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『天使の翼』第12章~吟遊詩人デイテの冒険~

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サンス大公国の秘密警察機関SSIPのデビルハンター捜査に巻き込まれたデイテ、シャルル、ローラの一行は、指揮官クラレンス少佐の計らいでハイアンコーナまでパトロールエアカーに同乗させ…
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#シャルル

『天使の翼』第12章(44)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(44)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 ――まず、顔……シャルルの嘘つき!――彼、『犬』って言ったけど、全然違う……『馬』だわ!爬虫類的な馬顔?とても優しそうな顔……でも、鼻先に突き出た円錐形の角がかっこいい……
 ――胴体は、伝説の生き物、『竜』そのものだ……翼代わりの被膜があるって言ってたけど、今はたたまれているのか見えない……
 ――尻尾!長くてとても表情がある……わたしは、さっきからずっと動いていることに気付いた……大きな動き

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『天使の翼』第12章(40)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(40)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 「シャルルゥー!」
 地上にいるわたしは、喉よ裂けよとばかりに叫んでいた。
 SSIPのパトロール・エアカーの後部座席から、必死にわたしの方を振り返って、何事か絶叫しているシャルルのひずんだ顔が見える。
 SSIPの連中は,何故かわたしに気付かずにシャルルだけを連行しようとしている。恐ろしい拷問を加えるつもりなのだ……シャルルとて人の子、想像を超えた痛みには耐えられるまい。……秘密を守る為に、自

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『天使の翼』第12章(34)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(34)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 (シャルル……入れてくれたのね。このことあるを予測して……)
 本当によく気が回る、頼もしい。
 わたしの口角に自然と笑みが浮かんだ。それは、気持ちがまたポジティブになったから、そして、もう、シャルルがわたしを一人で行かせようとしたことは、確実だから。わたしは、その時、そばにいなくてもシャルルに見守られていることを、肌で感じていた。

 わたしが、湖の、不時着地から見て対岸にあたる地点に着いた

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『天使の翼』第12章(33)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(33)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 わたしは、立ち止まってしまった。
 (大問題だわ。わたし、何て馬鹿なの……)
 取りあえず、小休止。
 目敏く、椅子になりそうな岩を見付けて、ドカッと腰を下ろした。
 立ち止まると、10メートル程の波打ち際から、静かな波の音が聞こえだす……
 荷物を順番に全部おろして、水を一杯いただく……
 「ふぅー……」
 大きなため息。
 人間の性なのだろう、無駄と分かってて、自分のバッグの中を検めるわたし

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『天使の翼』第12章(21)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(21)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 (シャルルの気持ちになって考えるしかない――)
 何を伝えようとしているのか?
 ――まず、今の状況、「シャルルがいない」……これは、シャルルの意思によるものなのか、そうでないのか?……どちらであるかは、とても大切で、状況が全く違ってくる……
 ちょっと考えただけで分かった――直感的に。わたしは、それを認めるのが怖くて、無意識に、無駄に駆けずり回って、結論を先延ばしにしてきたのだ。冷静に考えれば

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『天使の翼』第12章(18)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(18)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 シャルルがわたしに何かを伝えようとしている。
 ……いや、まて、これ、本当にシャルルが作ったの?……わたし達が来る前からあったとは思えない……SSIPの連中がこんなもの作るはずがない、こんな繊細なものを……ローラらしくもない…………デビル・ハンター!……うーん、彼らだとしても、なぜこんなもの作る必要があるの、それも、わたしの横たわっていたくぼみの縁に――やっぱりシャルルだわ!……
 (何が言いた

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『天使の翼』第12章(17)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(17)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 (一応、グルメね……)
 SSIPの制帽……
 (わたしったら、こんなもの何に使うつもり……)
 ニードル・ガン、1丁。
 (……)
 わたしは、大きなため息をついて、自分で驚いた。
 遠くの空を見る。――今ならまだ間に合うかもしれないが、どこへ行くにしても、時間はどんどん過ぎていく……
 「シャルルは一体――」
 わたしは、思わず声に出して、そして、視界に入ったものにギョッとし、言葉を飲み込ん

