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詩「無言歌」

なぜこの世の中は
こんなにも不幸に満ちていて
にもかかわらず人々は
幸福を目指して歩いてゆけるのだろうか

きらきらと華やぐ朝に
冷たい風がそよいで
君に新しい勇気をくれる
今の高さを超えられるように

もう帰れない日々は
ほろ苦く胸に沈めて
いつまでも若いままでいよう
決して思い出を捨てずにいよう

少年たちは肩を組み
少女たちは手をつなぐ
花を慈しむ子供たちは
美しいものを信じて笑う

聖と俗とが触れ合う
いつもと同じ十字路で
また君は呆然と立ちどまる
流れる涙を拭いもせずに

もしこの世の中のすべてが
明日滅びてしまうとしても
感動する心は残るだろう
どんな力もそれは奪えないだろう

だれにも通じないかと思うほど
この愛惜はもどかしい
何かを必死に数えようとして
また遠ざかる希望に帰る

遥かに青いあの空なら
これからもずっと輝いている
果てしない宇宙よりも広く
どこにでもある心がほしい

すがすがしい峰の鐘の音が
高らかに迷宮を満たす
窓を開いて風を呼べば
かつての怒りと再会できる

今日も人々は楽しげに集う
きっとこの世の中は
印象的な音楽のようなものだから
君はひとつの音符であればよい

見えない犠牲が忘れられない
思いあがることなく生きたい
謎めいた童話のように
大切なものは潜んでいる

南から吹く風に
君は短い歌を口ずさむ
永遠の意味を知らないままに
命がけで肖像を彫る

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