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生活すること

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生きるって何だろう?それは生活することなのではないだろうか────30才で伊東市にある海の街へ移住して感じたことを書いています。
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2023年5月の記事一覧

躁の波を乗りこなす

躁の波を乗りこなす

心臓がいつもより早くドクドクと動いているのを感じる。身体は少し強張って、緊張しているようだ。視界はパーっと開けていて、まるで覚醒しているような感覚の中、何に対してなのか分からない焦りがある。そして湧き上がってくる何でもできそうという自信。私はおそらく躁鬱人の躁状態になっている。昨晩は衝動を抑えきれず0時近くまで制作してしまい、さらに覚醒して眠れなくなってしまった。頭の中でのインスピレーションも止ま

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私のレンズで見えているもの

私のレンズで見えているもの

熊本で個展「坂口恭平日記」を見た時、自分も風景画が描けるような気がした。今まで一度も描いたことはないし、描こうと思ったことすらなかったのに、描きたいという願望ではなく、描ける気がするという事実として身体の中から湧き出てきたのを覚えている。それは自分が歩けるのは当たり前でどうやっているのか説明できないみたいに、私は風景画を描けるのは当たり前という設定が突然追加されたような感覚だった。

自宅へ帰って

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静かな時間軸の中で

静かな時間軸の中で

打ち合わせのため伊豆高原へ向かう。数年前まで何度も足を運んでいた思い出の場所だ。名古屋から行くとわりと遠くて時間がかかっていたのが、今では数十分で着いてしまう不思議な感じ。初めて行った時はその雰囲気の違いに驚き、もはや異国の地へ来たかのようだった。この伊豆半島はまだ地球の大陸が動いていた頃、フィリピン辺りから何億年もかけて移動してきて日本にくっついたため、ここだけ生態系が違うらしい。今でも感じるこ

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与えたり貰ったり

与えたり貰ったり

朝、いつもの鳥の鳴き声が聞こえてきた。名古屋と比べるとやはり圧倒的に鳴き声の数が多い。そもそも伊東に住むまでは鳥の鳴き声なんて気にもしていなかったから、名古屋でも鳴いているのを初めて認識した。感じていなかったものが感じられるようになっている。ライブをした鶴舞公園に生える木々の緑も、風で揺れる姿も、より美しく見えた。コーヒーを淹れて文章を書いたけど、全然まとまらない。しばらくこの場所を離れていたから

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ただいまとおかえり

ただいまとおかえり

通勤ラッシュの中、ギターとキャリーバッグを持って名古屋駅へと向かった。この姿はどこにいても浮いているように見える。自分だけが周囲と違う時間軸を生きているようで、不思議な気持ちだ。アーティストは自由でいられるけれど、同時にその自由への不安も感じる。周りと同じであることは安心するし、本能的にもそうプログラムされている。躁鬱人は自由でいなければ上手く生きていけないから、周囲の流れやプログラムには常に抗っ

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ステージへ

ステージへ

1年前に雨で延期になった野外フェス「HAKO FES企画 つるまいカホンパーク」へ、今年も出演させてもらえることになった。私の環境が変わりまくる中でも声をかけてくださったのが嬉しかったし、ハコフェスを野外でやってほしいとそそのかしたのが自分だったのもあり、この日はなんとしてでも出たいと思っていた。でも正直なところ、私はもう何ヶ月も藤森愛に会えていなくて不安だった。地区の集まりでカラオケを歌った時に

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故郷へ

故郷へ

地元である名古屋へ帰ることになった。約1年ほど帰っていない。私からしたらこんなにも長く帰らないのは初めてだった。長くてもせいぜい1ヶ月ぐらいだろうか。でも地元にいた時間もそんなに長くはなく、帰ってきてはすぐにツアーへ出てを繰り返していたから、久しぶりに帰ること自体はそんなに珍しくもない。ただ今回はいつもと違う感じがする。自分が住んでいきたい場所を初めて見つけたことで心身共に距離が空き、単なる自宅が

