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【アニメ感想】葬送のフリーレン、原作未読ながら1周しただけで脳を焼かれた件

前回に引き続き、原作未読の初見アニメ「葬送のフリーレン」を一度のみ通しで鑑賞した直後の感想を綴っていきます。ネタバレがあるので未視聴の方はブラウザバックを推奨します。それでは、行きましょう。


ちなみに、自分の満足度の点数イメージはこんな感じです。
 0~ 59:退屈、世界観・脚本への違和感、物語が支離滅裂
60~ 69:普通、流し見で十分
70~ 79:悪くない、一回見たら十分
80~ 89:良作、また見返したくなった
90~100:神作、10年経っても見返しているはず

「葬送のフリーレン」(89点、2023年)

1.なろう系のガワを被った人間関係の描写に特化した快作

舞台はナーロッパで、労せずして能力を与えられたなろう系男主人公が「すごいのは俺です」「俺なんかやっちゃいました?」と今にものたまいだしそうな世界観でしたね。確かに、アニメ中盤(確か第10話)あたりではなろう系では必ず描かれるチート級能力を見せつけるフリーレンのシーンがありました。でも、第1話からの流れからしてこれが本作の売りじゃないってことが分かっていたので嫌な感じは全然しませんでした。

性格に難がある主人公のすごさを表面的に描いて嬉しがる一般なろう系と決定的に違うのは、登場キャラの中にある人間と関係性の構築を丁寧に描こうとする意思が強く感じられたことです。おかげさまで、安心して見進めることができました。

( 'ω' ).。oO( こういうのでいいんだよ、こういうので
       そんじょそこらのなろう系とはモノが違うんよ

各キャラは勇者や戦士、僧侶、魔法使いなどの異世界モノで多用される職業をしてはいるものの、それ自体は人間を描くことを邪魔しません。それぞれに掘り下げの物語が用意されているので、最初はペラペラだった二次元キャラに人間的な厚みが与えられていきました。その下準備があったからこそ、師匠と弟子の関係や想いの継承、友達関係、チーム内での関係性がごく自然に描かれています。自分はこのエモさが何に由来するのかを考えました。そして、サン=テグジュペリの本に登場するいくつかの真理を思い出したのです。

2.エモさの源①「人間関係の贅沢」

真の贅沢というものは、ただ一つしかない、それは人間関係の贅沢だ。物質上の財宝だけを追うて働くことは、われとわが牢獄を築くことになる。人はそこへ孤独の自分を閉じこめる結果になる、生きるに値する何ものをも贖うことのできない灰の銭をいだいて。ぼくが、自分の思い出の中に、長い嬉しいあと味を残していった人々をさがすとき、生き甲斐を感じた時間の目録を作るとき、見いだすものはどれもみな千万金でも絶対に購いえなかったものばかりだ。

サン=テグジュペリ『人間の土地』(新潮社文庫)

人間関係はお金で買うことができませんし、誰にも奪うことはできません。それは心の中でずっと光り続ける宝物のようなものであって、後で振り返れば墓場まで持っていける贅沢なものだと気がつきます。「葬送のフリーレン」に限らず、これを省略しないで描いてくれる作品は信用できると自分は判断しています。

3.エモさの源②「仲良しと涙の表裏一体」

仲良しになる以上は、涙を覚悟しなければならない

サン=テグジュペリ『新訳 星の王子さま』(宝島社文庫)

「サン=テグジュペリって誰?」って思ってた方がいると思いますが「星の王子さま」の原作者と言えば分かっていただけるでしょうか。作った人間関係は言葉なんかでは語れない「大切なものは目には見えない」が余りに有名な名言です。ただこれだけではなくて、引用したこの一文もある種の真理を表していると自分は確信しています。

生前最後になるかも分からない別れや死別の時は必ずやってきます。自分にとって大切な人であればあるほど、涙をこらえることはできないでしょう。その涙は長い年月をかけて積み重ねてきた2人の関係性の深さを証明するとともに、死ぬほど深い悲しみに打ちのめされることを覚悟しなければならない――と解釈できます。このように、さらっと読み飛ばしてしまいそうな短文に人間関係の真理を凝縮させているところがサン=テグジュペリの表現力の高さだと自分は思ってるんですよ。

4.エモさの源③「信じて探すことによるフィールドの輝き」

家でも星でも砂漠でも、その美しいところは目には見えないものさ

サン=テグジュペリ『新訳 星の王子さま』(宝島社文庫)

第2話でフリーレンが探していた蒼月草ですが、これにはまた別の真理が隠されています。昔の目撃情報しかなく、もう絶滅したかもしれないと言われながら半年も探し続けられたのは一体どうしてでしょうか。それは、いつか見せてあげたいとヒンメルに言われていたフリーレンが蒼月草は絶対にあるはずだと信じていたからです。

