藤棚

まだ曲のない歌詞とエッセイ。

藤棚

まだ曲のない歌詞とエッセイ。

マガジン

記事一覧

essay #13 忘却

忘れたくない、と思うことがある。 変わりたい、前に進みたい、と思うことも多々あるけれど、同じくらい、刻んでおきたい、無かったことにしたくない、と思うことの多い人…

藤棚
2週間前
4

ながいまえがみ

眠りすぎたなきょうは 目を逸らしたい色んなことが 身体に巻き付いて いたずらっぽく顔を覗き込む どこかの国の先住民は わざと髪を切らないって それは歩みや歴史や考え…

藤棚
3週間前
3

Pretending

恩師じゃないあの人 わたしの笑顔を褒めた 「みんなを幸せにします」 少し信じてて ほとんど疑ってる 親友じゃないその子 わたしの笑顔を信じた 「楽しそうで良かった」 …

藤棚
4週間前

たられば

大雨の公園で20:30 君が来てくれてたら 訃報を聞いたの18:30 君に電話ができてれば 真っ赤なお風呂場 14:10 君が あの時 見つけてくれたら わたしたちまだ若いけど 10年…

藤棚
1か月前

essay #12 美醜

友人が日本で行われたミス・コンテストに出場し、「美」についてSNSで発信をしていた時期がある。 見た目の美しさだけを求めて比べる大会だと思っていたが、そうではなく、…

藤棚
1か月前
3

木漏れ陽

見たまま映せるらしい 話題のカメラで撮ったって この揺らぎは この煌めきは 残せやしないから この瞳がレンズで 瞼がシャッターならって その横顔や その指先を 何度も捉…

藤棚
2か月前
4

フライト

約束はきらい 階段のてっぺんから 緩やかに地下へゆく 赤色のスイッチ 押したくないの 一緒に行こうと言った国 これでもう叶わないね いつにしようかあたしが聞いて きみ…

藤棚
2か月前
3

Invisible.

言葉にしなかったこと 言葉になったこと どちらかでしか 褒めてあげられない 言葉にできなかったこと 言葉にできたこと どちらかでしか 何も伝えられない 誰かの心に響く…

藤棚
3か月前
1

essay#0 一節

いずれ死ぬのであれば、死後、美しい生き様だったと言われるような人でありたいと思ってきた。 立派でも、かっこいいでも、可愛いでも、綺麗でもなく、美しい、美しかった…

藤棚
3か月前

essay #11 渡欧

初めてのヨーロッパ旅行で、シェフをしているいとこの兄に再会した。 まだ私が幼かった当時、祖母が生きていた頃は、実家には親族の行き来がそれなりにあった。 親族の中…

藤棚
3か月前
3

MINE

誰かのいちばんに なりたいんだって そろそろどうだい 誰かに夢中になれたかい 誰のいちばんにも なれないから閉じた 氷の心 また みんなを好きなふり ばかだね こっち…

藤棚
3か月前
5

線路

銀色の龍に跨って ビルの間をすり抜ける朝 黄色い模様が近づいて 時速90kmで追い越す 車窓に額近づけて ガラス越しの肖像 勝手に鑑賞して分析中 分かった気になって また…

藤棚
4か月前
2

essay #10 連絡

友達の友達が死んだというメッセージへの返信を考えながら、想像よりも色が鮮やかで洒落てるな、と思ったオーバルな皿の上のロコモコ丼らしきものにスプーンを刺した。 喜…

藤棚
4か月前
4

essay #9 血液

咄嗟に119番を押した。 いちいちきゅう、だよな、と一瞬手が止まりそうになったけれど、何とかスマホの画面を押し込むようにして救急車を呼んだ。 上級救命講習を受けたの…

藤棚
4か月前
2

essay #8 教会

私の幼稚園の隣はかなり大きなカトリック教会があって、幼い頃から食事の前後や帰る前にお祈りをするのがルーティンだった。 年間イベントや行事の中に混じって「復活祭」…

藤棚
4か月前
12

此岸の人だから

君の痛みを 知ってる気がする 僕もむかしね なんて言わないけど 鼓膜から剥がせない セリフがあるんだ 君の笑顔が 引き攣ってるから 行ったり来たり 定まらないから きっ…