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自然と暮らしていくとは

自然と暮らしていくとは

鳥の鳴き声で目が覚めるという、なかなかオシャレな朝を日々迎えている。防音室で暮らしていた頃は、二重冊子を閉めると外の音は何も聞こえず、空気の流れも感じず、「無」な状態だった。おそらくこの「無」は、身体にあまりよくない。いくら遮断しても、私たちは完全なる単体にはなれない。必ず世界と繋がっていて、全体の一部として存在している。だから遮断しようとすると自分で自分の存在を否定するようで、調子が狂っていく感

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人生の時間の使いどころ

人生の時間の使いどころ

新曲を作っている。この街の曲を作ってほしいと言ってもらい、全然作りますよー!と意気揚々と答えたはいいものの、いざ作り始めてみると難しい。ご当地ソングと言えば、覚えやすいポップでキャッチーなイメージがあったから一度はそれで作ってみたけど、この街の良さはポップさやキャッチーさではないと思い、もう一度作り直すことにした。ただコード進行を考えたり、歌詞を当てはめたりするのではなく、この街の情景や空気感が自

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不安定な生き方マニュアルを作る

不安定な生き方マニュアルを作る

長らく書いていなかったけど、私は躁鬱人だ。双極性障害というなんだか深刻そうな名前は嫌だから、坂口恭平さんを見習って躁鬱人と言っている。自分が躁鬱人だと知って調べた時に、医学的な文献ばかりで当事者たちの声があまりにも少なくて困った。治らないのなら上手く付き合っていくしかないのに、実際にそれができている人がどんな生活をしているのかが分からない。薬を飲んでいて大変ですみたいな話が多い。そもそもパイが少な

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続けるためには

続けるためには

文章を書けない日があると、そわそわするようになった。毎朝書くのが当たり前の日常で、よくそんなに書くことがあるねと言われるのだけど、私は書くこと自体に快感を得ているのだと思う。書くことがあるというより、何でもいいから書いていたい。何かを続けたいと思った時によく目標を決めたり、自分を奮い立たせたりするけれど、続けている人というのは実は一切そんなことをやっていなくて、歯磨きのようにただやっているに近い。

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繋がりにくくなった現代で

繋がりにくくなった現代で

自宅へ帰ってきた。鳥たちの鳴き声が無限に聞こえてくる。この朝に耳が慣れてしまっているから、他所で迎える朝は静かに思える。鳥の鳴き声はなかなかのボリュームだけど、自然と身体の中へ入ってきて全く嫌な感じはしない。最近窓を開けると会えるようになった猫たちにもご挨拶。

洗濯物を干していると、お隣さんちの屋根の上に猫がたくさんいるのが見えた。よく見ると子猫も3匹いて、みゃーみゃー鳴いている。ご近所さんが言

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空気の流れに身を任せて

空気の流れに身を任せて

東京へ来ている。街ごとに変わる空気の違いが面白い。都会は人がたくさん動いているから色んな空気が混ざり合い、忙しなく不規則に流れてくるのが人間の生活を感じさせる。伊東は人が動かない代わりに自然が動かしていて、いつもふんわりとした空気に包まれているようで力が抜けてしまう。

都会へ来たら雑貨屋さん巡りをするのが最近の楽しみだ。伊東には干物屋さんや温泉はたくさんあるけれど、オシャレなお店はあまりない。家

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自己満足な世界の中で

自己満足な世界の中で

私は部屋のインテリアにかなりのこだわりを持つようになった。お皿一枚、調理器具一つ、やかん一個を選ぶのに時間をかける。気に入った物が見つからなかった時はお店を何軒も梯子したり、メルカリにずっと張り付いたりしていた。だから私とその物の間にはそれぞれストーリーがあり、思入れが生まれて、使う度に毎回いいなあと思えている。キャリーバッグ一つあれば部屋なんていらないとか言っていた人間なのに、極端な変わりようで

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