濃厚百足ラーメン『異種姦だる』

 金田瑠偉、一八歳、あだ名はダル。この年頃の男子よろしく性欲とラーメンのことしか頭にないラーメンリビドーモンキーだった。
 同年代男子との猥談で、
「お前さぁ、一日何回オナ、マスタベするよ?」
「えっ、オナ、自慰? うーん、普通に一回くらいかな?」
「そんなもんか。俺は多けりゃ二回かな。ダルは?」
「僕はね、オナニーを、三回、するよ」
 ダルは排精時の断続的なリズムのように言葉を区切って言った。
「ま、まじか。自慰そんなに」
「ダルくん性豪だなあ」
「ラーメンも毎食食べるし、なんならオナニーしてるときにもカップ麺食べるよ。逆もある」
「イカれてんなあ」
 呆れる級友たち。しかしダルは怒っていた。そして小刻みに震えていた。オナニーのことを自慰と呼ぶ級友に。そしてオナニーしかできないこの身の不甲斐なさに。
 その怒りがダルに奇跡を呼んだ。
「ダルくん!」
「ダル!?」
 突如としてダルは光に包まれ、忽然と姿を消した。唖然とする友人たち。彼の座っていた椅子には、まだ床オナならぬ椅子オナしてた時の温もりが残っていた。

『あらぁ、弱っちそうなニンゲンが召喚されたわねえ』
『わっ、ほんとだほんとだ』
『ん〜歩留まり悪しって感じ〜』
 ダルが目を覚ますと、周りを三体の異形が取り囲んでいた。胴体が人間で、下半身が百足のそれの化け物たち。
『ここは……』
 脳内に直接ファミチキテレパシーが聴こえる。
『うふふ、こんにちはニンゲンさん。私たちはセピナダ。あなたを食料兼種馬奴隷として召喚したの』
 彼女は長女の汚紫ュ(人には発音できない)
『えっとね、毎日かじかじして、ぬきぬきするからね。なるべく早くしなないでね』
 彼女は次女の在カ(人には発音できない)
『あーし的にはぁ、三日持てばいいかなって〜』
 彼女は夜穢ラ(人には発音できない)
 青い目に蒼い髪。灼火のごとく爛々と光る瞳。性的にも物理的な意味でも彼女たちは紛うことなき捕食者であった。
「やれやれ」
『じゃ、まずは右腕から頂きましょうか』
『いのちに、かんしゃ〜』
『あ〜い』

 それから数週間後。
『ッッッエシャイエセセセセセイ!』
『しぇーーす!』
『しぇ〜〜す』
『しゃす!』
 ここは濃厚百足ラーメン『異種姦ダル』セピナダ人外魔境洞窟店。今や押しも押されぬ人気店。
 ダルは無数のセピナダたちを従え、ラーメンを販売していた。
 寸胴にはむんむんにスープが炊かれ、カウンターには今か今かとラーメンを待ちわびるたくさんの百足人間たち。
『ダルさん! 時間です!』
 一人の若い目が血走ったセピナダが鬼気迫る勢いでダルに時間を報せる。
『もうそんな時間か。……スープ調整、開始』
『了解! スープ調整、開始します!』
 合図と共に岩を切り出した厨房が揺れる。
 職人セピナダたちの気合の入った掛け声がこだましたからだ。
 荒々しい手付きでスープから出汁ガラが掬い上げられる。
『節足投入』
『節足、投入します!』
 ガラの無くなった寸胴へ一斉にフレッシュなガラが投入された。
 それは節くれだっていて、巨大。
 赤と黒の特徴的な縞模様。
 どこからどう見ても、自切したばっかり、今まさに切り落としました感ほやほやの、セピナダたちの脚だった。
『よし。今日も子供たちは元気みたいだね』
『しぇす! おっしゃる通りっす! 旦那のおかげっす』
『自切はちゃんと規定内?』
『はい! ちゃんとまにゅある? 通りにやりました!』
『よしよし』
 ダルは満足そうに微笑む。セピナダたちにマニュアルの概念を取り入れるのは大変だった。妻たちを説得し、どうにか開店にこぎつけた。その苦労がこうして報われるのは感慨深い。
『じゃ、僕はもう上がるね』
『しゃす! お疲れ様でした!』
 ねじり鉢巻を取り、汗を拭う。洞窟の中だから蒸し暑い。換気もあまりできていない。汗臭い。でも、ある程度臭う方が妻たちには喜ばれるのだ。

『たまご孵った?』
 三人の妻たちにただいまと言う。今帰ったよ。
『お孵り』
『お孵りゃん』
『……』
 あれ、夜穢ラが孵ってないよ。どうしたの。
『あなた、この数日夜穢ラは卵食が酷くて……。産んでも産んでも片っ端から食べてしまうから、自食するようになっちゃったのよ』
『あのね、だのね、だからね、夜穢ラは自分の大事なところを食べちゃったから、話せなくなっちゃった』
 僕は夜穢ラのぷりぷりした曳航股にちんちんを擦りつけ、いったん排精した。
『卵はどのくらいある?』
『私と存カのを含めて九十億くらいかしら』
『でもでも、子供たちも、もういくらか孵ってるよ』
 よおし、そしたらまた子どもたちから節足もぎもぎできるね。茹でこぼしてもあまりあるくらいだ。
 安心した僕は、二人を誘って繁った。セピナダの巣は洞窟の深いところにある。そこで誰にも邪魔されず、暗闇の中、互いの昏い瞳を暖かな体温で包み合う。うねうねした胴体と赤黒い節足が交わると、身体がこそばゆい。それにハマって何度も繁ってしまった。
『……』
 夜穢ラが腕と節足と重要な器官を欠損させた状態で這い寄る。
『……』
 何かを言い寄る。
『君たちはたぶん雨を知らないんだろうね』
 ガラガラと音が鳴る戸、磨りガラス越しに見える雨音を聴きながら食べるクラシックなラーメンの素晴らしさを永劫に知ることはないのだろうね。
『ね〜ぇ』
 存カが口を大きく開けて、チャックが広がるように胸が裂けて、中身が裏返る。
 僕はそのまま中に収納された。
『啜るぅ』
 細い麺のような触手が全身に突き刺される。僕の血管に挿入されたそれは快感を得るために抽挿を繰り返す。
『汚紫ュ〜気持ち良い〜これ〜』
 存カはことさら気に入ったようだった。
『よかったわねえ』
 排泄と排精を繰り返し、新たな卵がぽんぽん胞からこぼれ落ちていった。
『……あ、あっ』
『まって、夜穢ラが何か言いそう』
 頭が半分欠けた夜穢ラは、あ〜う〜、と思考をなんとか巡らせているようだった。
『あっ、あ〜し、も、混ぜてぇー』
『わぁ、治った』
『あらあら』
 まろびでていた脳みそを頭蓋が覆い、その上から豊かな蒼髪が生える。
『夜穢ラ、自食もいいけど拉食も素晴らしいんだよ。それを知ったら、もう自分を食べようだなんて思わないよ』
『あんた自分を食べたことあんの? 適当なこと言わないで』
 卵をおもむろに掴み、僕の口の中に入れてきた。ふわっと口内でとろけた挙げ句、エクレアみたいに甘い稲妻が味覚を刺激した。
 

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