【短編小説】高級時計
男は有名になりたかった。
男は、自称、物書きのはしくれであった。
テレビの中では、若いイケメン脚本家が悠々と仕事について語っている。
しかし男は、見た目にはこだわらなかった。
風呂は3日に1回しか入らず、無精髭の冴えない顔に毎日同じ服を着て歩いた。
きれいな容姿などなくとも、自分の実力だけで有名になれるはずだと、信じて疑わなかった。
男が、いつものようにビニール袋をぶら下げ、商店街を歩いていると、新しい時計屋ができているのを見つけた。
男は引き寄せられるようにふらっとその店