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【連載小説 最終話】子どもたちの眠る森EP.17
(ep.17 太陽の君へ)
みなさま、最後まで読んでいただきありがとうございます。私の名前はルーナリア・アルジェント申します。そうです、ルーナです。
実はこの物語は、私が書いた物語なのです。
自分で書いておきながら、もっとも愛する物語だなんてナルシストもいいところだと言われてしまうかもしれませんが、それほどまでにソーレと過ごした時間は私にとって忘れられないものでした。
この物語は、ソーレから
【連載小説】子どもたちの眠る森EP.16
(ep.16 最南端)
僕は今、車に揺られながら、小さくなる16年住んだ街を眺めている。
父の仕事の都合で、僕らはタニル国の最南端、クオーレ第10地区へ引っ越すことになった。
父は昇格し、これからはより王政と密接に関わり仕事をするのだと話していた。これから暮らす第10地区には、紫色の花が海のように広がる場所があるという。
ソーレとは、ノートを受け取ったあの日以降、会えていない。
足を見つけ
【連載小説】子どもたちの眠る森EP.15
(ep.15 夢を叶える)
飼っていた猫が亡くなった。真っ白な毛に、耳の中と鼻はピンク色の可愛らしい女の子で、4歳の僕はデイジーと名づけた。老衰だった。
痩せ細った父は、僕に死骸が入った袋と木の苗を渡してきた。
昔父が住んでいたドレシア国では、飼っていた動物が亡くなったら、木の苗と一緒に埋める風習があったという。たとえそれが老衰であっても、命を奪った罪は大きく、そうしないと天から罰を受けると
【連載小説】子どもたちの眠る森EP.14
(ep.14 月光の、その先へ)
3日後の木曜日、夕方6時。
僕は宛名のない手紙を握りしめ、森へ向かった。ピオは「僕たちに気づいた誰かが、はめようとしてる可能性もある」と言っていたが、僕はこの手紙の主が誰なのか、おおかた予想はついていた。
蛍を見にきた時も、同じくらいの時間だった。
泉に着くと、手紙の主はまだ来ていないようだった。そしてあの日見た黄色の光も、まるで全てが夢だったかのように、そ
【連載小説】子どもたちの眠る森EP.13
(ep.13 隠された場所)
"タニル国の地図"
商人の言葉で僕たちはひらめいた。僕は地図を一度も見たことがない。この国がどんな形で、どのように区切られているかなんて今まで興味がなかった。
僕たちは中央の森を出て、まずはその地図を探すことにした。空は太陽が西に傾き始めていた。
「ピオ、僕は今から水汲みに行って、母さんの手伝いをしないといけない。明日は農地に行くの?」
「ううん。明日は行かない
【連載小説】子どもたちの眠る森EP.12
(ep.12 煉瓦の古城)
ノエミに教えてもらったラベンダーの咲く場所へ行った。ラベンダーは枯れたのか、誰かによって引っこ抜かれてしまったのか、そこにはもう咲いていなかった。水いっぱいのタンクを抱えて、帰り道をひとり歩いていく。
その日は突然やってきた。
月曜日、いつものように僕とノエミは川へ水を汲みに行き、帰りに少しだけ話をしてそれぞれの家に帰った。最後に見たノエミは、笑って手を振っていた。
【連載小説】子どもたちの眠る森EP.11
(ep.11 靴擦れした足)
繋がったふたつの影が伸びていく。
枝葉の隙間から月の光がこぼれて、森の入り口をポツポツと照らしていた。僕の体が冷えていくのとは反対に、ノエミの手のひらはびっちゃりと汗をかいていた。
「ノエミ大丈夫?怖い?」
「こ、怖くない!平気だから‥‥」
ノエミは横を向いてそう言った。ノエミが目を合わせない時はたいてい何か隠している時だ。きっと怖いけれど自分から誘ったからと
【連載小説】子どもたちの眠る森EP.10
(ep.10 選択と取引)
「ルーナ様、明日からは私が1人で森へ参ります」
それはダウンタウンパルコへと向かう車中で告げられた。突然だったのと、あまりにシンプルに伝えられたので、この言葉がなにを表しているのか、すぐには理解できなかった。
「え?僕も行くよ。苗植えはお父さんから頼まれた大切な仕事だから」
「フェデリーコ様からの伝言です。苗植えはこれから私が1人で行います」
「‥‥どうして?僕
【連載小説】子どもたちの眠る森EP.9
(ep.9 3年間)
僕は15歳になった。気づけばもう、あれから3年が経った。
ちょうど3年前のこの頃だろうか。街全体がサウナのように蒸し蒸しとしたあの日、僕たちは中央の森で出会った。一緒に過ごしたのは4ヶ月ほどだった。でも僕は、これから先もずっと、ルーナと過ごしたあの日々を忘れることはないだろう。
なぜいきなり思い出話のようなことをしているのか。そしてなぜいきなり3年の月日が流れたのか、説
【連載小説】子どもたちの眠る森EP.8
(ep.8 足を探すゲーム。そして、変わっていく)
誘拐情報 :
昨日15時ごろ
セラタ第3地区に住むブリッグくん
その記事は思っていたよりも早く出た。僕と同い年くらいの、赤いシャツがよく似合う男の子だった。
新聞に載る誘拐事件の記事は、年々小さくなっていった。事件が起きた当初は、見開きの4分の1を占めていたのが、5年が経った今では、端っこに誘拐日時と被害者の名前が載るだけになった。その