【連載小説 最終話】子どもたちの眠る森EP.17

(ep.17  太陽の君へ)



みなさま、最後まで読んでいただきありがとうございます。私の名前はルーナリア・アルジェント申します。そうです、ルーナです。
実はこの物語は、私が書いた物語なのです。
自分で書いておきながら、もっとも愛する物語だなんてナルシストもいいところだと言われてしまうかもしれませんが、それほどまでにソーレと過ごした時間は私にとって忘れられないものでした。

この物語は、ソーレから預かった9冊の日記を参考に書きました。ソーレは僕と出会ってからのこと、主に自分のその時の感情について細かく残してくれていました。ノートを開くと、まるでソーレと話しているようでした。

私は17歳になりました。あの日以降、ソーレとは会えていません。私も中央の森から遠く離れた地区で暮らすことになり、それ以降行けていません。私は、ソーレの住所をどこにも残しておかなかったことをとても後悔しました。住所が分かれば、手紙のひとつでも書けるのですが。ソーレの家には、大金が届いているはずです。今どこで何をして、何を感じて生きているのか、私にはなにも分かりませんが、家族と、友人のピオくんと幸せに暮らしていると信じています。

ここからは、みなさまには申し訳ありませんが、ソーレへの手紙のつもりで書こうと思います。

ソーレ、元気にしてるかい。君から預かったノートを何度も読んだよ。そして僕は思い出すんだ。ノエミのナイフから僕を守ったあの日の君を、暗い森の中を走り回った日々を。
あの頃の僕らは、まるで宝物を探すように足を探した。もし生まれた国が違ったら、僕らが探したのは、カブトムシとか丸い宝石みたいな石だったんだろうな。森の中じゃなくて、きれいな公園でボールを投げながら遊んだだろう。
この世界で生きるには、僕らはあまりにも、幼く純粋で、美しかった。

でも、僕はもうすぐ18歳になる。いよいよ父の下で王政の仕事に携わるんだ。
ある日グラートが僕の部屋に来て話したんだ。本当に王政の下で働くのかって。今更何言ってんだって僕は思ったよ。でもグラートは真剣だった。この先に進むともう戻ることは出来ない。不要なものはこの世から消さないといけないし、常にその選択が僕に付きまとう。これに僕が耐えられるのか不安だと、そんなことを言ってきたんだ。まったく、いつまで経ってもグラートは過保護なんだから、僕はおかしくて笑ってしまったんだ。でも、世界で働くということはそれほどに大変なことなのだと思う。

少し前に、父がこれから僕が関わることになる仕事について少しだけ教えてくれたよ。それは「人類育成計画」という名前がつけられたあるプロジェクトらしい。父がそれに、深く関わることになったのは僕が14歳の時らしい。
7年前に起きた戦争で、タニル国は大きな被害を受けた。このままだと国が潰れてしまうという状況に陥った時、あるひとつの国からこのプロジェクトを持ちかけられたらしい。これに協力するなら、今残っている国土は守ってやると。
そしてこれは、戦争によって障害を抱えた人、例えば臓器不全で命が長くない人を助ける重大なプロジェクトなんだと父は言っていたよ。

今の僕らは非力で何もできなかった、変えられなかったあの頃の僕らとは違う。僕はこれから、この世界を変えてみせるよ。
君と僕が、みなが平等で、幸せも苦しみも分け合って生きていける世界を作ってみせる。

もしまた会うことができれば、10冊目のノートをぜひ読ませて欲しい。きっとそこには、君が知るこの世界の全てが書いてあるんだよね。

僕らがまた巡り合うその日まで、
太陽のような君が暗闇を知ることなく輝き続けることを、僕が今日の月のように闇に隠されてしまっても道を見失わないことを、心から願っている。

太陽の君へ、愛を込めて 月の子どもルーナリアより



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