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詩「浮沈」

お前は激情に耐えかねて
またあてもなく歩き出すのか
この冷たい雨の中を
仮面のような表情で

運河の黒い水さえ
時がくれば
ひたむきに海へと帰っていく
お前はその様に一瞥もくれずに
橋の上を過ぎてしまった

「俺が求めるのはただひとつ
 この魂を焦がすほどの狂気だ
 夢の安売りはやめてくれ
 もう俺に救いはないのだから」

冷酷な虚構を見すえるには
お前の神経は鋭すぎるのか
その深さを測ろうとして
かえってその脆さに気づくときに
さらに苛立ちを募らせるのか

陰惨な光景の中
残り少ない葉も
漸く滑らかな水面へと身を落とす
水鳥たちは寒さに慣れているので
思い思いに運河を漂う

「もう俺には救いがない
 何事にも例外はあるではないか
 通りいっぺんの同情も
 諦めという名の成長も
 何もかも胸糞悪い芝居だ」

どんなにお前が悪態をついても
理不尽な時代は続くだろう
だがいくら底へと沈めても
また浮かびくるものがあるように
お前が帰るべき場所を知る日も訪れるだろう

青年よ
今は眠るがよい
泥のように
正体もなく
お前を迷わせた熱い命が
ほかならぬお前の血が
やがて新しい力を与えるだろう

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