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まだ曲のない歌詞とエッセイ。

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Pretending

恩師じゃないあの人 わたしの笑顔を褒めた 「みんなを幸せにします」 少し信じてて ほとんど疑ってる 親友じゃないその子 わたしの笑顔を信じた 「楽しそうで良かった」 もちろん信じて そうしてほしかった 関係ない気にしない なんてことない平凡な日 痛くもないつらくもない 要らなくないけど必須じゃない ほらね平気だよ今日だって ご飯も美味しい 家族じゃないその人 わたしの幸せを案じた 「あなたは良くてもさ」 何を知ってて どうしてそう言える 長いことぐるぐると 同じ道を

    • たられば

      大雨の公園で20:30 君が来てくれてたら 訃報を聞いたの18:30 君に電話ができてれば 真っ赤なお風呂場 14:10 君が あの時 見つけてくれたら わたしたちまだ若いけど 10年はそんなに短くないです もしかしてを繰り返して もしかしなかった10年です 待てないことは待てないです 無口でシャイで臆病だから もしかしない君を許すけど わたしはそんな甘くないです スマホを置いたら洪水20:00 君に電話をかけてたら ひとりの夜 煙と一緒の23:00 君がここにいてく

      • essay #12 美醜

        友人が日本で行われたミス・コンテストに出場し、「美」についてSNSで発信をしていた時期がある。 見た目の美しさだけを求めて比べる大会だと思っていたが、そうではなく、社会貢献を最終目標とする素晴らしい機会なのだと彼女は言っていた。 彼女が出場したのはミス・ワールド・ジャパンだったので、そのスローガンは「Beauty with a purpose」つまり「目的のある『美』」。 美しくあることが最大の目的ではなく、別の目的があるからこそ美しくあるのだ、という考えのもとに、女性たち

        • 木漏れ陽

          見たまま映せるらしい 話題のカメラで撮ったって この揺らぎは この煌めきは 残せやしないから この瞳がレンズで 瞼がシャッターならって その横顔や その指先を 何度も捉えて目を伏せた 陽の当たる縁側がすきだった ざらついた木目をなぞって 別に可愛がってなかった 猫の背中、撫でたりして 夏の間、蝉の音 秋はオレンジの金木犀 冬はストーブの香り 春になれば紋白蝶 本当にシャッターを切ってたから 今も眺められる 記憶の色 思ったより時間が経ってさ 目の前はもっと鮮やかだよ

        Pretending

        マガジン

        • 35本
        • エッセイ
          12本
        • 美しい一節
          1本

        記事

          フライト

          約束はきらい 階段のてっぺんから 緩やかに地下へゆく 赤色のスイッチ 押したくないの 一緒に行こうと言った国 これでもう叶わないね いつにしようかあたしが聞いて きみがほら濁したんだよ 真っ暗な要塞にひとり 蝋燭に 照らされて 包むのはあたしの荷物だけ もう行くの、新しい空へ 指切りはしない 買えなくて縫った靴底 じんわりと雨滲む 青色の信号 見えてもないの まっ黒な前髪の裏で 白の砂浜 夢見た? 諦めたらだめだったのにね 悲しいの、あたしの方だよ 長く待ちすぎて

          フライト

          Invisible.

          言葉にしなかったこと 言葉になったこと どちらかでしか 褒めてあげられない 言葉にできなかったこと 言葉にできたこと どちらかでしか 何も伝えられない 誰かの心に響くなにかを 伝えられたことなんて ほんとにあっただろうか ひとつひとつを数えては あまりにも思い出せなくて その人に心 使えたか 今となってはわからない そっと 噛み締めて もしかして 読み返して 言葉にしなかったこと 言葉になったこと どちらも拾って 宝箱にしまう 言葉にできなかったこと 見せて欲しいけ

          Invisible.

          essay#0 一節

          いずれ死ぬのであれば、死後、美しい生き様だったと言われるような人でありたいと思ってきた。 立派でも、かっこいいでも、可愛いでも、綺麗でもなく、美しい、美しかった、と言われる人生がいい。 実際のところ、27年間の私の人生は美しく進んできたのかと聞かれたらうまく答えられない。 多分、もっと幼く、拙く、がむしゃらなようで実はゆるっとしていて、だらしないものな気がする。 そもそも美しいという価値観が、なにかしら美しくない他のモノとの差分によってしか認識できないのであれば、私は今

          essay#0 一節

          essay #11 渡欧

          初めてのヨーロッパ旅行で、シェフをしているいとこの兄に再会した。 まだ私が幼かった当時、祖母が生きていた頃は、実家には親族の行き来がそれなりにあった。 親族の中で一番歳下だった私の記憶は曖昧だけれど、毎年夏休みになると10歳ほど上のいとこの兄が2人で、あるいは叔父と一緒に遊びに来ていた。 既に叔母である母の姉と叔父とは離婚していたけれど、新たに叔母となった後妻も良くしてくれたし、子どもだった私たち姉妹は、よく兄たちに肩車をしてもらったり、手を繋いで飲食店まで歩いてもらった

          essay #11 渡欧

          MINE

          誰かのいちばんに なりたいんだって そろそろどうだい 誰かに夢中になれたかい 誰のいちばんにも なれないから閉じた 氷の心 また みんなを好きなふり ばかだね こっちを向いてみ ほら ぼくのものだよ 全部置いて笑ってみ ほら ひとりじゃないよ 誰かのありがとう 浴びるほどほしいって そろそろどうだい あの子はそっちを向いたかい 誰のありがとうを 届けても満たないみたい 底無しのポスト また 封を開けたのに 捨てるの? こっちへおいでよ ほら ぼくのきみだよ 不貞

