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まだ曲のない歌詞とエッセイ。

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記事一覧

らしきもの

10年住んでないくらいじゃ そんなに懐かしくない景色 片付けが終わらなくて どれもこれも味が薄いかも ごめんね ごめんね だめだねこれじゃ 晩ご飯は食べてきたよって や…

藤棚
2週間前
1

風邪の日の夢

声に乗せてかたちをあげたら ものすごく怒っていた 扉叩いて溢れたゴミ袋 預かってきた人生で腐ってる さがしものがまだ見つからなくて 鞄の中 行き止まり 醒めてもまた…

藤棚
3週間前
1

chair

息を吸って、 吐いていた 届く視線が痛くないな 心を遣っていられる夜だ 遣った心が 受け止められる夜だ 話していいこと 話さなくていいこと 耳を塞ぎたいいろんなこと …

藤棚
1か月前
1

essay #14 幸運

映画「any day now」(邦題:チョコレートドーナツ)を観た。 人間にしかない、他の動物では起こり得ない、社会構造のなかにしか見いだせない苦しい出来事を描いた、観る…

藤棚
1か月前
2

essay #13 忘却

忘れたくない、と思うことがある。 変わりたい、前に進みたい、と思うことも多々あるけれど、同じくらい、刻んでおきたい、無かったことにしたくない、と思うことの多い人…

藤棚
3か月前
4

ながいまえがみ

眠りすぎたなきょうは 目を逸らしたい色んなことが 身体に巻き付いて いたずらっぽく顔を覗き込む どこかの国の先住民は わざと髪を切らないって それは歩みや歴史や考え…

藤棚
3か月前
3

Pretending

恩師じゃないあの人 わたしの笑顔を褒めた 「みんなを幸せにします」 少し信じてて ほとんど疑ってる 親友じゃないその子 わたしの笑顔を信じた 「楽しそうで良かった」 …

藤棚
3か月前

たられば

大雨の公園で20:30 君が来てくれてたら 訃報を聞いたの18:30 君に電話ができてれば 真っ赤なお風呂場 14:10 君が あの時 見つけてくれたら わたしたちまだ若いけど 10年…

藤棚
3か月前

essay #12 美醜

友人が日本で行われたミス・コンテストに出場し、「美」についてSNSで発信をしていた時期がある。 見た目の美しさだけを求めて比べる大会だと思っていたが、そうではなく、…

藤棚
4か月前
3

木漏れ陽

見たまま映せるらしい 話題のカメラで撮ったって この揺らぎは この煌めきは 残せやしないから この瞳がレンズで 瞼がシャッターならって その横顔や その指先を 何度も捉…

藤棚
4か月前
4

フライト

約束はきらい 階段のてっぺんから 緩やかに地下へゆく 赤色のスイッチ 押したくないの 一緒に行こうと言った国 これでもう叶わないね いつにしようかあたしが聞いて きみ…

藤棚
4か月前
3

Invisible.

言葉にしなかったこと 言葉になったこと どちらかでしか 褒めてあげられない 言葉にできなかったこと 言葉にできたこと どちらかでしか 何も伝えられない 誰かの心に響く…

藤棚
5か月前
1

essay#0 一節

いずれ死ぬのであれば、死後、美しい生き様だったと言われるような人でありたいと思ってきた。 立派でも、かっこいいでも、可愛いでも、綺麗でもなく、美しい、美しかった…

藤棚
6か月前

essay #11 渡欧

初めてのヨーロッパ旅行で、シェフをしているいとこの兄に再会した。 まだ私が幼かった当時、祖母が生きていた頃は、実家には親族の行き来がそれなりにあった。 親族の中…

藤棚
6か月前
3

MINE

誰かのいちばんに なりたいんだって そろそろどうだい 誰かに夢中になれたかい 誰のいちばんにも なれないから閉じた 氷の心 また みんなを好きなふり ばかだね こっち…

藤棚
6か月前
5

線路

銀色の龍に跨って ビルの間をすり抜ける朝 黄色い模様が近づいて 時速90kmで追い越す 車窓に額近づけて ガラス越しの肖像 勝手に鑑賞して分析中 分かった気になって また…

