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毎日読書メモ

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#読書の秋2021

毎日読書メモ(179)『私の中の男の子』(山崎ナオコーラ)

毎日読書メモ(179)『私の中の男の子』(山崎ナオコーラ)

まだ11月で、今年の総括をするにはちょっと早いけれど、今年のわたしのエポックメーキングだった出来事のひとつは山崎ナオコーラの再発見であった、と言える。『肉体のジェンダーを笑うな』(2020年発表)に驚愕し、『鞠子はすてきな役立たず』(2019年)でダメ押しをされた感じ(発表順は逆だが)。作者プロフィールに「性別非公表」と書いてあり、ジェンダーへの違和感が上記2作にもあらわれているが、2010-20

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毎日読書メモ(178)『団体旅行の文化史』(山本志乃)

毎日読書メモ(178)『団体旅行の文化史』(山本志乃)

しばらく前の朝日新聞の書評欄の情報コーナーに山本志乃『団体旅行の文化史 旅の大衆化とその系譜』(創元社)という本が紹介されていて、文化史の本好きなので、早速読んでみた。作者は神奈川大学教授だが、長く、旅の文化研究所(近畿日本ツーリストが運営している研究機関)で研究活動をしていた人で、その前は千葉の館山市立博物館で学芸員をされていたということで、ご本人のこれまでの研究成果を踏まえ、更に多くの資料にあ

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毎日読書メモ(172)山本文緒追悼:『シュガーレス・ラヴ』

毎日読書メモ(172)山本文緒追悼:『シュガーレス・ラヴ』

山本文緒追悼その2で『シュガーレス・ラヴ』(集英社)を読んだ。「小説すばる」の連載だったので、集英社から単行本が出て、集英社文庫になったが、現在は角川文庫。ぱっと見たところ、多くの山本文緒作品が角川文庫に集約されているようだ(一部ドル箱的な作品が文藝春秋と新潮社に残っている)。

主に女性が苦しむ病気をテーマとした短編集。扱われているのは骨粗鬆症、アトピー性皮膚炎、便秘、突発性難聴、睡眠障害、生理

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毎日読書メモ(171)『シーソーモンスター』(伊坂幸太郎)

毎日読書メモ(171)『シーソーモンスター』(伊坂幸太郎)

伊坂幸太郎を新刊で追い続けるのは結構大変なので(図書館で予約して待っているといつまでも順番が回ってこず、他の本の予約が出来なくなる)、あんまり新刊情報に敏感になりすぎないように気を付けているのだが(と言いつつ今日の新聞に『ペッパーズ・ゴースト』の書評が出てきたのが気になる、すごく気になる)、一昨年刊行された『シーソーモンスター』(中央公論新社)が図書館の棚にあるのを見て、うわ、存在すら気づいていな

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毎日読書メモ(168)『倒れるときは前のめり』(有川浩)

毎日読書メモ(168)『倒れるときは前のめり』(有川浩)

有川浩のエッセイ集『倒れるときは前のめり』(角川書店、現在は角川文庫)を読んだ。土佐旅福という高知みやげのショップのデザインを元にした柑橘類の絵の表紙が美しい。

稀代のストーリーテラーが、自分自身のことを語ると妙に生硬だったりする場合がある、というのを、かつて、恩田陸の『小説以外』を読んだときに思ったのだが、有川浩の『倒れるときは前のめり』もまた、自分自身の話をするとなんだか気負ってしまうのだろ

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毎日読書メモ(167)『屋上のウインドノーツ』(額賀澪)

毎日読書メモ(167)『屋上のウインドノーツ』(額賀澪)

額賀澪『屋上のウインドノーツ』(文藝春秋)を読んだ。2015年に『ウインドノーツ』というタイトルで、第22回松本清張賞を受賞した、デビュー作に近い作品(ほぼ同時に『ヒトリコ』で第16回小学館文庫小説賞していて、両作は同日に単行本として発売された)。

わたしが初めて読んだ額賀澪作品が『風に恋う』(文藝春秋)で、これと同様、高校の吹奏楽部を舞台とした作品。自分がずっとアマチュアオーケストラで楽器を演

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毎日読書メモ(166)『あとかた』(千早茜)

毎日読書メモ(166)『あとかた』(千早茜)

千早茜の作品を初めて読んだ。『あとかた』(新潮社)は、「小説新潮」に連載されていた連作短篇。「ほむら」(初出時のタイトルは「あとかた」)「てがた」「ゆびわ」「やけど」「うろこ」「ねいろ」と、少しずつ、登場人物が重なっていて、意識的に時制が前に行ったり後ろに行ったり、ある作品で意識的に記されなかった名前を別の作品で出したりして、一瞬つながりが分かりにくいようにしつつも、物語全体は同じ世界の中で生きて

