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アルファポリス第五回キャラクター文芸大賞奨励賞受賞【壊れたアンドロイドの独り言】

あらすじ

若手イケメンエンジニア漆原朔也を目当てにインターンを始めた美咲。
目論見通り漆原に出会うも性格の悪さに愕然とする。
そんなある日、壊れたアンドロイドを拾い漆原と持ち主探しをすることになった。
しかしこれが美咲の家族に大きな変化をもたらすことになる。
アンドロイドが家族を繋ぐSFミステリー。
illust 匣乃シュリ様(Twitter @hakonoshuri)


「出ていけ! 二度と帰ってくるな!」
「こっちから出てくわよクソジジイ!」
 その日、久世美咲(くぜみさ)は家を追い出された。
 事の発端は美咲の長期インターンシップが決まったことだ。それ自体は両親も祖父も喜んでくれたが、問題はインターン先企業にあった。
 インターン先は美咲の憧れである『株式会社美作ホールディングス』という企業で、アンドロイド開発世界最先端の一角だ。一流企業ということもあり、四十歳を目前にしても少女のような母はきゃあきゃあとはしゃいで喜んでくれた。だがアンドロイド嫌いの父はろくに口を聞いてくれなくなり、おはようの挨拶すら帰ってこない。
 だがそれだけならまだ良かった。祖父は親の仇のごとくアンドロイドを憎んでいた。インターンを辞めて進路を変えない限り敷居はまたがせないと言って美咲を放り出したのだ。家が父か母の持ち家ならともかく、祖父が建てた祖父の家のため手も足も出ない。
 だがそんな事でようやく掴んだ憧れの企業へのインターンを諦めるわけにはいかない。美咲は一人暮らしを決心したが、勉強ばかりでバイトもろくにしていなかったので部屋を借りるお金はない。それに、これからは勉強とインターンでさらに忙しくなるのだから家賃と生活費のためのバイトなどしていられない。
 どうしたものかと悩んでいると、母がこっそりマンションの一室を用意してくれた。何でも死んだ祖母がオーナーだった賃貸マンションがあり、今は母が管理人をしているらしい。
「ほんとに!? 家賃は!?」
「いいわよぉ。その代わり管理人代理やって~。アンドロイド可のマンションなんだけど、お母さんよく分からなくて」
「それくらい全然やる! 有難うお母さん!」
 祖父のやりようもそれを止めない父にも呆れたが、一人暮らしに憧れもあった美咲はこれ幸いと一人暮らしを始めた。海沿いで景色が良く、しかも十五階だから見晴らしも良い。これはなかなか悪くないぞと楽しい日々を送っていた。
 しかし、問題というのはどこに行っても起きるものだ。
「おはようございます。管理人代理さん」
「……おはようございます」
 朝七時半からインターフォンを鳴らしてきたのはマンションのボス――ではなくママさん方のリーダー的女性だ。管理人代理なんてさしてやることも無いだろうと思っていたのだが、この女性が曲者だった。
「ちょっとゴミ捨て場が困ったことになってねえ。見てほしいんですけども?」
「あ、はい……」
 断るとあとが余計面倒だとこの一ヶ月で学んだ美咲は大人しくゴミ捨て場に引きずり込まれることにした。どうせまたこっちのゴミ袋が破れてるだの匂うだのという苦情だろう。ため息を吐きながら女性の指差す先を見ると、美咲は思わず息を呑んだ。
「……アンドロイド?」
 それは華やかで整った顔立ちの男性型アンドロイドだった。手足のアタッチメントは細くしなやかで、髪は黒めのブルーグリーンというデフォルトでは見ないカラーだ。
「美咲ちゃんのじゃなあい?」
「私アンドロイドなんて持ってないですよ。アンドロイドは廃棄手続きするか販売元に連絡してください」
「まあ、やっぱり専門家ね! じゃあそれお願いね」
「え? 私がやるんですか?」
「当り前でしょう。こういうのは管理人さんのお仕事。あなた代理なんでしょお?」
 何だかもっともな返しをされてしまい美咲は言い返せず、黙ってしまったがその隙に女性はサァッと去って行った。あまりにも綺麗な押し付け――立ち去り方で呆れ果てた。せめて協力くらいしてくれてもいいのに、とぶつぶつ文句を言いながらアンドロイドを覗き込んだ。
「綺麗な顔してるしエンターテインメント用かな。ちょっと顔立ち古いけど」
 アンドロイドは用途によって造りが違う。家事をやるのは家庭用アンドロイドと総称されるが、見栄えよりも実用性が重視されているため顔立ちを整えるのは二の次だ。
 華やかで整った顔立ちの方が人気はあるのだが、見た目重視のパーツを用いると眼球パーツの稼働領域が狭かったり、線の細いアタッチメントではあまり重い物を持つ事ができないといった実働面のデメリットがある。そのため外見が整ったアンドロイドは主にエンターテイメント領域で活躍するが、おそろしく高額のため一般には出回らない。
「……調べてから廃棄でもいいわよね」
 初めて見るアンドロイドにわくわくして、美咲はにやりと笑みを浮かべて台車に乗せてスタッフルームへと運び込んだ。



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