財務モデリング Tutorial① - 3 Statement model to DCF/AVP
いままでnoteの記事では一般論を中心に書いていくことが多かったが、今回は実践的な財務モデルの作成に関して、財務3表モデルの作成からDCF/AVPモデルによるバリュエーションまでを順を追ってExcelの実際のモデルのScreenshot等を活用しながら解説していきたいと思う。
記事はモデル作成のStepごとに更新していくので時間はかかるが、最終的にcomplete versionが付属する予定である。
状況整理
あなたはある会社の買収に関して、意向表明書(Non-Binding Offer)に記載するOffer Valueを試算するように頼まれた。
まずは類似上場会社比較法・類似取引比較法(Comps Analysis)により対象会社が属する業界のマルチプル(EV/Revenue, EV/EBITDA, P/E)を計算し、さらにDCF法によるバリュエーションも実施する。
Comps Analysisは既に終えているので、次にDCF/AVP(Analysis at Various Prices)による分析を進めていくことになった。
事業計画は一部受領しているものの、原則財務3表が揃っているのは過年度の財務情報のみであるため、こちらで一定の仮定を立てて試算することとなった。
そのため、財務モデルをスクラッチで作成することになった。
Key steps of financial modeling
まずは、エクセルでの作業に取り掛かる前に以下の通りStepを整理する。
Step1:Formatの整理
まず財務モデル作成やvaluation workを進める際に重要なのが、使用するモデルのフォーマットの統一である。
IBDやFAS等のプロフェッショナルファームでは、モデルやプレゼンテーション資料作成の際のフォーマットの統一は基本であり、最初は厳しく指導されることが多い。
本ケースでは以下のようなフォーマットを各シートにおいて統一したいと思う。(これが絶対というわけではないが、選定されたCase・期間の標記等は統一し、シート間で移動してもずれが無いようにするのが基本)
英数字の標記統一
まず生データを除きモデルのWork sheetにおける書式は英数字はArial、日本語はMS P ゴシックで統一する。
また、基本的な事項として下記を定める
・財務数値は小数点は表記させず、百万単位
・ゼロは0と表記せず、バーで表示("-"と表示させる)
・Modelの表示期間:過去財務情報は年次のものしかないので、年次ベースで作成
・Margin等は小数点第1位まで表示
セルの書式設定は、Ctrl + 1 のショートカットで以下のように表示できる。
Excelの設定
循環参照によるエラーを防ぐために、Excelのオプションで下記の通り設定する。なお、DCFの感応度分析ではデータテーブルを使用するが、当該データテーブルを除き自動で計算するように設定するのが一般的である。
また、セル内の英数字の標記は下記がIB等でのルールである。
つまりセル内数値の色でハードコード(ベタ打ち)か、他のシートからリンクしているのか、シート内で計算しているものか即時に判断できるようにしなければならない。
上記をまとめると、青字はベタ打ち(過去数値、Control tabで使用するdriverの数値等)、黒字は同じシート内での関数式の計算、緑字は他シートからのリファレンス、赤字はWarning(他のレビュアーやモデルUserへ)、濃い赤字はCapital IQの関数を示している。
今回のモデルではCapital IQ関数のインプットは無視して問題ない。
セルに名前を付ける
モデル作成上、重要な所作として共通して使用する固有名詞や、単位はセルそのものに名前を付けることがある。
例えば、本モデルではProject名をFlowerにしている。Flowerという文字列そのものをnameとしておけば、プロジェクト名を標記する際に便利である
モデル作成上に使用する各ケースも、一旦”case"と名前を決めておけば、Operating modelでケースを表示させることが可能である。
Operating model上での標記例は以下の通りである。数式にて=caseと標記されれば選択したケースが自動的に表示されるようになっている。
Operating Model, DCF等のフォーマットを決定
フォーマット設定の仕上げとして、Operating modelやDCF,AVP分析のフォーマットを統一する。
今回は以下のようにケース、プロジェクト名、通貨、単位が明示されており、Calendar Yearと期首・期末の時点を把握できるようなフォーマットにしている。
なお、過去の会計期間はyyyy"A"(Aは実績を意味するActualの頭文字)、将来のProjection期間はyyyy"F"(FはForecastの頭文字)としている。これが絶対というわけではなく、次期予想数値はEstimateの頭文字をとってyyyy"E"とすることもある。
また、項目ごとの区切りは行ごとにxと印をつけて、Ctrl + 矢印キーで移動する際に項目ごとに停止できるようにする(以下参照)。行の終わりにはENDと表記するのが通常である。
次回以降のTodo - Step2: 過去数値の整理
DCFは将来の財務数値を基礎に計算するが、まずやるべきことはいきなり将来計画の財務数値を見ることでなく、過去の財務分析を行うことである。
ある程度成熟したライフサイクルにいる企業であれば、過去10年~20年間の財務分析を行うことによって、その企業の粗利率、EBITDAマージン、減価償却費とCapexの関係は一定の数値に収れんするものと考えられるので、まずは将来のProjectionを見る前にこれらの基礎的な数値をKey statsとしてまとめていく。
これらは具体的に次回以降の記事でまとめていく。