藤棚
5か月前
4
essay #13 忘却

essay #13 忘却

忘れたくない、と思うことがある。
変わりたい、前に進みたい、と思うことも多々あるけれど、同じくらい、刻んでおきたい、無かったことにしたくない、と思うことの多い人生だ。

昔はひとからもらった愛を、忘れたくないと思っていたようだ。
思い出ボックスと呼ぶにふさわしい箱を持っていて、小学校の頃に友人からもらった手紙やプレゼントに入っていたカードなんかをぽんぽんと保管していたその箱は、今でも自室のクローゼ

もっとみる
ながいまえがみ

ながいまえがみ

眠りすぎたなきょうは
目を逸らしたい色んなことが
身体に巻き付いて
いたずらっぽく顔を覗き込む

どこかの国の先住民は
わざと髪を切らないって
それは歩みや歴史や考えを
失わないためだって

長い前髪で前が見えないや
これで太陽から隠れられた
いつかはカーテンを開けて空の下
歩き出さなきゃいけないよなあ

動かなきゃ
重たい腕で布団を押して
笑わなきゃ
嫌いにならないように
動かなきゃ
逃げる場所

もっとみる
Pretending

Pretending

恩師じゃないあの人
わたしの笑顔を褒めた
「みんなを幸せにします」
少し信じてて
ほとんど疑ってる

親友じゃないその子
わたしの笑顔を信じた
「楽しそうで良かった」
もちろん信じて
そうしてほしかった

関係ない気にしない
なんてことない平凡な日
痛くもないつらくもない
要らなくないけど必須じゃない

ほらね平気だよ今日だって
ご飯も美味しい

家族じゃないその人
わたしの幸せを案じた
「あなた

もっとみる
たられば

たられば

大雨の公園で20:30
君が来てくれてたら
訃報を聞いたの18:30
君に電話ができてれば

真っ赤なお風呂場 14:10
君が
あの時
見つけてくれたら

わたしたちまだ若いけど
10年はそんなに短くないです
もしかしてを繰り返して
もしかしなかった10年です

待てないことは待てないです
無口でシャイで臆病だから
もしかしない君を許すけど
わたしはそんな甘くないです

スマホを置いたら洪水20

もっとみる
essay #12 美醜

essay #12 美醜

友人が日本で行われたミス・コンテストに出場し、「美」についてSNSで発信をしていた時期がある。
見た目の美しさだけを求めて比べる大会だと思っていたが、そうではなく、社会貢献を最終目標とする素晴らしい機会なのだと彼女は言っていた。

彼女が出場したのはミス・ワールド・ジャパンだったので、そのスローガンは「Beauty with a purpose」つまり「目的のある『美』」。
美しくあることが最大の

もっとみる
木漏れ陽

木漏れ陽

見たまま映せるらしい
話題のカメラで撮ったって
この揺らぎは
この煌めきは
残せやしないから

この瞳がレンズで
瞼がシャッターならって
その横顔や
その指先を
何度も捉えて目を伏せた

陽の当たる縁側がすきだった
ざらついた木目をなぞって
別に可愛がってなかった
猫の背中、撫でたりして

夏の間、蝉の音
秋はオレンジの金木犀
冬はストーブの香り
春になれば紋白蝶

本当にシャッターを切ってたから

もっとみる
フライト

フライト

約束はきらい
階段のてっぺんから
緩やかに地下へゆく
赤色のスイッチ
押したくないの

一緒に行こうと言った国
これでもう叶わないね
いつにしようかあたしが聞いて
きみがほら濁したんだよ

真っ暗な要塞にひとり
蝋燭に 照らされて
包むのはあたしの荷物だけ
もう行くの、新しい空へ

指切りはしない
買えなくて縫った靴底
じんわりと雨滲む
青色の信号
見えてもないの

まっ黒な前髪の裏で
白の砂浜 

もっとみる
Invisible.

Invisible.

