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Separation After Darkness

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短編、掌編を載せます。 幻想小説だったり(恥ずかしい)日常の一場面を切り取ったり、そうではなかったり。 私が見ている景色、感じた情景をみなさんにも共有したくて。
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記事一覧

ラーメンの入学式

 ―――これは、もう誰も覚えていない、世界から抹消された記憶。

 ―――アメリカがラーメンと呼ばれていた頃の、世界の記憶です。

 ―――すべての人が忘れてもいい。でも、あなたにだけはアメリカがラーメンと呼ばれていたことを覚えておいてほしい。

 ―――アメリカの入学式がラーメンの入学式だったことを、忘れないでください。

新麺生代表挨拶

 新調した暖簾が日にあざやかに映る季節となるなか、僕た

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濃厚百足ラーメン『異種姦だる』

 金田瑠偉、一八歳、あだ名はダル。この年頃の男子よろしく性欲とラーメンのことしか頭にないラーメンリビドーモンキーだった。
 同年代男子との猥談で、
「お前さぁ、一日何回オナ、マスタベするよ?」
「えっ、オナ、自慰? うーん、普通に一回くらいかな?」
「そんなもんか。俺は多けりゃ二回かな。ダルは?」
「僕はね、オナニーを、三回、するよ」
 ダルは排精時の断続的なリズムのように言葉を区切って言った。

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ラザニヤ避け

 パイカたんと電車に乗り込み、出勤する。僕は歯を食い縛って、ドア横にチョンと収まっている彼女を満載の怪物から守っている。電車がぐわん、と揺れて大きなカーブに差し掛かった。怪物が鎌首をもたげる。人に、扱える巨きさではないぞ。
「しっかり立つのよ」
 彼女が僕をなじる。ちくしょう、そんな言われざま、あんまりだろうが。
「む、むりだよ。腕がいたいんだ」
「こらえ性の無いひと。あなた、わたしと付き合ってい

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吐く鳥

 白鳥は吐いた。飛んでる時に眼下の滝に向かって吐いた。いや、やつが吐きたかった訳じゃない。おれが吐きたかった。吐き出すものがなかった。だから白鳥のせいにした。白鳥が吐くことで、おれが吐かなくていいようにした。おれが吐かなくなったから白鳥は飛ばなくてもいいようになった。白鳥は、吐く鳥だから吐くために飛ぶ。吐けなくても吐くふりをする。それを同調圧力だと見なす他の鳥たちはみんな本当の意味で飛んでいない。

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非代替性たかし


たかし たかし かしこくないっ
陰キャ 無能で 代えやすいっ
(しっと深くて プライド高いっ
せいぜい 代替性 たかし?)


……………………………………………………………………、

 うっひょっ!!!
 昨日、適当に出品したNFT「チンフォマニア」がバチクソ売れてマスやん!!! イキッて10ETHつけたったけど、まさか売れっとはなぁ! えらいこっちゃえらいこっちゃやでえ。おれのTAKAS

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肉汁公の優雅な偽装生活



 それがし、肉汁公と申します。ふひ。おっといけませんな、それがし、ふひ、などと実に肉汁的な笑い方をしてしまいました。拙者、気を付けていないとついつい笑みが零れて垂れてきてしまうのです。ええ、それはもう、完璧な肉汁のように。「完璧な肉汁などといったものは存在しない。完璧なラーメンが存在しないようにね」とそれがしの尊敬する肉汁作家は仰っていましたが、少し疑ってしまいます。なぜなら、今それがしは、こ

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硝子は飛べないから犬にはなれない

 硝子は歩いて地面を啄む。せっかく夜が編み込まれた翼があるのに羽ばたかない。
 僕は家から帰ったあとに散歩に出かけるのだが、彼女はいつも散歩先にいる。
「なんで飛んで餌を取りに行かないの」
 と僕が言うと硝子はつん、と済まして言う。「私の翼は虫けらを啄むためにあるんじゃなイ」
 おお、なんて盛大な自尊心だ、と僕は思う。その時はそのままその場を後にした。
 次の日も彼女はそこにいた。てくてくと歩いて

