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小山陽子
2023年11月2日 12:45
小説は不思議だ。架空の人物が私の中で息づく。そして残り続ける。でも全てがそうじゃない。心に残る物は生きているものだと思う。その人物が、作中でどれだけ生きざまを見せてくれたか。感情を持ち、自分の心に従い行動し、懸命に生き抜く姿を見せてくれたかだ。それがないと、人物はただの駒になってしまう。私が「精霊の守り人」を好きなのは、登場人物が生きているからだ。呼吸どころか、躍動して暴れ回って
2023年10月18日 01:37
美味しいご飯の出てくる小説が好きだ。田辺聖子さんの小説「鏡をみてはいけません」は、主人公・中川野百合(のゆり)が朝食を作っているシーンから始まる。野百合は、小鳥の啼(な)き声の入ったテープをキッチンに流しながら、口笛を吹きつつトマトをむいてる。テレビのニュースはつけているけど、音声をほとんど絞っている。そこへ十歳の男の子・宵太(しょうた)が降りてきて、まだよく知らない同士の二人は、礼儀正し
2023年10月8日 09:31
夢やあこがれは青春時代に培われる。その源は、永遠に尽きることのない泉のように、こんこんと湧き出て心を潤してくれるものだ。夢を燃やし続ける人は強くやさしく、自分の心に正直で、また周囲への思い遣りにも溢れている。そんな人と人が出会い与え合い、作り出してきた時代の流れは、連綿と私達の住む「今」までつながっている。私は先人の財産を知らないうちに譲り受け、享受している。長々とすみません。この本を
2023年10月1日 16:13
紙の本が好きだ。年季が入り、少しくたびれて茶色くなった裸の文庫本が手に馴染む。ページを捲り、整列した文字に目を落とすと、たちまち本の中に引き込まれる。読むことはおもしろい。少しずつ、確実に文字を追ってゆく。「生きている」と感じる言葉に触れると心が踊る。小さな頃から何度も開いた本は、読むたび私に「生きている言葉」を教えてくれる。それは自分の大切な柱となっていく。「赤毛の
2024年2月21日 16:03
NHKの「100分de名著」という番組で、三島由紀夫の『金閣寺』が紹介されていた。『金閣寺』は半年ほど前に読み難しいと感じたが、そこに描かれている主人公・溝口の暗い内面には共感できる部分もあった。理解できない部分は多かった。ただ、何回も読み返すほどの熱意はなかったし、自分の周りにはもっと手軽な易しい本が溢れており、そちらの方が手っ取り早くワクワクできるのだった。底知れない何かを持って
2023年9月16日 01:48
自分の生きている限り付いてまわり、切り離すことのできない性質がある。それを呪い、疎ましく思い取返しのつかない引け目だと考えて苦しみながら抱えているうちに、その特質を持つ自分こそが世界から切り離された、特別な存在だと考えるようになる。その性質こそが自分だと自分には特別な役が与えられているのだとそれが唯一の存在証明だとでもいうように。アイデンティティーといっても、これは他
2023年9月5日 10:51
西加奈子さんの「サラバ!」。タクシーのお客さんに薦めてもらい、手に取りました。西加奈子さんはテレビで拝見して知っていましたが、彼女の本を読むのは始めてでした。すごく面白かったです。「サラバ!」は、ざっくり言うと一人の男性が、自分自身として生き始めるまでの半生を描いた物語です。主人公の男性がイランで産まれた瞬間から大阪・エジプトで育ち大人になっていくまでの過程を丁寧に描いてい