藤棚
6か月前
2
らしきもの

らしきもの

10年住んでないくらいじゃ
そんなに懐かしくない景色
片付けが終わらなくて
どれもこれも味が薄いかも
ごめんね
ごめんね
だめだねこれじゃ

晩ご飯は食べてきたよって
やっぱり栄養が足りないの
使ったことない合鍵
自分の家だっけ本当に
悪いね
だけどね
仕方なかったの

わたしはしあわせだよ
もうだいじょうぶだよ
何もいらないんだよ
何もしなくたっていいんだよ

あなたが言ったんだよ
でもだいじょ

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風邪の日の夢

風邪の日の夢

声に乗せてかたちをあげたら
ものすごく怒っていた
扉叩いて溢れたゴミ袋
預かってきた人生で腐ってる

さがしものがまだ見つからなくて
鞄の中 行き止まり
醒めてもまた見る風邪の日の夢
鬼の顔掴んで叩きつけるの

空を飛ぶ
地面を右脚で蹴って
思ったよりも
上空は寒くない

摩天楼の先
左半身で巻き付く
地表にいれば
もっと楽なのに

電波に乗らない肉声が大事
でも生身でぶつかると避けられるの
ジャ

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chair

chair

息を吸って、
吐いていた

届く視線が痛くないな
心を遣っていられる夜だ
遣った心が
受け止められる夜だ

話していいこと
話さなくていいこと
耳を塞ぎたいいろんなこと
ぜんぶを諦めて泳ぐのをやめた

ドアを開けた先
君がいてゆるやかに宇宙に飛び込む

息を吸って、
吐いていい場所だ

弱虫って都合がいいな
あのこを傷つけて生きているんだ
浸かった湯船に
ネガティブを滲み出している

気づいていた

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essay #14 幸運

essay #14 幸運

映画「any day now」(邦題:チョコレートドーナツ)を観た。

人間にしかない、他の動物では起こり得ない、社会構造のなかにしか見いだせない苦しい出来事を描いた、観るべき映画のひとつだった。

友人は嗚咽するほど泣いたと言っていたし、映画が描いていた衝撃はとても大きなものだったけれど、感傷に浸るというよりは、社会に対する重たい鉛のような懐疑心が心臓に残る気持ちで、表情筋をなかなか、動かせない

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essay #13 忘却

essay #13 忘却

忘れたくない、と思うことがある。
変わりたい、前に進みたい、と思うことも多々あるけれど、同じくらい、刻んでおきたい、無かったことにしたくない、と思うことの多い人生だ。

昔はひとからもらった愛を、忘れたくないと思っていたようだ。
思い出ボックスと呼ぶにふさわしい箱を持っていて、小学校の頃に友人からもらった手紙やプレゼントに入っていたカードなんかをぽんぽんと保管していたその箱は、今でも自室のクローゼ

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ながいまえがみ

ながいまえがみ

眠りすぎたなきょうは
目を逸らしたい色んなことが
身体に巻き付いて
いたずらっぽく顔を覗き込む

どこかの国の先住民は
わざと髪を切らないって
それは歩みや歴史や考えを
失わないためだって

長い前髪で前が見えないや
これで太陽から隠れられた
いつかはカーテンを開けて空の下
歩き出さなきゃいけないよなあ

動かなきゃ
重たい腕で布団を押して
笑わなきゃ
嫌いにならないように
動かなきゃ
逃げる場所

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Pretending

Pretending

恩師じゃないあの人
わたしの笑顔を褒めた
「みんなを幸せにします」
少し信じてて
ほとんど疑ってる

親友じゃないその子
わたしの笑顔を信じた
「楽しそうで良かった」
もちろん信じて
そうしてほしかった

関係ない気にしない
なんてことない平凡な日
痛くもないつらくもない
要らなくないけど必須じゃない

ほらね平気だよ今日だって
ご飯も美味しい

家族じゃないその人
わたしの幸せを案じた
「あなた

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たられば

たられば

大雨の公園で20:30
君が来てくれてたら
訃報を聞いたの18:30
君に電話ができてれば

真っ赤なお風呂場 14:10
君が
あの時
見つけてくれたら

わたしたちまだ若いけど
10年はそんなに短くないです
もしかしてを繰り返して
もしかしなかった10年です

待てないことは待てないです
無口でシャイで臆病だから
もしかしない君を許すけど
わたしはそんな甘くないです

スマホを置いたら洪水20

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essay #12 美醜

essay #12 美醜

友人が日本で行われたミス・コンテストに出場し、「美」についてSNSで発信をしていた時期がある。
見た目の美しさだけを求めて比べる大会だと思っていたが、そうではなく、社会貢献を最終目標とする素晴らしい機会なのだと彼女は言っていた。

