とても自己満足よりの読書感想文〜ただ、「アンのゆりかご」は面白いです

夢やあこがれは青春時代に培われる。
その源は、永遠に尽きることのない泉のように、こんこんと湧き出て心を潤してくれるものだ。
夢を燃やし続ける人は強くやさしく、
自分の心に正直で、また周囲への思い遣りにも溢れている。
そんな人と人が出会い与え合い、作り出してきた時代の流れは、連綿と私達の住む「今」までつながっている。
私は先人の財産を知らないうちに譲り受け、享受している。
長々とすみません。この本を読むと、
私達が知らず知らずのうちに貰っていた温かいギフトの存在に気付くのです。
そして何気なく働き、何気なく本を読み、物を考える。平和に生活する。その一つ一つが全て、そう遠くない過去、当たり前ではなかった事を確認し呆然とした気持ちにもなるのです。

この本は、村岡花子さんという明治に生まれた女性の伝記。彼女はクリスチャンの父親に連れられ、十歳の時、カナダ人宣教師が教師を務めるミッションスクールに編入した。
父は先進的な考えから、幼少期より学才の閃きを示した花子さん(当時の名:はな)に高等教育を受けさせようとしたのだ。
ミッションスクール、東洋英和女学校の生徒は華族など裕福な家の出のお嬢様が多い。花子さんは慣れない環境に置かれ戸惑いながらも、カナダ人女性宣教師から英語を学び、生活の基礎や美意識、心構えを厳しく叩き込まれて成長する。
彼女の実家は貧しく、兄妹たちは養子に出されたり十分な教育を受けられないなかひもじい思いをしている。その上で成り立つ女学校生活に重責を感じつつ(花子さんの責任ではないのだが)、花子さんは必死で英語を身につけてゆく。
図書館の洋書を辞書片手に読みふけり、いつしか宣教師の先生たちに一目おかれるほどの語学力を発揮するようになる。
翻訳家、児童文学作家の村岡花子さんの人生は、本書の序盤からうねりを伴い大きく大きく展開していく。

私の大好きな本「赤毛のアン」を翻訳した村岡花子さん。
モンゴメリの「緑の切妻屋根のアン」は1908年に発表され欧米でベストセラーとなった。それを「赤毛のアン」として日本で登場させたのだ。
村岡さんはアンの暮らすプリンス・エドワード島の生活、文化をよく理解していた。なぜなら彼女が青春時代に多くのものを教わったミッションスクールの教師たちはカナダ出身であり、モンゴメリと同じ時代・環境を生きた女性だったからだ。

村岡さんには、この物語を日本の子どもに届けるという強い意志があった。
第二次世界大戦が迫る中、祖国に帰らざるをえなくなった宣教師ミス・ショーから手渡された「赤毛のアン」の原本。
日本の人々、それから日本の教育に尽くしたカナダ人恩師たちの為に上質な家庭小説・児童文学を届けたい。
その思いで戦時中も翻訳を続けた、花子さんの心の強さは凄いと思う。それと同時に運命というか人に与えられた役割、天職の存在について不思議な気持ちで考える。

一貫して変わらない花子さんの情熱は、
仕事にも、私生活にも全力で注がれた。
聖書や讃美歌の本などの印刷業を手掛ける、横浜の福音印刷合資会社の御曹司・村岡儆三さんと二十代で出会い、恋に落ち結婚する。夫とのなれそめや、大恋愛の背景にあったもの、家庭を持ってからの花子さんの生活も時系列で整理され、明治・大正・昭和の歴史と共に個々人の心情を織り交ぜ丁寧に紡がれる。
ここまで花子さんに寄り添った視点で書けるのは、著者が花子さんの孫・村岡恵理さんであるという事が大きい。
寄り添いながらも冷静に、俯瞰で物事をとらえているのでとても読みやすく、また花子さんの執筆活動とその動機に影響を及ぼした出来事や人について、緻密に書いているのでその一つ一つに興味が湧き面白く感じた。

そして正直に言うと最初この本を手にとった時すらすらと読んでしまったのだが、そこに描かれる戦争や、子どもや女性を中心に書かれるのだが広く言うと人間のおかれた過酷な環境について思いを馳せる事はあまりしなかったように思う。
再度読んだ時に私がびっくりしたのは、この本に登場する人々に影響した大きく暗い陰の部分について。
家庭環境によって生きることもままならなかった子ども。(養子に出されたり他家に奉公する。孤児になる)
「家」の重圧と性別による役割意識に縛られた、当時の、何だかもうどうしようもない忍従。
(選択が狭められ、望まない生活を送る人の多さ。封建制・公娼制度によって虐げられた女性。戦争に出征した男性。)

この時代は何々がありました。忘れてはいけません、それだけじゃなくて、私達が生きていれば一度は感じた事のある不条理、たとえば自分が大人になってから親に感じた「これは普通に考えて理不尽だっただろ」というような不可解なねじれというか、仕打ち。それは元の元をたどれば、もしかしたら親の親、その親が体験した不条理や、植え付けられた大きな恐怖から生まれて、世代を越えて発露したものなのかもしれない。
それは今を生きる私達の心にも重く打ち込まれていく。(これは冒頭に書いたギフトとは非なるものです)
そう考えると恐ろしくなるし、たとえ年月が経っても、だれもが歴史とは無関係ではいられないのだなと感じる。
私には何ができるのか。すごく月並みな言葉だけどこれは教科書の話じゃない。
自分、そして自分の大切な人に関わる大切な問題のように思う。

この「アンのゆりかご」を読むと、
大きな陰の部分、ねじ曲がった制度や考え方に異を唱えて行動した人間の姿が見える。その人達はまっすぐに、自分の信じる道を決意と愛を持って進んでいる。
婦人参政権を求めて活動した市川房枝さんの名前は知っていたが、文筆活動、そして教育に携わり文化の力で世の中を変えようとした女性作家の多くを私はこの本で初めて知った。
これから少しずつ深く知っていきたいし、歴史や思想について考えることもしていきたいと思う。

花子さんの成し遂げた偉業はもちろんのこと、その人間性とか熱いスピリットに触れられるような一冊なので、
「赤毛のアン」や村岡花子さんに興味がある方は読んでみると面白いと思います。

今回は自己満足のような内容で
頭の中の整理と、ただただ書きたいという気持ちのままに作ったので
身勝手な部分があると思います、すみません。

ここまで読んでくれてありがとうございました。

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