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毎日読書メモ(168)『倒れるときは前のめり』(有川浩)

有川浩のエッセイ集『倒れるときは前のめり』(角川書店、現在は角川文庫)を読んだ。土佐旅福という高知みやげのショップのデザインを元にした柑橘類の絵の表紙が美しい。

稀代のストーリーテラーが、自分自身のことを語ると妙に生硬だったりする場合がある、というのを、かつて、恩田陸の『小説以外』を読んだときに思ったのだが、有川浩の『倒れるときは前のめり』もまた、自分自身の話をするとなんだか気負ってしまうのだろうか、という感懐と共に読み進めることになった。2004年の作家デビュー以来、色々な媒体で発表したものを集めてきたエッセイ集で、テーマも趣向も様々だが、ラノベの小説賞をとってデビューし、書きぶりなども軽く見られがちであったことで、軽く思われてきたことを端々で書いているが、それは自虐ではなく、実感のある苦しみだったのではないだろうか、と読んでいて切なくなった。こんなにも面白い小説を次々と発表してきたのに、もっともっと胸を張ればいいのに。

幾つものエッセイの中で繰り返し語られていることで、彼女のルーツを垣間見る。、小説を書くきっかけの一つとなった笹本祐一『妖精作戦』(読んだことないのでこれは絶対読むぞ、と決めた)、湊かなえとの交流、児玉清さんへの尊敬の念、新井素子への敬愛(『図書館戦争』などを読んでいて、ずっと、このツンデレなラブコメのテイストは素ちゃんっぽいよねぇ、と思って来たが、ずばりその通りだった)、故郷土佐への愛。

東日本大震災の少し後頃に書かれたエッセイで「自粛は被災地を救わない。被災しなかった地域の人が消費し、経済を回すことが被災地の救済に結びつく」ということを複数回書いている。これは、阪神・淡路大震災を体験した作者の実感を元にした主張で、すとんと腑に落ちた。

少しずつ読み進め、作者の主張などに気持ちが少しずつ馴染んでいったが、巻末に短編小説が2編収められていて(考えてみたら、彼女は長編小説の人なのだな、短編小説集を読んだ記憶がない。だから、独立した短篇を収録する本が今までなかったのだろうか)、読んでいると、やはりエッセイよりは構築された物語の方がすーっと浸み入り、楽しいのであった。稀代のストーリーテラーはやはり物語で勝負すると圧勝、という読後感になった。

有川浩の小説はどれも面白くて大好きだが、1冊勧めるなら『キケン』(新潮文庫)を推してみたい。しかしAmazonのページを貼ってみたが版元品切れなのか? すごーく面白いのに。



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