「あるかもしれない」じゃなくて「絶対にあるはずだ」っていうのが重要なんです。フリーレンがそう信じて探しているうちは、探索している場所のすべてが輝いて見えているはずです。反対に、フェルンは無いと思っているので森がただの森にしか見えていません。これが探しものの真理です。

探しものの有無に関係なく、心の底から探しているかどうかで探索フィールド、ひいては世界全体の見え方まで変わってしまうんですよ。このことを「星の王子さま」では上記の引用した短文で表現していると自分は考えています。

5.フリーレンとヒンメルの関係性がたぶん本作一番の見どころ

さて、本作の主人公・フリーレンは1000歳を優に超える長寿命のエルフなので人間との寿命差による死別描写が数回あります。趣味の魔法探求に注力していることもあってか、寿命の短い人間なんかと仲良くなってもすぐに死んでしまうので関係を作ることには大して興味がないような様子でした。ヒンメルを土葬する冒頭、フリーレンはヒンメルのことを本当の意味でよく知らなかったこと、関係を作る以前の状態のままお別れしてしまったことに涙したことから、それをうかがうことができます。

フリーレンの物語はここから少しずつ動き出します。パーティを新たに出立した二度目の旅路は、ヒンメルの遺していった追憶をたどる意味合いもありました。一度目のフリーレンにとっては何でもなかったことが、ヒンメル人間をちゃんと知ろうとしたことによって「人間関係の贅沢」と「仲良しと涙の表裏一体」がじわじわとフリーレンに沁み入っていって、二度目には心の中でキラキラと輝きだすんですよ。それこそ魔法のように。この移り変わりの描き方が自分はたまらなく好きですし、本作一番の見所に違いないと思いました。

フリーレンにとってフェルン・シュタルクとパーティを組むのが何度目の旅なのか自分は分からなかったので、両者を対比させる意味で「二度目」と表現しています。悪しからず。

おことわり

6.「葬送のフリーレン」は「星の王子さま」の焼き直しみたいなもの

実際に、フリーレンはヒンメルのことをどう感じとったのでしょうね?時間差の贈り物として素直に受け取ることができたのか、それとも永遠に抜けないくさびとして打ち込まれるような不快感を感じて半ば拒絶したのか……。作中で描かれていた態度と内心は(照れ隠しとかで)一致しているとは限らないので、ここは余白の美として一視聴者の立場で好き勝手に解釈して楽しむことにいたしましょうか。

結果的に、フリーレンは泣くまでには至らなかったですけど、関係を作ることの本質を二度目の旅路で感覚的に理解していったと思うんです。それが旅の目的でもありましたから。自分はそこにフリーレンの成長を感じました。こんな風に、本作はフリーレンとヒンメル以外にハイターとフェルンとか語りたくなる魅力的な二者間の関係性がたくさんあるんですよね(キリがなくなるのでこれ以上書きませんけどね)。

「こんな『星の王子さま』の焼き直しみたいなの見さされたらたまらんよなぁ、視聴者は。スキあらば人間関係の真理をぶち込んできて、心をぐっちゃぐちゃにしてこようとするやんか。毎週毎週、語彙力ないなって訳分からんままエモさで泣いてしもた人絶対おったやろ?何気ないセリフを関係性で高火力にしてメッタ刺ししてきよるんよな、おーん…… まぁフリーレンって目で見るっていうより、心で観るタイプのアニメやからせやねんけどもなぁ。そら金ローで4話まで一挙放送されただけのことはあるわな。日が暮れたあとの残照っちゅうか、何とも言えん心地良い余韻を残してくれるエモさに極振りした作品よなぁ、はっきり言うて。エモのからくり分かってたから泣くまではせぇへんかったけど、久しぶりに脳をえぇとこまで焼かれた気がするわ。せやけど、バトルものを期待して見てもうた人はたぶんめっちゃ退屈やったやろうなぁ」と最終話を見終えてから思いました。

( 'ω' ).。oO( 安直なエロで尺を稼ごうとしなかったのもポイント高いわ

作画、声優、音楽、そして物語と人間関係の描写すべてにおいて文句なしで、満足度は89点です。限りなく神作に近い良作と評価したのは、まだフリーレン一行の旅がまた途中だからですね。ここでもし90点オーバーにしてしまうと、1期を超える続編を出されたときに昇格させようがないので現状つけられるMAXの点数にしました。必ず超えてくるだろうっていう期待があるからこその89点です。どこか気に食わないところがあったとか、そういうのはありません。そんなわけで、続きを首を長くしてお待ちしております。


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