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毎日読書メモ(164)『車のいろは空のいろ 白いぼうし』(あまんきみこ)

毎日読書メモ(164)『車のいろは空のいろ 白いぼうし』(あまんきみこ)

あまんきみこ『車のいろは空のいろ 星のタクシー』(ポプラ社)を図書館に返しに行ったら、棚に『車のいろは空のいろ 白いぼうし』があったので、借りてきた。今週3回目のあまんきみこ推し。1回目 2回目

『車のいろは空のいろ 白いぼうし』には、「小さなお客さん」(こぎつねの兄弟が松井さんのタイヤ交換を手伝って、お礼にタクシーに乗せてもらう)、「うんのいい話」(釣りに行って大漁だったお客さんを乗せたら、車

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毎日読書メモ(163)山本文緒追悼:『あなたには帰る家がある』

毎日読書メモ(163)山本文緒追悼:『あなたには帰る家がある』

追悼、と思って山本文緒を読もうとしても、家の中に見当たらない。例えばこの『あなたには帰る家がある』が集英社文庫になった、1998年頃、身近に図書館がなかったので、絶対買って読んだと思うのに、いったい何処へ行ってしまったんだろう。わたしの記憶にある『あなたには帰る家がある』は、タイトル画像に使った集英社文庫の花びらのような表紙だったが、現在売られている角川文庫版は女性のイラストになっているようだ。

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毎日読書メモ(162)もう1回、『車のいろは空のいろ』、そして北田卓史つながりで、『チョコレート戦争』(大石真)

毎日読書メモ(162)もう1回、『車のいろは空のいろ』、そして北田卓史つながりで、『チョコレート戦争』(大石真)

昨日、あまんきみこ『車のいろは空のいろ』の話を書いたが、やはり最近読んでない本の話には隔靴掻痒感が漂い、書いていてもどかしかったので、今日の昼休み、近所の図書館に行ってきた。『車のいろは空のいろ1 白いぼうし』、家で蔵書検索をしたら、貸し出し中になっていなかったのに、棚になかった...仕方なく『車のいろは空のいろ3 星のタクシー』(ポプラ社)借りてきた。近くに、同じ北田卓史挿画の大石真『チョコレー

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毎日読書メモ(161)『車のいろは空のいろ』(あまんきみこ)

毎日読書メモ(161)『車のいろは空のいろ』(あまんきみこ)

noteのお勧め記事の中に、あまんきみこ『車のいろは空のいろ』(ポプラ社)の一話「白いぼうし」が全文掲載されているのが出てきた。懐かしく読む。

「白いぼうし」を最初に読んだのは、小学校の国語の教科書だった。3年生か4年生か、教科書の一番最初に出ていた。春らしい話だから、季節に合うと判断されたのだろう。その後、『車のいろは空のいろ』は本で読んで、タクシー運転手の松井さんの、さまざまなエピソードを愉

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毎日読書メモ(160)『溶ける街 透ける路』(多和田葉子)

毎日読書メモ(160)『溶ける街 透ける路』(多和田葉子)

どこかの書評欄で誰かが言及していたので、多和田葉子『溶ける街 透ける路』(日本経済新聞社、現在は講談社文芸文庫)を読んでみた。

2005年春から2006年末までに訪れた町の話を、2006年の1年間、日本経済新聞に連載したもの。まず驚くのは時代を超越していること。あとがきを読むまで、15年も前の記録とは思いもしなかった。

そして、旅する作家なんだな、という驚き。1982年から2006年までハンブ

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毎日読書メモ(159)『アフリカ人学長、京都修行中』(ウスビ・サコ)

毎日読書メモ(159)『アフリカ人学長、京都修行中』(ウスビ・サコ)

『アフリカ出身サコ学長、日本を語る』(朝日新聞出版)読んだら面白かった、京都精華大学のウスビ・サコ学長の本を、もう1冊読んでみた。『アフリカ人学長、京都修行中』(文藝春秋)。前作は、サコさんが、どういうきっかけで日本にやってきて、京都の学校で地歩を固めていったか、サコさんから見て日本人はどういう風に見えるか、といったことが書かれているが、今回は主に、結果的に自分の生涯の半分以上住むことになった京都

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毎日読書メモ(158)図書館のレファレンスサービスを活用しよう!:『100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集』(福井県立図書館編)

毎日読書メモ(158)図書館のレファレンスサービスを活用しよう!:『100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集』(福井県立図書館編)

福井県立図書館編『100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集』(講談社)、ついつい買ってしまって読みながら結構笑う。

福井県立図書館のウェブサイトには昔から「覚え違いタイトル集」のページがあり、時々、調べ物の途中で流れ着いて幾つも事例を読んでは大笑いしていたので、別に本で読む必要なんてないと言えばない。

これは全国の図書館と本を探している人々に対して、参考になる事例として発信されており、本日(2

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