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『天使の翼』第12章(15)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(15)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 実際にでこぼこの岩地を這いずり回ってみると、この中で何かを探すという事が想像以上に難しいと分かった。少し高い所から見えていたものも、いったん視界から外れてしまうと、なかなかその場に辿り着けない。わたしは、いつの間にかこの作業に没頭していた。
 最初の一つを見付けたのは、ほとんど当てずっぽうだった。
 ――SSIPの外套。……気障なデザインだけど……あったかそう……
 わたしは、少しためらったもの

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『天使の翼』第12章(14)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(14)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 少しは冷静さを取り戻したわたしの視界に、SSIPのエアカーから放り出されたと思しい機材などが、あちこちと見えてきた。パニックに陥っていてさっきまでは見えなったのだが、どうやら、この大雑把な『掃除』、SSIPのメンタリティーそのものの表れのようだ。
 シャルルはおろか動くもの、生き物の姿は何も見えない。……シャルルが偵察に出たのなら、付近に民家はないか、今夜をどこでやり過ごすかを探りに行ったとしか

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『天使の翼』第12章(13)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(13)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 わたしは、漠然とした違和感を覚えだしていた。――新しい状況に直面した時、『偵察』に出るのは、いつものシャルルの行動パターンだ……でも、何かが違う……
 他より少しでも高そうな岩の塊の上に登ってみる。強くはないが、風が冷たい……服は、乾くに任せることにした。下手に脱ぐと、かえって風邪をひきそう……。ここからだと、さらに多くの着弾点が確認できる。さっきまでは、岩の陰に隠れて見えなかった。着弾点そのも

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『天使の翼』第12章(12)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(12)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 空と遠くの山々に視線をやった。陽の光が弱ってきている……
 ――このまま無為に過ごしていては、この文字通り人里離れた僻地で、無防備に夜を迎えることになる。
 わたしは、何か大きな手でぐいと現実に引き戻された。
 ――陽が落ちると相当に冷え込むのではないか?
 ――いくら乾きやすいハイテク繊維だとはいえ、このまま濡れていては……
 ――今夜、どこで寝る?
 ――食べ物は?……水は!
 まず、シャル

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『天使の翼』第12章(11)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(11)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 動揺していたので射撃……いや、標的の数は分からない……七つ?八つ?……あのデビル・ハンターの襲撃で大混乱に陥ったSSIP部隊は、ほんの2、3機しか生き残れなかったのか……
 突然轟音が止み、わたしの見える範囲からは二本、白煙の上がっているのが分かった。
 大掃除をした哨戒艇は、まだ『ちり』が残ってないか確認するように旋回した後、悠然と去って行った。
 冷静に考えれば、もうこれでSSIPにとっては

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『天使の翼』第12章(8)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(8)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 ……この状況からして、前席にいた二人、フラージュ少佐とその副官は、死んだか、相当の重傷……いずれにしても、シャルルにこの二人を助け出す余力も時間も、さらに言うなら理由もなかったはずで……だとしたら……無事だったSSIPの隊員が二人の体を持ち去ったか、既にSSIPの救援隊が一度来ている!
 わたしの頭は、ようやく回りだした。
 (SSIPが、この墜落機を放置する訳がない!)
 わたしは、身震いとと

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『天使の翼』第12章(6)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(6)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 他に人工物、人影は見当たらない。空を見渡す。何も飛んでない……
 わたしは、もうしばらく待ってから、矢も楯もたまらず、エアカーに向かって走り出していた。わたしは、狭まった視界の中で、全身、自分自身の荒い息遣いと地面を蹴る靴音に包まれた。
 わたしは、どうかしていた。死を連想させる不安がパニックを起こしたのか……。わたしがシャルルに助けられたのだとしたら、あの沈みかけたエアカーにシャルルが乗ってる

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