

不条理な宿命を嘆くことはするまい
穏やかな季節に
遺された祈りの意味を聴きたい
私は時を遡ろうとして
一編の挽歌すら歌えないのだから

 柔らかに 芽は生まれ
 霞立つ 古い道
 君の名を 呼ぶ声も
 永久とこしえに 惑う春

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