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詩「渡れない橋」

行き先は風が教えてくれた
暑い季節の冒険家たちは
不確かな道を爽やかに駆けて行った
一度でいいから海が見たかった

帰り道は星空の下だった
ヒグラシの声はいつかやんで
知らぬ間に闇の匂いに包まれていた
蛍の群れがますます歩みを遅くした

背中合わせの笑いと涙が
消えゆく面影を際立たせていた
あの日初めて渡った橋は
張りつめた追憶に満たされていた

もう二度とは出逢えない夏
小さな喪失は遠ざかる世界を
顧みられないまま引き寄せるばかりで
その残像が痛切に慕わしい

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