会社の成長を支えるナンバー2の育て方 vol.95 権限なくして責任なし/伸びる組織は権限移譲する
「権限なくして責任なし」と言います。与えられた職責を全うするためにはその職責に相応しい権限が与えられなければならないという意味です。ところが、世の中の多くの管理職は「権限なくして責任あり」というのが現実です。
どうしてそのような状態に陥るのかを簡潔に言うと、組織図もなく、役割分担が不明確なうえに、トップがいつまでも権限移譲をせず、思いつき又はマイクロマネジメントを好んで管理職のやることにいちいち口を挟むからです。
そして、上手くいかなかった場合だけ責任追及し、人によっては経営者としての責任も取らず、権限を与えていない管理職に対して「責任を取れ」と迫ったり、日常は精神論として「責任感を持て」などと言うのです。これでは手足を縛られて、前に進めと言われているようなものです。
事業推進の現場で、経営者が「君に任せたぞ」と言いながら、実行計画や実務にまで口を挟んで持続的に良い成果を出している例はあまり聞きません。
もし仮に成果が出せていてもその管理職の忠誠心やモチベーションは極限まで下がっていると思った方が賢明です。その状態が続くと、管理職は面従腹背となり、現場の士気は下がり、優秀な人材から退職することになります。
管理職の退職が続けば、その穴を埋めるための人選を行うことになりますが、退職していく上司であった管理職の疲弊ぶりを目の当たりにして、数万円の昇給ごときのエサで心が動く人も少ないでしょう。昨今では管理職登用自体が罰ゲームという認識もあるくらいですから尚更です。
責任を問うのであれば、それに見合った権限も与える。そして、成果が出ない場合の最終責任は当然、経営者にある。極めてシンプルな原則なのですが、この原則を順守している経営者、会社は少ないように思います。
権限と責任に関する知見
さて、この権限と責任について言及している有名なもののひとつにファヨールの経営管理論がありますが、同様のことは大昔から孫子の兵法、諸葛孔明が言っています。
要約すると、トップとリーダーの間に信頼関係がなく一枚岩でなければその組織は弱体化すると言っています。リーダーが今はじっくり待てと現場に指示している時に、トップは進めと言う。その逆もしかりです。この状態を縻軍(びぐん)と言い、現場の判断や動きを束縛することを意味します。
結果、現場では次のような状況に陥ります。
孫子の兵法に精通していた諸葛亮も同様のことを述べています。
現場のリーダーが与えられた職責を全うするためには、その職責に相応しい権限が与えられなければ何もできないということは2500年も前から指摘されていることからも権限移譲は根深い問題であることがわかります。
ではどうしてトップが権限移譲できないかということですが、これには大きく言うと3つの理由があります。
(1)支配欲
自身が権限を持つことで組織全体の方向性や動きをコントロールしたいため、部下に権限を与えたくない。
(2)信頼関係の欠如
信頼関係が欠如していたり、部下が自分の期待や基準に沿って行動するか不安を感じるために権限を与えたくない。
(3)自分の存在の誇示
権限を移譲することはトップである自身の重要性や価値を脅かすものと感じ、権限を保持することで自分の存在価値や優越性を誇示するために権限を与えたくない。
権限移譲をしない背景にあるのは経営戦略でもリスク管理でもなく、トップの個人的な欲求が根本にあります。
もっとも信頼関係については双方向なので、部下もトップが信頼されるだけの能力、人格などを備えている必要はもちろんあるでしょう。ただ、何をしても他人を信用しない猜疑心の強いトップもいるので、そのようなトップの元では部下の側から権限移譲を望んでも叶わないのも現実です。(経理は親族にしかさせない同族企業などは典型です)
トップはどうするか
経営者は事業に関するあらゆる責任を最終的に持たなければならないので、その立場を考えると、つい現場に口を挟みたくなってしまうのは人情として理解できます。
けれど、現場の判断や動きを束縛してはいけない。では、いかにして権限移譲するのか。その答えもまた孫子の兵法に書いてあります。
いわゆる、道・天・地・将・法の五事です。
五事についての解説は省いてしまいますが、現代的な表現を用いれば、経営理念を定め、浸透させ、戦略を決断し、現場の指揮官を信頼し、委ね、そして仕組み作りに専念する。それがトップのなすべき仕事であると書いています。やはりいつの時代においてもトップがなすべきことに変わりはないのです。
現実的な課題として「部下であるリーダーが未熟で全てを任せることはできない」という経営者のお考えがあるのは当然でしょう。そうであるなら裁量の範囲を明確にして、報連相を徹底させるのが定石です。少しづつ経験値を上げさせて、段階的に裁量範囲を解除し、最終的に完全な移譲を目指せばよいのです。
現場のリーダーはどうするか
では現場を取り仕切るリーダーの方は権限移譲の問題に対してどう取り組めばよいでしょうか。トップの干渉にうんざりしながらも、それでも受け入れざるを得なく、悶々とすることもあるでしょう。
その気持ちに応える君主への戒めとリーダーへの励ましとも受け取れる言葉もあります。
トップの命令であっても、従わないことがあってしかるべきと説いています。現場の状況は刻一刻と変化する場合もあるので、臨機応変に対応しなければならないこともあるうえ、トップの指示が見当違いであることもあります。
「君命に受けざる所あり」
トップの指示、命令であっても失敗することが分かり切っているのであれば従わない。この言葉はリーダーの本気と自信、責任感を感じさせます。
現場のことは現場の人間が一番わかっているものです。トップは時として現実を無視した物言いをすることもありますから、理路整然とトップの命令を撥ね付けることもリーダーの職責のひとつではないでしょうか。
私もナンバー2時代に君命に受けざることが多々ありました。記憶に残っているものでは、社長に上場を前向きに検討したいと相談されて一蹴したことです。
理由はビジネスモデル的に不可能であり、上場準備の費用を捻出できないこと、上場したい動機が上場会社の社長になって一目置かれたいというあまりに不純で幼稚だったからです。私自身は他社でIPO準備経験もあったので自分の確信に揺るぎはなく、無理だと即答すると、みるみるうちに社長は不機嫌になりましたが私は意に介しませんでした。
部下を持ったら肩書の軽重問わずリーダーである
経営陣を想定して権限移譲をテーマにトップとリーダーの関係性についてお伝えしていますが、権限移譲は何も経営陣だけに限った話ではありません。一人でも部下を持ったら立派なリーダーの一人です。そして、権限移譲はそんな小さなユニットでも大事なテーマです。
もし、部下に権限移譲ができないとしたら自分も支配欲、信頼関係の欠如、自分の存在の誇示に囚われているかもしれません。
部下は仕事を任されることでしか成長しません。裁量を伴うからこそ創意工夫するようになりますし、自分ごととして取り組むようになります。この基本を忘れてはならないと思います。
まとめ
経営者は事業に関するあらゆる責任を負う立場だからといって、全てを自分の監視下に置いて、自分の指示通りでなければ気が済まないのであれば経営者の限界が会社の限界になります。
上から下まで部下に適切な権限移譲が行われない組織は、多様な人材を活用し、自律性を促すことなどできません。結果として、トップ以下は全員指示待ち人間となり、誰も責任を負わない、事なかれ主義の組織になるでしょう。
将来を見据えて、権限をどう取り扱うか。考え続けなければならない大切なテーマだと思います。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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『ナンバー2育成ガイドブック』の解説、活用方法についての解説記事です。参考にしてみてください。
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