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#ショートショート
黎明 #原稿用紙二枚分の感覚
見上げたところにちょうど、夏の大三角形が輝いていた。ミルクを撒いたような天の川が浮かぶのはそこだけで、あとは闇に溶けている。今夜は雲が多い。
海に出てからの時間をメモしていたが、記録したのは昨日まで。フェルディナンの手帳は、胸ポケットに仕舞われたままだ。
冷たい空気が吐息を視覚化させる。淡い星明かりのもとでは、それを見られるのも鼻先くらいまでだ。暗闇の勢力はそれほど大きい。籐で編まれたゴ
アスファルトの上の陽炎(ショートショート)
歩いても歩いても景色は変わらなかった。
右手に広がる青々とした田んぼ。前方に佇む山は霞んで見えた。
目の前のアスファルトは山に吸い込まれるように一直線に伸びていた。
ジ、ジジジーィ!
油蝉の鳴き声が尻すぼみに止んだ。
アスファルトには木の影が黒々と刻印されていた。
汗が左頬を伝わる。
左の眼下に白い砂のグラウンドが現れた。大学野球の練習場だ。
僕はカバンを置くと、捕手の人形のキーホルダーが躍った。