言葉にしなかったこと
言葉になったこと
どちらかでしか
褒めてあげられない

言葉にできなかったこと
言葉にできたこと
どちらかでしか
何も伝えられない

誰かの心に響くなにかを
伝えられたことなんて
ほんとにあっただろうか

ひとつひとつを数えては
あまりにも思い出せなくて
その人に心 使えたか
今となってはわからない
そっと 噛み締めて
もしかして 読み返して

言葉にしなかったこと
言葉にな

もっとみる
essay#0 一節

essay#0 一節

いずれ死ぬのであれば、死後、美しい生き様だったと言われるような人でありたいと思ってきた。

立派でも、かっこいいでも、可愛いでも、綺麗でもなく、美しい、美しかった、と言われる人生がいい。

実際のところ、27年間の私の人生は美しく進んできたのかと聞かれたらうまく答えられない。
多分、もっと幼く、拙く、がむしゃらなようで実はゆるっとしていて、だらしないものな気がする。

そもそも美しいという価値観が

もっとみる
essay #11 渡欧

essay #11 渡欧

初めてのヨーロッパ旅行で、シェフをしているいとこの兄に再会した。

まだ私が幼かった当時、祖母が生きていた頃は、実家には親族の行き来がそれなりにあった。

親族の中で一番歳下だった私の記憶は曖昧だけれど、毎年夏休みになると10歳ほど上のいとこの兄が2人で、あるいは叔父と一緒に遊びに来ていた。
既に叔母である母の姉と叔父とは離婚していたけれど、新たに叔母となった後妻も良くしてくれたし、子どもだった私

もっとみる
MINE

MINE

誰かのいちばんに
なりたいんだって

そろそろどうだい
誰かに夢中になれたかい

誰のいちばんにも
なれないから閉じた
氷の心 また
みんなを好きなふり
ばかだね

こっちを向いてみ
ほら ぼくのものだよ
全部置いて笑ってみ
ほら ひとりじゃないよ

誰かのありがとう
浴びるほどほしいって

そろそろどうだい
あの子はそっちを向いたかい

誰のありがとうを
届けても満たないみたい
底無しのポスト 

もっとみる
線路

線路

銀色の龍に跨って
ビルの間をすり抜ける朝
黄色い模様が近づいて
時速90kmで追い越す

車窓に額近づけて
ガラス越しの肖像
勝手に鑑賞して分析中

分かった気になって
また分からなくなりそうで
人のこと考える暇あるなら
参考書でも開こうか

もしも人生が物語なら
始まりはいつも勘違いで
届けられなかった呟きが
頭の中でカッコ書きになって

もしも私が主人公なら
ヒーローがきっと助けそびれて
吐き

もっとみる
essay #10 連絡

essay #10 連絡

友達の友達が死んだというメッセージへの返信を考えながら、想像よりも色が鮮やかで洒落てるな、と思ったオーバルな皿の上のロコモコ丼らしきものにスプーンを刺した。

喜ばしい仕事を終えたあとだったけれど、心地よい疲れというよりも、ざわざわとした緊張感があとになって響いていた。
人前に出る時、緊張することはほとんどない。目の前にいるのが1万人だろうと、その道のプロだろうと、あまり変わらない気がする。
それ

もっとみる
essay #9 血液

essay #9 血液

咄嗟に119番を押した。
いちいちきゅう、だよな、と一瞬手が止まりそうになったけれど、何とかスマホの画面を押し込むようにして救急車を呼んだ。

上級救命講習を受けたのは既に5年前だったけれど、人が横になっているのを見て、あ、安全体位にしなければ、と思った。

まず救急車を呼んで、後輩がAEDを探した。

できることありますかと近づいてきてくれた人がいたので、発煙筒で他の車を誘導してくださいと伝えた

もっとみる
essay #8 教会

essay #8 教会

私の幼稚園の隣はかなり大きなカトリック教会があって、幼い頃から食事の前後や帰る前にお祈りをするのがルーティンだった。
年間イベントや行事の中に混じって「復活祭」や「イースター」があったのは言うまでもない。
いわゆる童謡や童話と一緒に、聖歌を歌い聖書にまつわる絵本を読んだ。クリスマスミサでは、大聖堂でキリスト生誕の劇をやった。

日曜の10時はミサがあって、卒園してからも学校とは違う子どもたち同士の

もっとみる
此岸の人だから

此岸の人だから

君の痛みを
知ってる気がする
僕もむかしね
なんて言わないけど
鼓膜から剥がせない
セリフがあるんだ

君の笑顔が
引き攣ってるから
行ったり来たり
定まらないから
きっと見えてるのは
机だけだよね

要らない
役に立たない
ろくでもない
必要ない
聞こえない
そうじゃない

君はさ
望遠鏡で見えた星しか
信じられないんだろう
届きやしない空の向こう
掴もうとしてるんだろう

僕はさ
君の手を取り

もっとみる