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詩集『ココロノオト』

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心音(ここね)の【詩】をまとめたマガジンです✨
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#人生

あの山の向こう

あの山の向こう

遠くにゆれる幾重もの稜線が

おいでおいでと僕を呼ぶ

あの山の向こう

淡い陽が

洩れてさしこむ 道なき標

今 惑いの空に映る

魂は

地上を離れ

すい込まれるように

あなたの元へ飛んでゆき

あまりの美しさに

はかなき明日は

この手をするりすべりおちていった

やがて

ふもとの闇に浮かびあがるは

あの日焦がれた

とわのゆめの城跡

光を求め

さまよい続ける

いつかの幻影

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ささやきが聴こえる

ささやきが聴こえる



水の音が聴こえる

風と共に揺れる緑や

濡れたあじさいの花たちが

いつもよりそばでささやきかける

昨夜からの雨も上がって

少し湿った土の感触を靴底に感じながら

あなたにさそわれ歩き出す

清々しく晴れた

ゆるやかな午後の公園

いつもより水かさを増した

流れる川を背にして

近くのベンチに腰を降ろしてみる

ゆっくりと呼吸するように

穏やかな風に吹かれる

太陽と空と木々の緑は

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運命の川

運命の川

目に見えない川が

私たちの前を

いつも流れている

あなたは向こう岸に立ち

西から日の光を浴びて

眩しそうに目を細める

私はそんな一枚の絵画を

ぼんやりと眺めているよう

目の前に広がる景色は同じでも

立っている場所が違う

それは

近くて遠い

永遠のような距離

時々

水面に降り注ぐ光の中に

うっすらと映り込む

美しい孤を描いた

今にも消えそうなかけ橋

こちらとあちら

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わたしのしごと

わたしのしごと

朝起こされるまで寝ていること

娘を起こし身支度をしてあげること

夫が用意してくれた朝食を食べること

三人であったかいお茶を飲むこと

夫と娘を送り出したあと

一人になって解放されること

溢れた心を文章にすること

わたしだけの楽園を創造すること

ひと段落したら

洗濯機を回すこと

寝室とリビングを片して

掃除機をかけること

少し冷めたお茶の残りを飲むこと

さっきより少しだけ整っ

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『わたし』

『わたし』

抵抗するものがなくなった途端
身体に力が入らなくなった

その時初めて
抵抗出来ることの安心感に気が付いた

自分を確認する
自分を主張する
自分を肯定する

こうやって自分という個人を
必死で守り続けてきたのだろうけれど
抵抗しなくてよくなった途端
自分がなくなった

身体がふわふわするような
つかみどころのない感じ
望んでいた世界だったはずなのに
奇妙な感覚に徐々に不安が襲ってくる

抵抗出来

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黄金の両手が伸びる先

黄金の両手が伸びる先

黄金に染まる砂地の湿り気を

足裏に帯びながら

煌々と燃えるいのちを浴びて

おとずれる静寂の律動

楕円の揺らぎ

そのためらいの虹彩は

語り合う波間をすり抜ける

いつかの記憶の戯れのよう

ときに暗雲に招かれ

虚ろな影に惑い馳せても

光の記憶 その断片は

見えない行路を滑り降り

いつもその手を差し伸べている

底の見えない黒

怯えるあの夜の轟きに

閉じこめられた涙の果てで

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満たされない穴の正体

満たされない穴の正体

寒い。

目が覚めると胸の真ん中が痛い。

じわじわと寂しさに支配されてしまいそうな

そんな痛みだ。

“何が寂しいんだろう?なにが悲しいんだろう?”

静かに身体の声に耳を傾けてみる。

「寒い。冷たい。」

両手でそっと肩を抱いてみる。

あぁ、原因はこれだったのか、とわかる。

“寒かったんだね。冷えちゃったんだね。”

身体から温もりが奪われると

胸の奥のみぞおち辺りが痛むようになって

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あなたの名前

あなたの名前

艶やかな両腕を塀に預け

豊かなその身を乗り出して

こっちを見つめている

つぶらなオレンジの瞳が

透明な風に撒かれて

おかえりと

今年も変わらず迎えてくれる

声にならないただいまは

祈りのように

静かに水面にこだまして

揺られる波紋を滑るような

あなたの羽に

優しくからめとられていった

いつからか

あなたの姿はなくなってしまって

かつて空き地だった居場所は

白くて真新

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