彼女が出場したのはミス・ワールド・ジャパンだったので、そのスローガンは「Beauty with a purpose」つまり「目的のある『美』」。
美しくあることが最大の

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木漏れ陽

木漏れ陽

見たまま映せるらしい
話題のカメラで撮ったって
この揺らぎは
この煌めきは
残せやしないから

この瞳がレンズで
瞼がシャッターならって
その横顔や
その指先を
何度も捉えて目を伏せた

陽の当たる縁側がすきだった
ざらついた木目をなぞって
別に可愛がってなかった
猫の背中、撫でたりして

夏の間、蝉の音
秋はオレンジの金木犀
冬はストーブの香り
春になれば紋白蝶

本当にシャッターを切ってたから

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フライト

フライト

約束はきらい
階段のてっぺんから
緩やかに地下へゆく
赤色のスイッチ
押したくないの

一緒に行こうと言った国
これでもう叶わないね
いつにしようかあたしが聞いて
きみがほら濁したんだよ

真っ暗な要塞にひとり
蝋燭に 照らされて
包むのはあたしの荷物だけ
もう行くの、新しい空へ

指切りはしない
買えなくて縫った靴底
じんわりと雨滲む
青色の信号
見えてもないの

まっ黒な前髪の裏で
白の砂浜 

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Invisible.

Invisible.

言葉にしなかったこと
言葉になったこと
どちらかでしか
褒めてあげられない

言葉にできなかったこと
言葉にできたこと
どちらかでしか
何も伝えられない

誰かの心に響くなにかを
伝えられたことなんて
ほんとにあっただろうか

ひとつひとつを数えては
あまりにも思い出せなくて
その人に心 使えたか
今となってはわからない
そっと 噛み締めて
もしかして 読み返して

言葉にしなかったこと
言葉にな

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essay#0 一節

essay#0 一節

いずれ死ぬのであれば、死後、美しい生き様だったと言われるような人でありたいと思ってきた。

立派でも、かっこいいでも、可愛いでも、綺麗でもなく、美しい、美しかった、と言われる人生がいい。

実際のところ、27年間の私の人生は美しく進んできたのかと聞かれたらうまく答えられない。
多分、もっと幼く、拙く、がむしゃらなようで実はゆるっとしていて、だらしないものな気がする。

そもそも美しいという価値観が

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essay #11 渡欧

essay #11 渡欧

初めてのヨーロッパ旅行で、シェフをしているいとこの兄に再会した。

まだ私が幼かった当時、祖母が生きていた頃は、実家には親族の行き来がそれなりにあった。

親族の中で一番歳下だった私の記憶は曖昧だけれど、毎年夏休みになると10歳ほど上のいとこの兄が2人で、あるいは叔父と一緒に遊びに来ていた。
既に叔母である母の姉と叔父とは離婚していたけれど、新たに叔母となった後妻も良くしてくれたし、子どもだった私

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MINE

MINE

誰かのいちばんに
なりたいんだって

そろそろどうだい
誰かに夢中になれたかい

誰のいちばんにも
なれないから閉じた
氷の心 また
みんなを好きなふり
ばかだね

こっちを向いてみ
ほら ぼくのものだよ
全部置いて笑ってみ
ほら ひとりじゃないよ

誰かのありがとう
浴びるほどほしいって

そろそろどうだい
あの子はそっちを向いたかい

誰のありがとうを
届けても満たないみたい
底無しのポスト 

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線路

線路

銀色の龍に跨って
ビルの間をすり抜ける朝
黄色い模様が近づいて
時速90kmで追い越す

車窓に額近づけて
ガラス越しの肖像
勝手に鑑賞して分析中

分かった気になって
また分からなくなりそうで
人のこと考える暇あるなら
参考書でも開こうか

もしも人生が物語なら
始まりはいつも勘違いで
届けられなかった呟きが
頭の中でカッコ書きになって

もしも私が主人公なら
ヒーローがきっと助けそびれて
吐き

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