          線路

          銀色の龍に跨って ビルの間をすり抜ける朝 黄色い模様が近づいて 時速90kmで追い越す 車窓に額近づけて ガラス越しの肖像 勝手に鑑賞して分析中 分かった気になって また分からなくなりそうで 人のこと考える暇あるなら 参考書でも開こうか もしも人生が物語なら 始まりはいつも勘違いで 届けられなかった呟きが 頭の中でカッコ書きになって もしも私が主人公なら ヒーローがきっと助けそびれて 吐き出せなかった言い訳で 後書きばかり長くなって ああ いやだ もう追い越された電

          essay #10 連絡

          友達の友達が死んだというメッセージへの返信を考えながら、想像よりも色が鮮やかで洒落てるな、と思ったオーバルな皿の上のロコモコ丼らしきものにスプーンを刺した。 喜ばしい仕事を終えたあとだったけれど、心地よい疲れというよりも、ざわざわとした緊張感があとになって響いていた。 人前に出る時、緊張することはほとんどない。目の前にいるのが1万人だろうと、その道のプロだろうと、あまり変わらない気がする。 それでも人から見られる目に敏感で繊細な方なので、終わった後にむしろあれこれと考えて、

          essay #10 連絡

          essay #9 血液

          咄嗟に119番を押した。 いちいちきゅう、だよな、と一瞬手が止まりそうになったけれど、何とかスマホの画面を押し込むようにして救急車を呼んだ。 上級救命講習を受けたのは既に5年前だったけれど、人が横になっているのを見て、あ、安全体位にしなければ、と思った。 まず救急車を呼んで、後輩がAEDを探した。 できることありますかと近づいてきてくれた人がいたので、発煙筒で他の車を誘導してくださいと伝えた。 ぶつかった車から運転手が出てきたので、対向車線に出ていた車を脇に寄せるように

          essay #9 血液

          essay #8 教会

          私の幼稚園の隣はかなり大きなカトリック教会があって、幼い頃から食事の前後や帰る前にお祈りをするのがルーティンだった。 年間イベントや行事の中に混じって「復活祭」や「イースター」があったのは言うまでもない。 いわゆる童謡や童話と一緒に、聖歌を歌い聖書にまつわる絵本を読んだ。クリスマスミサでは、大聖堂でキリスト生誕の劇をやった。 日曜の10時はミサがあって、卒園してからも学校とは違う子どもたち同士のコミュニティがあり、友達に会いに行くような感覚で中学生までミサに参加していた。

          essay #8 教会

          此岸の人だから

          君の痛みを 知ってる気がする 僕もむかしね なんて言わないけど 鼓膜から剥がせない セリフがあるんだ 君の笑顔が 引き攣ってるから 行ったり来たり 定まらないから きっと見えてるのは 机だけだよね 要らない 役に立たない ろくでもない 必要ない 聞こえない そうじゃない 君はさ 望遠鏡で見えた星しか 信じられないんだろう 届きやしない空の向こう 掴もうとしてるんだろう 僕はさ 君の手を取りたいんだ 信じられないだろう レンズから君を引き剥がして 地面も悪くないだろう

          此岸の人だから

          空腹

          柿の種みたいな下瞼 泣いたからじゃない ヨモギ花粉の季節なの だから目を擦っちゃったわけ 昨日チャージしたモバイルSuica 電池切れで通せんぼ 後退り 冷ましたはずの麦茶熱いまま 吐き出せなくて痺れた舌 もう日が傾いてるのに 胃が音を上げる午後3時 絡まった糸解けないし 脳働かす糖も足りない 頭のなか日本語でいっぱい 捨てても戻ってくるゴミみたい ちょっと退いて1時間だけ わたしそのソファで寝たいの 足りないメモリ継ぎ足してもっかい 水道水で潤してごまかす 3食食べた

          唄えない

          わがままを言って 好き勝手にして くるくる回る目輝かせ 気ままに愛して やがて捨て去る 自由なマリーに見えるのね 今日だって無表情 枕に頬押し付けて 笑顔の絵文字つきで 実と嘘の労い送る 唄えない夜 肋骨が心臓を刺す ひとりにしないでここにいて うまく息が吸えないから 誰かが笑って 相手も笑って キラキラ揺れる目が眩しい 望んだもの全部 手に入れ安堵する 強かな人ほど繊細 今日だって無表情 画面の向こうに手を 伸ばして届かなくて 歪みかけた口を噤む 唄えない夜 瞼が

          唄えない