はんた

クラシック音楽と鉄道が好きです。もう10年以上前になりますが、大学生から30歳くらいま…

はんた

クラシック音楽と鉄道が好きです。もう10年以上前になりますが、大学生から30歳くらいまでにかけて書いた作品を載せていきます。

最近の記事

詩「群像」

知らずしらずのうちに 僕達のまわりにある幸福 僕達には完全な絶望はあり得ないということ この世に完全な無があり得ないように 雨あがりの渓谷では 頂からの清らかな流れと 泥を含んだ濁った流れが ひとつの奔流となって一途に下ってゆく もう一歩も歩けないほどの疲れも 消えてなくなりたいほどの孤独も 僕達は必ず克服できる 何てことなかったと振り返る日が来る 僕達の諍いが永遠に続くとしても 人々が決して理解し合えないとしても それはほんのうわべだけのこと 一番深い中心にはだれも届

    • 詩「渡れない橋」

      行き先は風が教えてくれた 暑い季節の冒険家たちは 不確かな道を爽やかに駆けて行った 一度でいいから海が見たかった 帰り道は星空の下だった ヒグラシの声はいつかやんで 知らぬ間に闇の匂いに包まれていた 蛍の群れがますます歩みを遅くした 背中合わせの笑いと涙が 消えゆく面影を際立たせていた あの日初めて渡った橋は 張りつめた追憶に満たされていた もう二度とは出逢えない夏 小さな喪失は遠ざかる世界を 顧みられないまま引き寄せるばかりで その残像が痛切に慕わしい

      • 詩「無言歌」

        なぜこの世の中は こんなにも不幸に満ちていて にもかかわらず人々は 幸福を目指して歩いてゆけるのだろうか きらきらと華やぐ朝に 冷たい風がそよいで 君に新しい勇気をくれる 今の高さを超えられるように もう帰れない日々は ほろ苦く胸に沈めて いつまでも若いままでいよう 決して思い出を捨てずにいよう 少年たちは肩を組み 少女たちは手をつなぐ 花を慈しむ子供たちは 美しいものを信じて笑う 聖と俗とが触れ合う いつもと同じ十字路で また君は呆然と立ちどまる 流れる涙を拭いもせ

        • 詩「浮沈」

          お前は激情に耐えかねて またあてもなく歩き出すのか この冷たい雨の中を 仮面のような表情で 運河の黒い水さえ 時がくれば ひたむきに海へと帰っていく お前はその様に一瞥もくれずに 橋の上を過ぎてしまった 「俺が求めるのはただひとつ  この魂を焦がすほどの狂気だ  夢の安売りはやめてくれ  もう俺に救いはないのだから」 冷酷な虚構を見すえるには お前の神経は鋭すぎるのか その深さを測ろうとして かえってその脆さに気づくときに さらに苛立ちを募らせるのか 陰惨な光景の中

        詩「群像」

          詩「雨」

          雨の音 それは生命の音 降りしきる無数の雫は 大地に、その青草に そっと優しく囁きかける 「お前たちは  そこで何をしているんだい?」 実際、雨は見てきたのだ 遥か大気の高みから まっすぐに落ちてくる間じゅう 風を見てきたのだ 山を見てきたのだ そして蒼々と茂る草木の しっとりと濡れてゆくのを見てきたのだ 「私たちも同じなのだよ  ただ落ちるよりほかのない  ただ沁みるよりほかのない  そういう淋しい身の上なのだ」 雨の音 それは生命の音 僕は部屋の中で目を閉ざし なおも

          詩「雨」

          詩「夕焼け」2編

             夕焼け 夕焼けが悲しいのは 昼間の輝きを知っているから 死が悲しいのは 命の輝きを知っているから 夕焼けが美しいのは 昼間が輝いていたから    夕焼け ぼくらが夕焼けに心打たれるのは おそらくぼくらの人生が 夕焼けに似ているからだろう 光と闇の狭間で ゆらゆらと揺れ 哀愁を漂わせ しかも空を焦がすほどに 激しく燃えている その姿が ぼくらの命に似ているからだろう

          詩「夕焼け」2編

          詩「水辺にて」

          心地よい風が水面をすべり ちらほら浮かぶ舟は細かな反射と戯れています この湖畔をゆったりと散策する人は ふと歩みを止めては素朴な歌に耳を傾けます ひたひたと寄せては返すさざ波に 疲れた心もわずかずつ洗われているようです 旅の途中は焦ることも多かったけれど ひと時水のほとりに佇むと和らいでゆくのでしょう 昨日と変わらない明るい午後に 夏の雲はひと際白く厳かな力を漲らせます 山麓の町には虚飾は何一つなく 護りたいものが全て護られているのです あんなにも憧れた夢―― 全てが幼

          詩「水辺にて」

          詩「Cosmology」

          一歩 また一歩と 私は高い処へ登る 吸い込まれるような音の深みのその奥に 広大な宇宙が秘められている 私の小さな肉体が 貴い力学的関係の中に放り出されることがある 前途にこんなにも涼しい風が吹いているとは 思ってもみないことだった どこにいても道しるべを見つけることができた 星々の繰りひろげる感謝の祭典は 充実した緊張へと私を導く 目指す頂がどんなに遠くても歩いてゆける この世の中は余りにも 美しいものに満ちている 拾い集めた論理の破片は無上の歓びに似ている

