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詩「美学」

残さずにきれいに食べたね
母は嬉しそうな眼で言った
残さずに食べるのがきれいなの
子は母に聞いた
母がきれいに食べたと褒めるのと
秋桜の花がきれいだというのは
一体どういうことだろうと
母の嬉しそうな眼を見ながら
そう考えた
    *
彼は暗殺されることに憧れていた
命を狙われる程の人間になりたいと
だが結局は
自分の命を他人に委ねることだと気付き
ますます苦しむしかなかった
人生とは
正義と独善との間の測り方で
自尊心と諦念の差の読み方だと
頭では分かっているが
いっそ醒めることができたらどんなに楽だろうと
渾沌のようなため息をつく
    *
残してゆけるものは
清く生きてきたという歴史だけだ
美しさはどちらかといえば虚無に近い
その影にある広漠たる宇宙に
指先で微かに触れたという成熟
青白い星の光を見た充実は
分別の幼い奴には分かるまい


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