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割りきれない

 お母さんと話したあと、彼が石だったのに気付いて、呆然としたわたしはコーヒーも飲めなくなって。
 だんだん開きっぱなしの扉の気分になったからさぁ。だめだ。
 気付いたらこうして彼とはおさらばして、ずっと考えてて、でも駄目。だめ……。しばらく経って、うーん、別つ。
 ずっと屈んで腰がいたいよ。大腿骨が一番太かった。
「じゃあ一つずつ、こう考えていきましょう?」
 あんだれぱっ、と鳴く妖精さん。とうと

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甘き塩、来たれ<Komm, süsser Salz>

「い、ら、な、い」
 彼女は塩結晶の中で音節を横に裂く。
「ホーミタイはさすがだね」
 彼女は凄い。僕よりずっと年下なのにずっと仕事ができる。
「箸はいらない、みかんはいらない、スマホはいらない、こたつはいらない、雪はいらない、何もいらない」
 ホーミタイは透明なクリスタルの中で微笑み続ける。唇と音節を横に裂き、言葉を唱え続ける。否定で空気を満たしてる。それが彼女の仕事。ホーミタイは国が主導してい

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センスだけの犀

_僕はセンスだけで生きてる。
_そういう人間がどれくらいいるか知らないけど、きっと活躍が限られた人生を送ってきたのだと思う。努力するには有り余り、怠けるには隙があるこの才能を、僕たちはもてあましてる。
「リノウ、リノウ」
_と僕の前で犀が鳴く。ずっと横を向いて、角を気に擦り付けて、落ち着かない様子の灰の犀。僕は毎日上野公園の犀と話す職に就いていた。
_僕は以前日本語をサイに教える仕事をしていた。で

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スカーフのゆれかた

 後輩が中国人の手下になっていた。中国人の手下になった大学の後輩。彼は僕が紹介したバイトも辞めて消息を絶っていた。いろんな人に心配をかけていたけど彼は誰にも行き先を告げずにいなくなった。
 久しぶりに見た彼はゲーセンの前で怪しい小物を売っていた。それは妖しくひらひらしていた。
 僕たちは部活の帰りだった。他の部員は彼をみとめるとはっとして歩みを止めた。そしてきまずくてそいつの脇をすっと通り抜ける。

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悪夢

 これは悪夢以外のなにものでもない。どうやったって、解けない魔法。獅子に押しつぶされ、もがくうさぎども。苦楽を共にした、友人の裏切り。なにもかもが、僕に降りかかってきて、苛ませる。実に、悩ましい。
 しかし、向こうからちゃんと息をしている、いきものが現れた。人間なのか? 予測がつかない。確かに人間らしいシルエットを纏ってはいるが、このように不気味な様相を呈しているものを、果たして人間と言ってよいの

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豚の部屋

 僕の部屋。僕の部屋。眠る場所。他にはないところ。起きて、石のご飯を牛乳で押し込んで、電車。
 電車では森が立ち尽くしてる。森が鞄持ってつり革にぶら下がって寝てる。動物はいない。小鳥も、木漏れ日も。
 僕は屠殺事務の仕事している。ここで生まれたので。
「ぶぅぶぅ」
 机に座る豚さんたち。みんな血を流しているけど、スーツとベルトで止血してる。
「ぶぅー」
 オフィスの豚さん。隈はいないよ。部屋がない

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開脚前転七日目

 いつも開脚前転している訳じゃない。
 多くて日に十回。少ないと一回もない。というところだ。
 ユーザは九割がはりねずみでら残りの一割は名乗らないので何者か分からない。でも、おそらくはりねずみだろう。彼らはとてもシャイなので、名乗るのが苦手なようだ。はりねずみ的見た目をしていても、自分がはりねずみだと名乗らなければ、はりねずみではないのだ。僕たちは常にユーザのことをよく考えていなければならない。そ

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