          詩「Cosmology」

          詩「省察」

          荒野をわたる一陣の風 その風の音と わずかに残された寂寥に たまらなく人間らしい切実さを感じるとき ただ一人佇んで おおらかな宿命に身を委ねたくなる 殺伐たる虚空 森閑たる大地 だが遥かに深い奥底のどこかで 力まかせの怒濤の如く 漆黒を切り裂く稲妻の如く 透徹した感情が湧き出るようなので ずっと忘れていたのが久しぶりに ゆくりなく我に返る 夢か幻か 別の世界の裏側なのか 一抹の疑いは晴れないとしても 澱む水面を前にすれば 身震いするほどの淋しさとともに 堂々とした意志が蘇

          詩「省察」

          詩「大樹」

          長い時を生きた樹は 優しい風を舞わせていた 豊かな陽の恵みを受けて その光の色さえ和やかだった この樹とは確かに 嘗て何処かで出逢っていた 学校帰りの子供達が 降り積もった落ち葉を踏みしめ ほんとうに楽しそうに 自然と言葉を交わしている 季節が正しく巡るたびに 樹は幾度でも繰り返した 無数の葉を茂らせては散らし 逞しい根と幹がそれを支えた 何も語らず何も怖れず 力はいつもみなぎっていた 老夫婦が肩を寄せあい 温かなまなざしで見つめている 同じく堪えた者として 慎ましい安

          詩「大樹」

          詩「花の夜」

          静かに眠る古里の街に 星の雫の滴る夜は もう帰らない君の声が 歌うように聞こえてくる 君の流した苦い涙も 果たせなかった志も 今となっては何もかもが 美しい命の証となる 取り返しのつかない喪失が 刺すような悲しみを与えても 真っすぐに生きた君の勇気は かけがえのない僕の誇りだ いつまでもやむことなく 花の雨の降る夜は この道を駆け抜けた君の 後ろ姿に声が届かない

          詩「花の夜」

          詩「願い」

          美しい言葉を抱いたまま 海の底深く沈んでゆけるのなら ほかには何も望むものはない なぜならどれほどの言葉を尽くしても 人がつねに自ら携えることができるのは ほんの僅かな断片にすぎないのだから しかも言葉はひどいはにかみ屋なので どんどん逃げていってしまう 真実を語ろうとしていつの間にか 空想、仮説、婉曲、追従、饒舌、皮肉、 などの嘘に姿を変えてしまう 泡沫のはかなさを嘆くよりも 深呼吸をして 夢の兆しを探るように 快い微酔に身をまかせたい ごく軽い昂奮と 意識しないほ

          詩「願い」

          詩「病理」

          嘘の嘘を見抜こうとして 私達の神経はじわじわと傷んでいる 受け容れるのは馬鹿げていて 拒絶するのが賢いのだと 自分に暗示をかけている 雑音を忘れたくて 別の雑音に身を委ねる人々 絆を信じられなくて より細い絆に群がる人々 私達は何かに追われるように 自分より幾らか不幸な人を見つけては 指先ほどの慰めを得ている 優しくなったつもりでいて 真の不幸からは目をそらしている いつもすたすたと先回りをして 思ったとおり駄目でしたと 孤独な安堵に甘んじている さらに先を歩む人を 胸

          詩「病理」

          詩「美学」

          残さずにきれいに食べたね 母は嬉しそうな眼で言った 残さずに食べるのがきれいなの 子は母に聞いた 母がきれいに食べたと褒めるのと 秋桜の花がきれいだというのは 一体どういうことだろうと 母の嬉しそうな眼を見ながら そう考えた     * 彼は暗殺されることに憧れていた 命を狙われる程の人間になりたいと だが結局は 自分の命を他人に委ねることだと気付き ますます苦しむしかなかった 人生とは 正義と独善との間の測り方で 自尊心と諦念の差の読み方だと 頭では分かっているが いっそ醒

          詩「美学」

          詩「早春」

           散り残る 梅の香に  胸いたむ 浅い春  行く雲を 追うごとく  定めなき 我が心 あの日の私の苦しみは まだ軽すぎたのだろうか あの日の私の呻きは まだ短すぎたのだろうか 今となっては答えてくれるものは無い 私達は互いに命を支え合い 束の間の青春を過ごしていた 夜空を仰いでは 同じ星の下の故郷を思い 曠野に身を休めては 海の深さについて考えていた 頑なな心を潤すには 幾星霜を重ねれば足りるのだろうか やがて尽きるこの旅の中で 友の潔い人生に どう問いかければよいのだ

          詩「早春」

          詩「月光」

          この世の底を見た人は 生まれながらの罪人の如く 誰も通らない道を選ぶ 同じ足取りで露を踏みつつ 思いを捨て切れない人は 開き直った迷子の如く 自分の宿命を一途に愛す そ知らぬ顔で独りごちつつ 銀色の光の流れる幽谷は 粛々として蒼ざめて 禅寺の修行僧は凍れる闇に 湯気のあがる木像と化す 天を仰げば冴えわたる夜 地には伝説を受け継ぐ門 囚われの人は隘路を歩む 高鳴る胸に恋を刻みつつ

          詩「月光」