記事一覧
アルファポリス第五回キャラクター文芸大賞奨励賞受賞【壊れたアンドロイドの独り言】
あらすじ
若手イケメンエンジニア漆原朔也を目当てにインターンを始めた美咲。
目論見通り漆原に出会うも性格の悪さに愕然とする。
そんなある日、壊れたアンドロイドを拾い漆原と持ち主探しをすることになった。
しかしこれが美咲の家族に大きな変化をもたらすことになる。
アンドロイドが家族を繋ぐSFミステリー。
illust 匣乃シュリ様(Twitter @hakonoshuri)
「出ていけ! 二度と帰
「金魚屋の徒然なる日常 御縁叶冬の邂逅」 最終話 金魚と生きる生者の物語
八重子さんの店から金魚の通り道に入り、一歩出たら黒猫喫茶の中にいた。累さんの金魚屋へ通じる飾り扉から出てきたようだ。店内を泳いでいたのか、春陽がぴゅっと飛んで俺の右肩に落ち着く。
「ただいま、春陽。累さん、新しい金魚屋の店舗に行くんじゃないんですか?」
「まあまあ。とりあえずお茶とお菓子でも食べよう。雪人くんは魂の着床が不安定だから横になって。俺がいいって言うまで安静第一。いいね」
「はい。あり
「金魚屋の徒然なる日常 御縁叶冬の邂逅」 第三十一話 真野雪人との再会
「弔って目を覚ましたあとの選択肢は二つ。雪人くんはうちが引き取り、叶冬くんはすべて忘れて日常に戻る。もう一つは、叶冬くんも金魚屋になってしまう選択だ。そうすればすべて覚えていられる。ただし、金魚屋として働いてもらう」
「つーわけだ! さあ、かなちゃんどうする! 金魚屋になり生者としての己を殺すか、己の中のゆきちゃんを殺すか!」
関与を放棄したくせに、八重子さんはドンっと足を踏み鳴らして一歩前に出
「金魚屋の徒然なる日常 御縁叶冬の邂逅」 第三十話 魂の片割れ、真野雪人との再会
宮村さんに手を引かれて歩く八重子さんを先頭に、喫茶店の奥にあった扉をくぐった。扉を出た先は薄暗い廊下で、一本道を進むと『立入禁止』の札が掛けられた扉が見えてくる。
宮村さんは立ち入り禁止の扉を開けて中へ入ると、唐突に風呂場が現れた。首を左右に回しきらないと端が見えない広さで、一流旅館の大浴場と言って良いだろう。檜の良い香りがしていて、入浴すればとても気持ちが良いだろう。
宮村さんは靴と靴下を
「金魚屋の徒然なる日常 御縁叶冬の邂逅」 第二十八話 御縁叶冬の回想・真野雪人との再出発
車で十分ほど走ると、一軒の日本家屋の前で停車した。卓也さんとゆきは車を降りる、インターフォンを押すと数秒で玄関は開かれる。
「いらっしゃい。待ってたよ、卓也くん、雪人くん。大変だったね」
中から出てきたのは、御縁神社の神主で、紫音ちゃんの父親である聖人さんだった。
「有難う、聖人くん。迷惑をかけてすまない」
「かまわないよ。さあ、上がって。マスコミに見つかると厄介だ」
ゆきはぺこりと一礼する
「金魚屋の徒然なる日常 御縁叶冬の邂逅」 第二十七話 御縁叶冬の回想・金魚になった藤堂叶冬
次の瞬間、ひやりとした空気に身を震わせて目を覚ました。
周りはぐるりと巨大な水槽に囲まれていて、その中では数多の金魚が泳いでいる。差し込む光を跳ね返す様はルビーのようだった。眩さに魅了され手を伸ばす。いや、伸ばそうとしたけれどなにも動かない。
(なんだ? 身体が動かな――あれ? 声も出ない。なんで?)
立ち上がろうとしたけれど脚が動く気配はなく、代わりに動いた物があった。景色がすうっと視界の
「金魚屋の徒然なる日常 御縁叶冬の邂逅」 第二十六話 御縁叶冬の回想・藤堂叶冬の死
俺の生まれた藤堂家は、平均的な一般家庭よりも貧しかった。小学生のころに父が事故で死亡し、収入に乏しかったからだ。母は「私が働くから大丈夫よ」と言っていたが、中学に上がったころ、この人では無理だと判断した。
母は学のない人だった。生家も貧しくて中卒で働き始めたそうだが、学歴がなくとも優秀な人はいる。地頭が悪いのだ。思考能力が低く判断力もない。内向的な性格なので自己主張ができず流されやすい。パソコ
「金魚屋の徒然なる日常 御縁叶冬の邂逅」 第二十二話 金魚に救われた生者の行方
当時の状況からしても、金魚が関わるのは鹿目さんが妹さんを亡くしたことだろう。本来なら興味本位で足を突っ込んでいいことではないけれど、鹿目さんは微笑んでくれた。スマートフォンに表示されたままの妹たちの画像を見つめている。
「あのころ僕は妹の死に囚われていた。妹が死んだのは医療ミスでも失敗でもない。手術後の拒否反応のせいだったんです。妹に手術を勧めたのは私。私が桜子を……殺したんです。とても生きる気
「金魚屋の徒然なる日常 御縁叶冬の邂逅」 第二十一話 金魚屋を知るもう一人の生者
俺と店長は、鹿目浩輔がいるという北条大学へ来ていた。特筆する物のない校舎で、パラパラと生徒らしき若者が歩いている。開門されていて、警備員が一人立っているがそれだけだ。普通だ。普通じゃないのは、むしろ俺たちだ。
「店長。着物は脱ぎませんか。不審者でつかまります」
「いやだね! これは金魚屋の活動だ。正装する!」
「目立ちすぎですって。学校関係者じゃないってバレたら問題になりますよ」
「堂々としてり
「金魚屋の徒然なる日常 御縁叶冬の邂逅」 第二十話 消えた思い出の輪郭
土曜日の朝八時すぎ、俺と店長は新幹線『のぞみ』に乗り新大阪を経由して芦屋へ向かった。新大阪駅で神戸線に乗り換え、芦屋駅からタクシーも使って、東京から計四時間ほど移動してようやく到着した。
「北条大学付属病院。ここが僕とゆきの入院した病院だ。アキちゃんは来たことあるかい?」
「ありません。名前も初めて聞きました。実は知ってる病院だった、とかを期待してたんですけどね。なにから調べますか? 金魚屋は確
「金魚屋の徒然なる日常 御縁叶冬の邂逅」 第十九話 謎の金魚鉢と消えた親友
「紫音が家事と掃除をやってくれてるんだ。もちろんお小遣いをあげている!」
「いらないって言ってるんだけどね。時給千五百円なの」
紫音ちゃんは笑っていたが、気まずそうにも見えた。
店長は以前「紫音に手を出したら容赦しない」と、なにもしていない俺をけん制していた。可愛がっているのは明らかで、それだけに、空飛ぶ金魚なんて怪しい話に巻き込むのは不思議な感じがする。
「それじゃあ説明しよう! それでは第